学生自身の手で被災地を支援するために
復興ボランティア団体「スタ学」を再建
現代福祉学部臨床心理学科3年 日高純菜(ひだかじゅんな) さん
「東北の力になりたい」----被災地へ通うこと13回。継続的支援に取り組んできたのが、現代福祉学部臨床心理学科3年の日高純菜さんです。
「東日本大震災から5年が経過し、風化が課題となっています。東京では、震災のニュースがテレビで流れることや、日常生活の中で話題となる機会も少なくなってきました。ですが、被災地は瓦礫こそ撤去されたとはいえ、約20年かかると言われる生活再建はまだ途中段階。私たち大学生にも被災地のために何か出来ることはないか、模索し実践したいという思いで取り組んできました」
1月末に開催した「大餅つき大会」。最後に餅まきを行い盛り上がった
被災地支援にご協力いただいた仮設住宅自治会の方や湯浅教授(左)らと(右からさ3番目が日高さん)
学生自身が主体的に被災地の継続的支援を行うために
1年次の2013年には本学現代福祉学部主導の「遠野プログラム」(※)に参加し、2年次には代表者の一人として同プロジェクトをけん引。3年次には学生主体で被災地支援を継続したいと、社会活動家でもある湯浅誠教授の協力の下、学生に可能な支援の形を考え、実行に移すとともに、2015年春には2011年創設の復興ボランティア団体「スタートしよう!東京の学生にできること」(通称、スタ学)の代表を引き継ぎ、再建に尽力。被災地での現状や、それまで実行してきた活動内容を学内やSNSで発信して、仲間を14人まで増やしました。岩手県釜石市の甲子町B仮設団地(以下、甲子仮設)では、自治会の方々とスタ学が協働して、3回のイベントを企画し実施。支援プロジェクトを2016年1月に無事成功終了させ、スタ学代表も次期代表へ継承。最後の交流イベントとなった1月24日(日)の「大餅つき大会」は既に他地域に移住した元住民の方や周辺の仮設住宅の方々を含む約50人が参加し、その様子は復興釜石新聞でも大きく取り上げられました。
毎日新聞社での学生記者経験を生かして発行した『かまたま新聞』。釜石の"かま"と多摩キャンパスの"たま"との造語で、互いを知るツールとしてイベント告知のほか、法政の紹介も行っていた
「甲子仮設は2016年の夏頃に集約され、なくなることが決まっています。ですが、自治会の方々は、引っ越して離れ離れになっても、住民の方々にとって仮設住宅が"第二の故郷"のような場所であってほしい、という想いを持っていらっしゃいました。そこで、コミュニティーの結束を図るきっかけにもなるイベントの企画に、私たちスタ学が微力ながら協力させていただいたのです。どのようなことが喜ばれるのか、どんな関わり方が交流を育むのか、授業期間中も自治会の方と電話やメールでやり取りし、スタ学メンバーの役割分担や進行管理などの準備を重ね、イベント開催前は打ち合わせのために現地に赴きました。活動の充実化とスタ学メンバーの負担軽減のために助成金申請などもしていたので、2015年度は目まぐるしい毎日でしたね」
※ 現代福祉学部が2011年度から岩手県遠野市と連携し、「まちづくりと被災地支援」を目的に、毎年夏と冬に各10日間前後で現地の方々との交流や復興に向けた提案などを行っている「域学連携遠野プログラム」、通称「遠野プログラム」
他者の心に寄り添える人間になりたい
1、2年次は週3回、授業後に市ケ谷キャンパスに通うほど熱心に活動していたオーケストラサークル・法政大学交響楽団。担当楽器はホルン(左)
「姉の影響で始めました」という毎日新聞社の学生記者。日高さんの記事がこれまで度々紙面で掲載された。写真は会議風景
東京生まれ東京育ち、縁もゆかりもなかった東北。「臨床心理士になることを目標に現代福祉学部に進学し、実際に被災地を訪れる前までは、被災者の方々と接することに、大きな不安を感じていました。さまざまな思いを抱えていらっしゃる方にどんなことをお話しすればいいのか分からなかったんです。気軽に発した言葉が相手の心を傷つけるようなことがあったらどうしよう、と困惑さえしていました」
しかし不安な気持ちは、意外とすぐに軽くなったと言います。「初めて仮設住宅を訪れた際、住民の方々は、何の役に立つこともできない私に現地の状況など色々なことを教えてくれました。『若い子と話すと元気が出る』と言って、笑顔を向けてくださるご高齢の住民の方もたくさんいらっしゃって。2回目に行ったときには『前に紫色のストールをしていた子だよね』と覚えていてくれて、とても嬉しかったです。仮設住民の方々と交流を重ね関わりが深くなっていくにつれ、『この人達のために、自分にできることをもっと探したい』という気持ちは大きくなっていきました」
さらに、被災地の方に将来の夢を後押ししてもらったこともあったのだと言います。「臨床心理士という狭き門に挑戦することに戸惑いを感じていた時期、被災地を訪れた際にある男性が、震災時に津波に巻き込まれながらも1本の木につかまって一晩過ごし、九死に一生を得た話を打ち明けてくださいました。その上で『震災後に臨床心理士など専門家と言われる人たちが多く来たけど、本当に私たちの心をわかってくれる人は少なかった。あなたには悩みを抱えた人の心を変えられる人間になってほしい』とおっしゃってくださいました。その言葉で、夢へ向かって再び一歩を踏み出せたんです」
被災地支援の他に、さまざまな課外活動やボランティア活動を同時に行い、忙しい日々を送ることも多かった日高さん。「大変なこともありましたが、協力してくださる被災地の方々、支えられてくれる仲間、アドバイスしてくださる先生や先輩方がいらっしゃったからこそ、活動を続けてくることができました。私を動かす原動力になっているのは、何よりも周りの方々への感謝の気持ち、ですね」
現在は「スタ学」代表を退きましたが、研究活動が盛んになる4年次、その後予定している大学院へ進学後も「頻度は減ってしまったとしても、被災地との交流は続けていきたい」と言います。「被災地の方々が仮設住宅から復興住宅に移れば、生活が変わり、今まで仮設住宅で作り上げてきたコミュニティーが壊れるので、新たに数々の課題も発生してきます。そんな心身両面で大きな負担がかかる中で、懸命に生きていく人たちのことを、私は常に心に留めていたい。そして、継続的に被災地を訪れることで『今も被災地のことを忘れていません。応援しています』というメッセージはずっと伝え続けていきたいと思います。また、私自身が被災地で感じたことや現状を発信することで、被災地に少しでも多くの方が関心を持ってくださればとても嬉しいです」
- 現代福祉学部臨床心理学科3年 日高純菜(ひだかじゅんな)
臨床心理士を目指して本学現代福祉学部に進学。交響楽団でのホルン奏者や毎日新聞社での学生記者を務めながら、被災地を訪れ、学生自身が継続的かつ柔軟に支援活動を行えるよう、復興ボランティア団体「スタ学」を再建してきました。現在は小野純平教授ゼミに所属し、臨床心理学を中心とした各種心理学の研究にまい進。日高さんは「人生を掛けて人の気持ちに寄り添っていくことが、自分らしい生き方」と語っています。
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