よき師よき友つどひ結べり〜佐藤春夫と法政大学校歌〜
大正末から昭和初期にかけて高揚した愛校心運動「法政スピル(スピリットの意)」を反映した本学校歌は、大正・昭和の文豪、佐藤春夫が作詞したものです。
佐藤春夫の肖像写真(1931年の卒業アルバムより)
佐藤は、1892(明治25)年、和歌山県東牟婁(むろ)郡新宮町(現在の新宮市)の開業医の家に生まれました。幼いころから詩歌を愛唱し、中学卒業後は慶應義塾大学予科に進学して、永井荷風や与謝野鉄幹に師事します。
近代的な倦怠(けんたい)感を表現し注目を集めた『田園の憂鬱』(1919)により小説家として、更に詩集『殉情詩集』(1921)で詩人としても名を知られるようになりました。その著作は紀行文から戯曲や随筆、評論、さらに童話、外国児童文学の翻訳などバラエティーに富んでいます。
佐藤は1929(昭和4)年9月、本学予科講師として「毎月一回は講話に行き、一回は三十人ほどの作文を見る」ようになり、「夏目先生門下の諸先輩」が教授陣として活躍する大学に迎えられたことを父宛の手紙で報告しています。
着任間もない11月、応援団の学生を中心として「新学生歌作成準備委員会」が設立されます。それまでの校歌「名大いなれ法政」(現在の行進曲)に代わる、新しい時代にふさわしい校歌が待望されたのです。当初は、学生の応募作から選考する予定でしたが、最終的に、作詞は佐藤に、作曲は指揮者・作曲家の近衛秀麿に委任することになりました。
1930年の卒業アルバムに掲載された、3番まである幻の校歌歌詞
校歌披露の際に使用された楽譜(法政大学応援団寄贈)
ところが、佐藤が発表した当初の歌詞には「勤勉快活 高邁(まい)明朗 世紀の道に 刈るや荊(いばら)」など硬い表現が並び、近衛が「これでは作曲できぬ」と返したなど、2人の間で何度も衝突を経て完成に至ったといいます。
1930年の秋、神宮球場でこの新校歌の応援を受けた本学野球部が東京六大学野球で初優勝を達成。翌年1月23日付の『法政大学新聞』紙上で、歌詞・楽譜とともに、新校歌として公に発表されました。以降、本学が戦時下の苦難を乗り越え、戦後、新制大学へと発展した後も、この校歌は学生や卒業生たちに脈々と歌い継がれて現在に至っています。
在職期間はわずか4年でしたが、佐藤は本学の校風を校歌の歌詞に留め、「よき師よき友つどひ(い)結べり」と、学生と教員がともに法政を盛り上げる主役であることを高らかに示してくれたのです。
取材協力:法政大学史センター
(初出:広報誌『法政』2019年4月号)
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