内田百閒(うちだひゃっけん)と法政大学
晩年の百閒の写真と、その裏面の自筆。本名の「栄造」と、別号「百鬼園」のサインを見ることができる。内田百閒は、1920(大正9)年~1934(昭和9)年まで本学予科教授を務めた。
ドイツ語劇「ファウスト」の一場面。百閒が訳読を、ドイツ語会話講師のカール・グセルが発音を、当時新劇運動に参加していた関口存男(つぎお)が演技とセリフを指導した。
版画家・谷中安規(たになか・やすのり)の装丁による随筆集『琴と飛行機』(昭和17年)。
百閒は、酒、煙草、鉄道、猫、小鳥、琴などを愛したが、特に琴は「春の海」などの作曲者として知られる宮城道雄に大正9年来、師事し、師弟関係から後年は親友となった。宮城道雄との交流を描いた多くの随筆を残している。
幻想的な小説や、「一度読んだら病みつきになる」といわれるユーモア精神に富んだ随筆で、コアなファンが多い内田百閒(1889~1971、本名内田栄造、別号百鬼園)。頑固で偏屈かつわがままな人物として知られる一方、茶目っ気やユーモアもあって、自宅「三畳御殿」の庭にある茶室を「禁客寺(きんかくじ)」と名付け、入口に「世の中に人の来るこそうれしけれ とはいうもののお前ではなし」と貼り紙したのは有名な話です。
岡山市の造り酒屋の一人息子として生まれた百閒は、地元の旧制中学時代から夏目漱石に傾倒し、六高を経て東京帝国大学独文科に入学してから、漱石山房の「木曜会」メンバーとなり、芥川龍之介とも親交を深めます。漱石の死後、陸軍士官学校などでドイツ語教師を務めるかたわら、森田草平らと漱石全集の校正などをしていましたが、漱石山房で知り合った野上豊一郎(後の本学総長)に推され、1920(大正9)年、新大学令により発足した法政大学予科のドイツ語担当教授となりました。
この翌年、百閒が最初に持ったドイツ語クラスの学生有志が、第一校舎の落成記念にドイツ語劇「ファウスト」を上演します。上はその時の写真で、1学期に初歩テキストを20ページも読んでいないレベルの学生は、「解っても解らなくても、ただ無闇に暗記する」という百閒の方針で、半年をかけて準備。当日はドイツ国大使のゾルフ博士を招待して上演されました。
「私は官僚的で高圧的で且つわがままであったらしい。授業の初めには、みんなが揃って起立してお辞儀をしなければ承知しなかった。」(『凸凹道』所収「予科時代」より)と自ら書いているように、法政の教壇でも百閒のパーソナリティーはいかんなく発揮されたようですが、その人柄から学生たちに慕われ、当時の教え子たちが、百閒が還暦を迎えた翌年から「摩阿陀会(まあだかい)」という誕生パーティーを開いていたのはよく知られます。黒澤明監督の遺作となった映画『まあだだよ』は、この時期のことを描いた百閒の随筆『まあだかい』を元にしています。
法政時代は日本の大学初の航空研究会の初代会長も務めた百閒でしたが、1934(昭和9)年、いわゆる法政騒動により辞職、以後、文筆業に専念して数多くの作品を遺し、1971(昭和46)年4月20日、老衰により82歳の生涯を閉じました。
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