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野上記念法政大学能楽研究所 創立70周年記念特別展示 危機と能楽

イメージ謡本『龍神教化書』(金春家伝来)。江戸初期の新作謡で、干ばつに苦しむ人々を救うため、明岩和尚が龍神を教化して雨を降らせるという内容

能楽には600年以上の歴史がありますが、その道のりは常に平坦だったわけではありません。長い歴史の中で、能楽は災害や戦争などさまざまな危機に直面し、社会の変革期を幾度も経験してきました。そして、昨今の能楽を取り巻く環境も、新型コロナウイルス感染拡大による公演中止、稽古人口の減少、慢性的な後継者不足など、危機的な状況にあります。能楽はこれらの危機とどう向き合い、どう乗り越えてきたのでしょうか。HOSEIミュージアムでは、野上記念法政大学能楽研究所が今年、創立70周年を迎えるのを記念して、市ケ谷キャンパスの4会場で「危機と能楽」と題する特別展示を開催します。

イメージ1923(大正12)年9月の関東大震災で倒壊後、修復中の観世宗家舞台(『能楽画報』1923年11月号)

イメージ戦争をテーマとした新作能『忠霊』の彫刻(銕仙会蔵。野上記念法政大学能楽研究所寄託)

イメージ小鼓胴「錠図蔕梨」(山崎家伝来)。伊勢湾台風の被害を受けつつも、大切に伝えられてきた

同研究所が創設されたのは、能楽が戦後の危機から復興へと向かいつつあった1952年。当時の研究所がとりわけ力を注いだのが、能楽に関する文献資料の収集でした。戦後の混乱により貴重な能楽資料が散逸してしまうのを防ぐことが、研究所に課せられた最初の使命だったのです。

こうして収集された能楽資料の数々は、幾多の危機を乗り越えて奇跡的に伝えられてきた、歴史の生き証人でもあります。そこで、ボアソナード・タワー14階の博物館展示室では、能楽の危機に関わる歴史的な資料を「自然災害と能楽」「疫病と能楽」「戦争と能楽」のテーマ別に展示します。

外濠校舎6階のミュージアム・サテライトでは、「現代の能楽が直面した危機」に焦点を当て、コロナ禍が能楽にどのような影響を与えたのかを、実際に舞台で用いられた感染対策用の覆面など、さまざまな資料により紹介します。

もう一つのサテライト(ボアソナード・タワー26階)では、近代東京の能楽堂が、関東大震災や東京大空襲を経てどのような変遷をたどったのかを、能役者の談話なども交え、パネルで紹介します。

九段北校舎1階のミュージアム・コアでは、これらのテーマを概観する映像を流すとともに、靖国神社能舞台、神楽坂の矢来能楽堂などを含めた周辺地図を掲示し、市ケ谷キャンパスを中心に、過去から現在に至る能楽の地域的なつながりを知ることができる内容になっています。また、9月19日にはボアソナード・タワー26階スカイホールでシンポジウムを開催し、矢来能楽堂の観世喜正さんにもご登壇いただく予定です。

野上記念法政大学能楽研究所 特別展示 「危機と能楽 ̶ いかに受け止め乗り越えてきたか」

場所:市ケ谷キャンパス九段北校舎1階ほか
期間:2022年9月1日~ 2023年1月31日
詳細:HOSEIミュージアムウェブサイト

※ HOSEIミュージアム開設準備募金により制作しました「光悦謡本」「二曲三体人形図」のレプリカを、本展示で初公開します。
期間は展示場所により異なります。日程や内容は変更になる可能性があります。
詳しくは上記HOSEIミュージアムウェブサイトからご確認ください。

取材協力:野上記念法政大学能楽研究所 HOSEIミュージアム事務室

(初出:広報誌『法政』2022年8・9月号)