法政野球の精髄
〜藤田信男と若林忠志〜
100年の伝統を誇る本学野球部が東京六大学野球で初優勝したのは、今から90年前の1930(昭和5)年秋。その立役者は、草創期の黄金時代をつくり上げた藤田信男監督と当時のエース・若林忠志でした。
藤田信男監督(左)と若林忠志投手(右)
1923年に入学した藤田は、早稲田大学に0対34で大敗するどん底を経験し、計画的な選手組織や技術を重視するようになります。卒業後の1929年、監督に就任すると、早速ハワイ遠征を実施しました。その際、野球技術の向上だけでなく、国際感覚を身に付けるために、選手たちを一等船客として乗船させたといわれています。
若林はハワイ在住の日系移民2世で、高校在学中に米国の実業団チームの一員として来日。大学生を相手に垂直に落ちるカーブ、日本ではまだ投げる人のいなかったナックルボールを駆使した変幻自在の投球を見せました。これを目にした法政野球部は若林の本学入学に奔走します。入学当初は思うように活躍できず、「ハワイに帰る」といいだす若林でしたが、藤田の戦術的な指導が実り、悲願の初優勝を成し遂げました。
1974年から受け継がれるクリーム色のユニホーム(野球部・青木久典監督寄贈)と大学名入りの練習用ボール(野球部寄贈)。
当時の東京六大学野球には、優勝の翌年に米国に遠征する特典がありました。米国から技術書を取り寄せ、日本人に合う野球を探究していた藤田は、遠征先のイリノイ大学の野球部監督から手渡された指南書の内容に感銘を受け、これを翻訳し、『野球読本』と題して刊行します。豪快な打撃野球を目指す当時にあって、守りの野球を唱える藤田理論の結実であり、同書は法政野球の根幹をなすバイブルとなりました。藤田は監督として計4回の優勝を経験し、戦後は第二教養部(当時)教授を務めました。
一方、若林は卒業後に設立間もない大阪タイガース(現・阪神タイガース)に入団し、技巧派のピッチングは「七色の魔球」と称されました。また、戦後の復興には子どもたちの存在が大切と考え、児童養護施設を訪問するなど、社会貢献にも尽力します。こうした功績をたたえ、2011年、阪神タイガースは若林忠志賞を創設し、社会貢献に取り組む選手を表彰しています。
藤田が翻訳した『野球読本』(1932年、岩波書店)
生前の若林が語っていた、日米ワールドシリーズの監督になる夢は、後輩たちに引き継がれました。今年開催の東京オリンピックでは、本学出身の稲葉篤紀氏が野球の日本代表監督に就任し、国際舞台での活躍が期待されます。
取材協力:法政大学史センター
(初出:広報誌『法政』2020年3月号)
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