哲学科に受け継がれる伝統
〜牧野英二名誉教授と「カント・コレクション」〜
1922(大正11)年の法学部改組によって誕生した本学の文学科と哲学科( 現在の文学部)は、2022年で創設100周年を迎えます。今回は、多彩な教授陣によって文学部哲学科に受け継がれてきた、カント研究の流れを振り返ります。
牧野英二名誉教授は、2015年度に文学部哲学科生を対象にした給付型奨学金を創設し、2019年度より全文学部生対象に拡充された
明治期の実利主義的な修養主義への反発から、大正期には人間の内面や精神面を重んじる教養主義が支配的となりました。これを受けて、当時の大学ではイマヌエル・カントを中心とするドイツ哲学の研究が盛んになり、本学においても、夏目漱石門下の和辻哲郎や安倍能成、西田幾多郎門下の戸坂潤や三木清、谷川徹三といった教授陣が、その一翼を担いました。
人文・社会科学系学問においては、著作集や全集の刊行が研究に深化と拡大をもたらす重要な存在となります。哲学科の教授陣は、カントの原典や研究書の翻訳に意欲的に取り組み、戸坂の翻訳は戦前に刊行された日本初のカント著作集に収録されました。
カント胸像レプリカ。現物はベルリンの博物館所蔵(1798年、Emmanuel Bardou製作)
哲学科のカント研究の伝統は、戦後の昭和・平成の時代にも継承され、多数の教授が学問研究のみならず、研究者の育成にも大きく貢献してきました。日本におけるカント研究の第一人者、牧野英二名誉教授もその一人です。
1980年度から2018年度まで本学で教鞭を執った牧野先生は、先人にならい、日本で二度目となるカント全集(岩波書店刊)の企画・編集・翻訳に携わり、貴重な基礎資料を次世代の研究者や学生に残しています。
ドイツ語原典。左が『判断力批判』第二版、右が『純粋理性批判』第二版
1974年発行のカント生誕250年記念硬貨。左が旧西ドイツの5マルク硬貨、右が旧東ドイツの20マルク硬貨
また、ドイツ滞在中に入手したり、頂いた品々を、定年退職に際して、「カント・コレクション」として本学に寄贈しました。これには、ドイツ以外では唯一の存在である胸像レプリカ、『純粋理性批判』第二版、カント生誕250年記念硬貨などが含まれ、今後「HOSEIミュージアム」での公開が予定されています。
カントには難解というイメージが強いようですが、哲学分野に限らず、多方面の学問に有意義な著書が少なくありません。牧野先生は、今読んでほしい一冊として、カントが最晩年に記した『永遠平和のために』を挙げています。これは、国際連合の前身である国際連盟の設立にも影響を与えており、地域間の紛争や難民など、今の社会が直面している問題についても示唆が得られることでしょう。
取材協力:牧野英二名誉教授、法政大学史センター
(初出:広報誌『法政』2020年1・2月号)
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