今につながる学風の礎
〜「よき師」を集めた野上豊一郎〜
木下孝則が描いた野上の肖像画(1956年)
野上家に伝わる夏目漱石のデスマスク、彫刻家・新海竹太郎制作 (1966年、野上記念法政大学能楽研究所所蔵)
創立70周年を記念して野上が校友に贈った、「大同無少長」の揮毫(きごう)入り扇子(1949年、野上記念法政大学能楽研究所所蔵)
創立70周年に野上が描いた色紙「葛城」、号は故郷にちなんだ「臼川」(きゅうせん)(1949年、野上記念法政大学能楽研究所所蔵)
英文学者であり、後年は能楽研究の第一人者として活躍した野上豊一郎は、大学の二度の転換期において本学の発展に尽力しました。
野上は、1883(明治16)年に大分県海部郡福良村(現在の臼杵市)に生まれ、第一高等学校と東京帝国大学英文科で夏目漱石の指導を受けています。
その後、漱石宅で開催される「木曜会」に参加し、漱石の死後は師をしのぶ「九日会」の幹事役となり、自由闊達な対話を繰り広げる門下生たちとの交流を続けました。野上の妻で作家の弥生子もまた、漱石門下の系譜に連なる一人です。
1920(大正9)年、法律専門学校であった本学は、総合大学として新たな一歩を踏み出します。予科長に就任した野上は、教育体制の充実を図るため、文学者の内田百閒や森田草平、小宮豊隆、井本(青木)健作、哲学者の和辻哲郎など、漱石門下を中心に時代をリードする俊英を予科の教員として招へいし、法政独自の自由な雰囲気の教授室を作り上げました。
哲学者の安倍能成も、このとき招へいされた教員の一人です。安倍がソウルの京城帝国大学へ移ると伝えたとき、野上は悲痛な面持ちで「僕はきっと法政をいい大学にしてみせる」という決意を語ったといわれています。
ところが、野上を深く信頼していた松室致学長の急逝後、慢性的な財政難や昭和恐慌による学生の就職難などを背景に、人事方針をめぐって教職員・学生・校友が2派に分かれ、1933年に「法政騒動」が勃発。野上は一時期辞職を余儀なくされました。
終戦後に学長、総長に就任した野上は、戦時中の教育を一新、美濃部達吉・高野岩三郎・市河三喜など教員や顧問にリベラルな人材を結集し、「自由と進歩」の学風の礎を築きます。戦後に文部大臣・学習院院長を務めた安倍も、本学の理事会に名を連ね、再度、野上の改革を支えました。
野上は創立70周年を見届けた翌1950年、総長在任中に逝去し、大学葬が執り行われました。功績を記念して発足した「野上記念法政大学能楽研究所」にその名をとどめるとともに、野上が自らの目で集めた教員達によって築き上げられた学風は今も本学に受け継がれています。
取材協力:法政大学史センター、野上記念法政大学能楽研究所
(初出:広報誌『法政』2019年10月号)
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