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幸流小鼓の名家・山崎家から
寄贈された鼓胴「錠図蔕梨」

小鼓胴「錠図蔕梨」は保存状態が良く、400年の歳月を経た現在も光沢を放っている小鼓胴「錠図蔕梨」は保存状態が良く、400年の歳月を経た現在も光沢を放っている

(写真上)1884年、山崎一道に対して皆伝がなされた許書(写真下)1617年、幸五郎次郎資能から山崎左近右衛門にあてた習い事一式の相伝状(写真上)1884年、山崎一道に対して皆伝がなされた許書
(写真下)1617年、幸五郎次郎資能から山崎左近右衛門にあてた習い事一式の相伝状

2011年6月、本学能楽研究所に幸流(こうりゅう)小鼓の名家である山崎家の宝器とされてきた小鼓胴「錠図蔕梨(じょうずへたなし)」と、貴重な伝書が寄贈されました。

鼓胴名の「じょうずへたなし」とは「打ち手の技術に関わらず良い音色が出せる」という意味の「無上手下手」なのですが、その名の語呂合わせで、鼓胴の表面には錠前(錠)、縦5本の線で構成された源氏香の図(図)、果物のへた(蔕)、果物(梨)の四つの蒔絵(まきえ)が描かれています。

小鼓は組み立て式の打楽器で、桜の木をくり抜いて作った「鼓胴」の前後に「革」をあてがい、二つの革を「調べ緒」と呼ばれる麻紐で結んで固定しています。革とともに鼓胴も重要で、両端の膨らんだ部分の厚みや大きさ、内部のくり抜かれ方によって、音質や響きが左右されます。作るには精密な職人技が必要で、削り方(刃痕)に独自性が現れます。

今回寄贈された「錠図蔕梨」は「道本( どうほん)」の作品で、ふっくらとした厚みを残しながら、繊細な技巧で中がくり抜かれており、革を当てて叩いたときの響きが大きいのが特徴です。数少ない名器として、幸流宗家と山崎家のみに伝えられました。

山崎家の当主は、幸流小鼓方の重鎮として、江戸時代から京都を拠点に活躍していました。その高名は各地に伝わり、評判を聞きつけた仙台の伊達政宗からも招かれました。その折、錠図蔕梨、松山と共に三器と呼ばれた「大芒」の音色に魅せられた伊達政宗から、どうしても譲ってほしいと切望され、その願いを固辞した山崎家祖先の左近右衛門治茂は鼓とともに身を隠したという逸話も残されています。

明治時代になってからは、幸流小鼓の家元が不在になった一大事に、当時の当主山崎一道は、三須錦吾、狩野宗明と共に「芸事取締」として免状発行の代行などを任せられるなど重責を担っていました

しかし、時代の流れから、山崎家は一道の没後に小鼓方を廃業し、末孫である山崎一雄は文化財の保存を研究する無機化学者の道を歩みました。そこで、本学能楽研究所に山崎家伝来の貴重な品々が託されたのです。

美しく澄んだ響きで多くの人を魅了してきた小鼓は、400年の時を経て、その響きわたるような輝きを今は本学で見せています。

取材協力:
野上記念法政大学能楽研究所
出典:「HOSEI MUSEUM Vol.81」