北軽井沢「法政大学村」~その1~
法政大学ゆかりの地
1920(大正9)年、当時の松室致・本学学長は、群馬県吾妻郡長野原町大字応桑(現・北軽井沢)の273ヘクタールの土地を草津軽便鉄道株式会社より取得しました。この土地は北白川宮家の牧場を民間に払い下げたものでした。草津軽便鉄道は後に草軽電気鉄道と社名を変え、軽井沢~草津間を運行しますが1962(昭和37)年に廃線となります。
大正時代末、松室学長は、ここに法政大学の教職員と学生を中心とした理想的な教育と共同生活の場「法政大学村」をつくろうと思い立ち、教職員への土地分譲を計画します。
話を聞いた野上豊一郎教授(当時の予科長、後の学長・総長)は、春休みに数名の同僚教員を誘い実地検分におもむきます。ところが、雪の消えたばかりの寒々とした高原は一面の枯れ野原。同僚教員はタダでもこんな土地はごめんだと、早々に帰京してしまいました。同じ年の夏、野上教授が家族を連れて再びこの地を訪れてみると、見渡す限り草花が咲き乱れ、小鳥がさえずる素晴らしい高原だったのです。
帰京した野上教授は教職員に土地分譲をすすめ、1928(昭和3)年夏、第1区40戸の山荘が建てられました。ここに「法政大学村」が誕生したのです。分譲地価は坪1円、原則として1人1区画500坪とし、2区画まで所有が認められました。
村の管理・運営のため自治的組織として村会制をとることにし、初代村長に松室学長が就任、選挙によって村会議員を選び、野上教授が村会議長となりました。
村民は本学文科系の教員が中心でしたが、野上教授の山荘を訪れた岩波茂雄氏(岩波書店創業者)がこの地をひと目見て気に入って村民となり、岩波氏の勧誘で本学以外の学者・芸術家も多く参加しました。 初期の村民には、安倍能成、谷川徹三、野上弥生子(豊一郎夫人)、田辺元、津田左右吉、小泉信三、岸田国士らが名を連ねています。
翌29年、第2区を開発して40人に分譲。この年、村の手で最寄りの地蔵川駅の駅舎を新築し草津電気鉄道に寄付しました。これが今も駅舎が残る「北軽井沢駅」です。
さらに翌年には第3区が開発され、法政大学村の輪郭が整いました。村には条例や罰則はなく、村民相互の生活を尊重し、他を侵さず侵されず、のんびりと高原の夏を楽しみ、落ち着いて仕事をしようという自然憲法のような約束事ができていました。
しかし1931(昭和6)年に松室村長が逝去。その後も村民数は増加していきましたが、村民構成は次第に大学関係者中心ではなくなり、法政大学との関係も薄れていきました。そして、日中戦争が始まる1937(昭和12)年、開村10周年を機に村会制を組合制度に改め、法政大学村は「大学村」と改称されて新たな歩みを始めるのです。
【参考資料】『大学村五十年誌』1980年・北軽井沢大学村組合、『大学村七十年誌』1999年・北軽井沢大学村組合
法政大学村の第1期、第2期分譲地方面(『大学村七十年誌』より転載)。山荘はすべて、法政大学の校舎も手がけた蒲原重雄司法省技師が設計した。10坪から15坪前後の山荘は、1戸1戸外観・間取りが異なり、幾何学模様を多用したセセッション様式を取り入れた、素朴でエキゾチックな雰囲気だった。開村時は電気も水道もない生活だったが、都会からやってきた村民は、かえって原始的な暮らしを珍しがり楽しんだという。
松室致氏の功績をたたえ、1959(昭和34)年に長野原町が旧北軽井沢駅前広場に建立した「北軽井沢開発の碑」。碑文は村民の安倍能成学習院院長によるもの。現在の北軽井沢一体は大正時代は応桑・地蔵川という地名だったが、法政大学村ができたとき、軽井沢の北の別荘地であることから北軽井沢と通称するようになった。その後、この呼び方が定着したため、1986(昭和61)年に北軽井沢と変更した。
現在の大学村。敷地を斜めに走る4メートル道路以外は舗装されておらず、開村当時のまま。道で行き会えばあいさつをかわし、午前中は他家を訪問しない、午前中と夜10時以降は演奏などを差し控えるなどの開村時からの不文律は、現在も受け継がれている。
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