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能楽の国際・学際的研究拠点 野上記念法政大学能楽研究所 対話する「伝統」と「現代」

イメージ写真1
左の『観世流作物之図』を参考に、右の酒壺を制作した。写真は、蓋を開けて酒の波が飛び出した状態

イメージ写真2
図面を基にCGで再現した、寛永(1624~1644年)頃の江戸城二の丸の能舞台

イメージ写真3
チェコ語で狂言を演じ、その魅力を広く伝えている団体「なごみ狂言会チェコ」。能楽研究所の特別企画として、茂山家と共に東京公演を行った(2016年7月)

野上記念法政大学能楽研究所(以下、能楽研究所)は創立以来70年間にわたり、研究の基礎となる能楽資料の収集と整備・公開に努めてきました。蔵書の中には、重要文化財指定の室町期謡本や世阿弥伝書など、極めて貴重な資料も多数あります。

こうした豊富な所蔵資料を公開し、幅広い分野の研究に役立てるとともに、国際的・学際的な研究ネットワークの拡大を図ることを目的として、2013年、能楽研究所は文部科学省の共同利用・共同研究拠点の認定を受けました。
「能楽の国際・学際的研究拠点」としての活動は、今年で10年目となります。そこで、この10年の歩みを振り返るとともに、650年の伝統を誇る能楽が、現代の社会とどのように結び付くことができるのか、展示を通して考えてみたいと思います。

活動の中には、古い伝書記事の内容を現代によみがえらせる試みもあります。2018年には本学鴻山文庫の『観世流作物之図』(九条家旧蔵、寛政9年、写真1左)を参考に、特殊な仕掛けの酒壺を制作しました。演目「 大瓶猩々 たいへいしょうじょう 」で舞台に据え置かれる「作リ物」で、蓋を開けると酒の波が飛び出す仕掛けによって、いくら飲んでも酒が湧いてくる不思議な酒壺を表しています。ばねに用いたのは鯨のひげで、江戸時代のからくり人形などにも使われていました。現在では入手が難しい貴重品ですが、能楽研究所と親交の深い狂言師の方がたまたまお持ちで、それを利用して制作していただきました。

また、江戸時代の図面を基に、CGによって当時の能舞台や客席など、上演空間を再現する研究にも協力しました(写真2)。これは、本学デザイン工学部建築学科との学際研究です。現在は、音響情報処理の技術を使い、能の謡うたいをコンピューターによって分析する研究も進められています。

能楽は日本の古典芸能であるだけでなく、現在も世界の演劇の重要な一部を成す、現役の舞台芸術です。この10年間、国際的な共同研究を重ね、世界の演劇研究者や実演者の参照基準となるように、最新の学説も盛り込んだ英語版の事典の編纂にも取り組んでいます。

今回の展示では、能楽の国際・学際的研究拠点としての10年間の歩みや、2023年の刊行に向けた英語版事典の最終段階の様子をご覧いただけます。

HOSEIミュージアム テーマ展示 能の「伝統」と「現代」

期間:2023年2月17日~ 4月26日
場所:市ケ谷キャンパス九段北校舎1階
詳細:HOSEIミュージアムウェブサイト

取材協力:野上記念法政大学能楽研究所 HOSEIミュージアム事務室

(初出:広報誌『法政』2023年1・2月号)