学問の府の自治・自由を堅持
〜15年にわたり総長を務めた中村哲〜
大学紛争のさなかに総長に就任した中村哲(あきら)は、学生との対話という基本姿勢を貫き、さまざまな改革によって本学の状況を「正常化」に導きました。
総長時代の中村哲(1982年夏撮影)
中村は、1912(明治45)年に東京に生まれ、東京帝国大学(現在の東京大学)で法学を学びました。終戦後、「自由な学芸の場として、戦禍に荒廃しきった法政大学に、かえって身近なものを感じさせた」として、本学法学部の教授に就任します。
学生数の膨張に教育体制・設備が追いつかなくなると、戦後民主主義への不信を背景に、一部の学生たちが「大学の解体」を主張し、大学の占拠や封鎖、教員への暴力行使、試験妨害といった過激な戦術を取るようになります。本学でも、暴力を用いた党派抗争「内ゲバ」事件によって大学自治が侵されたのを受け、機動隊出動要請とロックアウト※の態勢を取らざるを得ない状況となりました。
中村の揮毫による「法政大学沖縄文化研究所」の看板
(1972年、法政大学沖縄文化研究所所蔵)
そうした混乱の中、1968年5月に56歳で総長となった中村は、大学の自由・自治を守るために、学生との対話を重んじました。それを象徴するのが、55年館511教室などで少なくとも8回行われた総長会見・説明会(いわゆる大衆団交)です。中村は、毎回水で体を清めてこの会見に臨んだといわれ、妥当と思われる要望は受け入れながらも、学問の府としての大学の立場を堅持し、学生側の「解体論」には毅然(きぜん)とした態度を取りました。
また、「大学の大衆化」に対する根本的対策が欠如していると考え、さまざまな改造にも取り組んでいます。15年間の総長在任中、69年館、木月総合会館、学生会館、市ケ谷体育館、小金井体育館などを建設し、沖縄が日本に復帰した1972年には沖縄文化研究所を設立するなど、研究・教育体制の整備・拡充を大胆に進めました。
総長会見・説明会の原稿、鉛筆の訂正は法学部・藤田省三教授によるもの
(1970年、法政大学史センター所蔵)
江戸時代の文人画家・浦上玉堂の血を引き、画家としても玄人はだしだった
(1972年の作品、法政大学沖縄文化研究所所蔵)
こうした改革の推進により、本学の状況は1980年代に入って「紛争」から「正常化」へと転移するに至ります。
自ら提案した「町田(多摩)移転」、検討していた新学部の創設が頓挫して総長を辞任した後も、参議院議員を1期務め、芸術や文学の世界でも多彩な活動を行うなど、その才能とバイタリティーを発揮し続けました。
※ロックアウト:一般学生の安全を確保するため、キャンパスの出入り口を封鎖すること
取材協力:法政大学史センター、法政大学沖縄文化研究所
(初出:広報誌『法政』2019年11・12月号)
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