女性である前にまず人間であれ
~作家・野上弥生子と女子教育の幕開け~
2020年4月、代表作『迷路』や『秀吉と利休』で知られる作家の野上弥生子が法政大学潤光女子中・高等学校(現・国際高等学校)の名誉校長に就任してから70年を迎えました。
法政大学百年史編さんに際し、座談会に出席した野上弥生子(1978年5月)
1885(明治18)年、大分県北海部郡臼杵町(現・臼杵市)に生まれた弥生子は、上京して明治女学校に進学し、卒業後に、同郷で東京帝国大学(現・東京大学)の学生だった野上豊一郎と結婚しました。豊一郎が師事する夏目漱石から指南を受け、23歳のとき雑誌『ホトトギス』に「縁」を発表し、作家としての活動を始めます。
1920(大正9)年に本学の予科長に就任した豊一郎は、優秀な教員を集めるなどして学校運営に尽力しましたが、人事方針を発端にした排斥運動(法政騒動)により一時期大学を追われます。
弥生子の家庭小説「小鬼の歌」は、この「法政騒動」を当事者の妻の立場から描いた作品です。また、豊一郎と仲間たちの日々の様子を記録した「野上弥生子日記」は、文学史はもとより、本学にとっても貴重な史料となっています。
野上豊一郎の逝去後に本学の総長に就任した大内兵衞が、付属校の名誉校長である野上弥生子に宛てた書簡。同校の近況ほか、レッドパージ下の大学の状況などが記されている(1951年12月)
終戦直後、豊一郎は学長・総長として本学の復興に取り組みますが、1950(昭和25)年2月に急逝。存続の危機にあった潤光学園が、本学の付属校「法政大学潤光女子中・高等学校」として新しいスタートを切った数カ月後のことでした。同校の移管を受け入れた背景には、戦後日本のますます広範になる女性の社会進出を見越した、「女子教育」への関心があったといわれます。
弥生子は日記に、同校の名誉校長に就任したいきさつとして、亡き豊一郎を慕っていた同僚や教え子たちに勧められた様子を書き残しています。
就任翌年の1951年6月、弥生子が生徒に初めて講話を行った際に述べた「女性である前にまず人間であれ」という言葉は、女性の解放と独立の思想に基づくもので、1953年に「法政大学女子中・高等学校」に改称されてからも、同校の女子教育の指標となりました。
本学への移管20周年を機に編さんされた『女子教育の建設を目指して―法政女子二〇年の歩み』。題字は、当時の中村哲総長による(法政大学女子中・高等学校編集・発行、1969年)
1971年に文化勲章を受章した弥生子は、87歳で自身の母校・明治女学校を舞台にした長編『森』の連載を開始。同作の完結を目前に99歳で亡くなるまで、現役作家として精力的な創作活動を続け、「今日は昨日より、明日は今日より善く生き、より善く成長する」人生を全うしました。
取材協力:HOSEIミュージアム事務室
(初出:広報誌『法政』2020年11・12月号)
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