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シンポジウム「インフラの未来を考える」2015年9月10日(水)よみうり大手町ホール

2015年9月28日

 インフラ(社会資本)整備による経済効果をテーマにしたシンポジウム「インフラの未来を考える」(主催=読売新聞社、協力=中央公論新社、後援=国土交通省、日本経済団体連合会)がこのほど、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれた。2020年東京五輪・パラリンピックをきっかけに活力ある日本を作り上げていく道筋を考える「未来貢献プロジェクト」の一環で、公共事業を巡る国の方針について太田昭宏・国土交通相が基調講演した後、4人のパネリストがインフラ政策のあり方を討論した。

【基調講演】
太田 昭宏氏(国土交通大臣)

【討論】
冨山 和彦氏(経営共創基盤代表取締役CEO)
磯田 道史氏(静岡文化芸術大教授)
村上 由美子氏(経済協力開発機構東京センター長)
毛利 信二氏(国土交通省総合政策局長)
(コーディネーターは、堀井宏悦・読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員)

基調講演

北陸新幹線で観光客増

太田 昭宏氏 (国土交通大臣)

太田 昭宏氏

 今年はインフラ整備がもたらす効果を実感しやすい年だ。例えば、北陸新幹線の長野―金沢間の開通は、観光客の増加や企業の移転、地価上昇などの効果を生み出した。常磐道や首都高の中央環状線、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)など高速道路の整備でも、渋滞緩和や工場の新設といった効果が表れつつある。

 公共事業は一時的な景気対策としてのイメージが強く、ばらまきとの批判も多い。だが、生活の質や生産性を向上させる「ストック効果」を生み出すことこそが、公共事業の本質だ。アベノミクスの成長戦略の基盤を作るという意味でも、インフラ整備は見落とされてきた日本経済のエンジンと言えるだろう。

 防災やインフラの老朽化対策も、マイナスからゼロにするだけでなく、土地の安全性を高めることでまちづくりが進み、ゼロからプラスの効果をもたらす。また、訪日外国人観光客は増加の一途をたどっており、地方創生につながると期待されている。インフラ整備を通じてその基盤をどう構築するかも重要だ。

 来年度の概算要求では、およそ半分を防災やインフラの老朽化対策、残る半分は、経済成長の基盤となる交通網などの整備に充てた。今後も、財政制約がある中で、ストック効果をもたらす事業への選択と集中を進めていく。

討論

サービス業の生産性左右

冨山 和彦氏

冨山 和彦氏(経営共創基盤 代表取締役CEO)

 日本は戦後2度、居住が拡散した。江戸時代は集住していたが、第2次世界大戦後、地方で爆発的に人口が増えて拡散した。外地からの引き揚げがあり、空襲で焼け出された人たちが都市部から流れ込んだ。それに追い付こうとインフラも整備された。

 高度成長期は逆に地方から集団就職で東京に流れ込み、太平洋ベルト地帯で人口が増えた。1970年代、地方で公共工事が行われ、また拡散居住が進んだ。そこで人口減が始まり、過疎になった。人がいる前提でできたインフラの効率は悪くなっていった。

 今は大きな転換点で、カギは江戸時代に戻ることだ。昔のように集住していた社会構造に戻していく。時間をかければできる。

 ただ、インフラは国や国民生活の根幹に関わる。社会や人口変化を含め、どういう国土のあり方にするのか。まじめに取り組むべき時代になった。財政は厳しいため、これ以上老朽化すると、ローマ帝国の道路のように本当に朽ちる。ぎりぎりのタイミングだ。

 キーワードは生産性だ。お金や人など投入資源が細っている今は、結果を意識して有効に使うべきだ。

 国内産業の大半はサービス産業だ。観光や小売り、これから大きくなる医療・介護。これらはインフラに依存し、インフラの質と量で生産性が上がる。経済成長を左右する。

 公共インフラを行うときは、政府まかせでも民間まかせでもだめで、両方の特性を上手に組み合わせなければならない。

既存インフラ活用を

磯田 道史氏

磯田 道史氏(静岡文化芸術大教授)

 日本は土木インフラとともに国をつくってきた。日本で初めて国家が生まれた約1800年前の卑弥呼の時代は、戦争の代わりに前方後円墳をつくる工事で国をまとめた。古代の律令国家は、幅の広い道路を日本中に張り巡らせた。

 江戸時代は街道を整備したが、幕府がお金をかけて管理していない。地元の人が木が枯れれば植え、橋が壊れれば負担した。「水戸黄門」のように街道には、茶店や団子屋が出た。使いながら稼ぐ「道の駅」型だ。地元は経済と一体化したインフラを大事に維持した。これは学ぶべきだ。

 我々もお金ではなく知恵を出さないといけない。既にあるインフラの活用や結びつけの研究をしてほしい。例えば、成田と羽田両空港を結べば時間の短縮になるだろう。あまり費用はかからなくても絶大な効果を生むものがある。

 観光の国内総生産(GDP)は、自動車と同じ規模で、伸びしろがある。文化資本や自然を壊さず、海外の人が日本を訪れやすくなるインフラ整備が必要だ。

 災害対策も大事だ。例えば、防潮堤は津波が来た後に払う金よりも事前に作ったほうが得する部分は作るべきだ。インフラでないと守れない命もある。

 今はインフラが国や県のものになっているが、江戸の人たちは自分たちのものという意識だった。我々も、自分たちのインフラという意識を持つべきだ。堤なら、これを維持して洪水から人を守ろうと。インフラ整備の意思決定に賢くなる必要がある。

省エネ世界で生かせ

村上 由美子氏

村上 由美子氏(経済協力開発機構東京センター)

 私は、世界のインフラの状況を説明したい。経済協力開発機構(OECD)が予想する2030年までの世界全体のインフラ投資は、年平均1兆6000億ドル(約190兆円)。日本の国内総生産(GDP)の4割ほどだ。

 分野別では、道路や通信は減少傾向にある。逆に電力、特に水に関わる投資が増えている。従来の上下水道に加え、水害に関する需要が高まっている。地域別では、人口が増えて経済成長しているアジアの需要が強い。特に人口の多いインドや中国、東南アジアだ。

 海外のインフラ市場は魅力的だ。韓国や中国も活動して競争は厳しくなっているが、日本にとって有利なのは、環境、持続可能といった概念が使われていることだ。日本は環境、省エネで世界一のノウハウを持っていて有力な武器になる。

 近年の傾向で重要なのは、各分野のインフラの構築が絡み合っていることだ。複合的なインフラを提供できることをアピールする能力が大事だが、日本はその点で課題がある。政府と民間が二人三脚で戦い抜かないといけない。

 一方で、日本は世界一のスピードで進んできた少子高齢化が商機になる。20~30年後にはアジア各国で社会問題になるだろう。日本が今、知見を生かしたインフラづくりを成功させれば、それが将来のビジネスのチャンスを生む。今は環境、省エネ、防災、今後は少子高齢化の知見を生かせるかがカギだ。

課題把握し重点化

毛利 信二氏

毛利 信二氏(国土交通省総合政策局長)

 今、インフラ整備は四つの課題に直面している。まずは脆弱な国土だ。近年、局地化、激甚化する降雨は、地球温暖化に伴い、より強く頻繁になるという報告がある。世界有数の地震、津波の多発国でもある。災害リスクを減らし、命と財産を守るため、あらゆる知恵を集める必要がある。

 二つ目は、インフラの老朽化だ。高度成長期以降に集中整備されたものが今後、一斉に老朽化する。20年もすれば、建設50年以上の施設が過半に達するという統計もある。厳しい財政でも、点検と補修を計画的に行って寿命を延ばし、必要に応じて更新する。

 三つ目は、人口減少に伴う地方の疲弊だ。2050年に全国の約6割の地域で人口が半分以下になる。そのうち3分の1は人が住まなくなるという分析もある。街や集落の機能を集約して交通環境を整備し、若者や女性、高齢者が住み続けられるまちにする。

 最後は、国際競争だ。企業や人が都市を選ぶ時代で、国際都市としての魅力があるかが、グローバルな都市間競争を勝ち抜くうえで不可欠だ。移動時間の短縮や輸送費の削減、居住環境の整備を進める必要がある。

 インフラは、企業の立地や生産力の拡大、観光収入の増大、あるいは生活の質の向上などに効果を最大限発揮する戦略が必要だ。

 具体的には、まずあるものを効率的に使う。そして、まちづくりに応じて公営住宅や下水道など再編できるものはする。そのうえで、新たに整備する場合は、課題を把握して本当に必要な事業に重点化することだ。

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