2015年3月16日
日本の映像技術が、さらなる進化を遂げている。フルハイビジョンの4倍も高精細な「4K」が見られる大型液晶テレビが本格的な普及期に入り、家庭でもリアルな映像を見られるようになった。さらに上を行く「8K」も視野に入る。カメラの高性能化も目覚ましく、その技術は映画用カメラにも波及している。2020年の東京五輪・パラリンピックまで、あと5年。日本の技術力を改めて世界に打ち出す絶好の舞台を控え、未来の映像技術に期待が集まっている。
キヤノンは映画用カメラ市場に2012年、「シネマイオスシステム」で参入した。小型軽量のカメラは、従来の高価な映画用カメラに劣らない高画質な映像が撮れる。デジタル一眼レフカメラ「イオス」で培った技術をふんだんに取り入れ、未来の映像の形は、ますます変わっていきそうだ。
シネマイオスシステムは2015年2月時点、映画撮影用のカメラ本体を国内で4機種、海外では4~5機種を展開する。
専用交換レンズ12種類のほか、一眼レフのイオス用に発売された70種類以上の純正レンズも使えるのが最大のメリットだ。
映画用として、高画質にこだわった。国内4機種のうち2機種は、フルハイビジョンの4倍も高精細な「4K」画質の映像が撮影できる。4Kは巨大なスクリーンでもチラチラしない鮮明な映像が特徴だ。上映シーンに合わせてフルハイビジョン以下の映像にも変換できる。
一眼レフのような丸みを帯びた個性的な形は、ユーザーへの聞き取り調査を重ねた結果だ。本体の奥行きが短いので、狭い部屋でもスペースを気にせず撮影できるほか、ローアングルからでも撮影しやすい。従来のカメラが肩に乗せたり三脚に立てたりして使うのと比べて、取り回しがいい。
映画用カメラの開発プロジェクトは、09年に始まった。
きっかけは、08年11月発売の一眼レフカメラ「イオス 5D Mark2」に動画撮影の機能を搭載したところ、「本格的な映像が撮影できる」と評判になり、動画の世界にも浸透したことだった。歌手のプロモーションビデオなど、プロの現場でも使われたほどで、コンパクトな高画質カメラが求められていることがわかった。
2年がかりで画像センサーやオートフォーカス技術などを開発した。小型なのに高性能で、一人でも撮影できるため、結婚式や企業紹介ビデオなど使い道が広がっている。価格も従来の映画用カメラよりも割安で、ユーザー層がさらに増えれば、様々な使われ方が出てきそうだ。
使い勝手を追求 表現の幅広げた
枝窪
弘雄氏(キヤノンシネマイオスシステム事業統括者)
シネマイオスはプロの現場向けだ。「シネマ」という言葉が付いているように、当初は映画の撮影用に使われることを想定していた。一眼レフのように、被写体が浮き上がるような絵作りができるので、テレビCMや歌手のプロモーションビデオにも使われることを想定していた。
実際の使い道で、最も多いのはドキュメンタリー用だった。取材相手以外の余計なものが映らないようにレンズを選べるし、高感度なので必ずしも照明を当てなくても良く、撮影場所の自由度が増す。従来のカメラでは出しにくい雰囲気の映像も撮れるのが、支持を集める理由だろう。
動画撮影の記録媒体は、かつてアナログテープが主流だったが、DVDやハードディスクを経て、半導体メモリーになった。進化に伴い、他社も参入しやすくなったため、技術が生かせる映画撮影の市場に目を向けた。高性能で手軽に使えるカメラがあれば、より自由な撮影ができると判断した。
動画の分野に入る写真家が増え始め、貢献したいという思いもあった。動画専門のカメラマンがチームで撮影するのとは違って、写真家は自分一人で構図や光の使い方などを決めて撮影するので、結果的に面白い映像が生まれつつある。
さらに、一人で撮影できるので、制作コストの削減にも貢献している。展開している機種の中には、動画の1コマを写真として切り出す機能もある。これまでモデル撮影を写真と動画用で別々に行っていたが、シネマイオスだけで済むようになったという。
高画質化はますます進み、ユーザーにとって必要な機能を備えたカメラでなければ手に取ってもらえない。今後も要望の聞き取りを欠かさず、「表現する人の需要」に応えられるようにしたい。
装着用小型カメラも「4K」画質
精細な動画を撮影できる小型で軽量のビデオカメラも増えてきた。ソニーは、体や自転車、サーフィンボードなどに取り付けて、スポーツしながら撮影できる「アクションカム」シリーズに、初めて4Kに対応した機種「FDR—X1000V」を投入した。
スポーツしながら使う時のブレ補正を充実させ、撮影者が体感したことを4K映像でそのまま記録できる。ラジコンヘリコプターに装着して空撮することも想定し、ヘリから伝わる小刻みな振動を補正する機能は従来の約3倍に高めた。重さは約114グラムと軽量だ。
アクションカムは2012年の発売開始で、小型・軽量化を優先し、本体から液晶画面などを省いた。一方で、腕時計のように手首に取り付け、液晶画面で撮影内容を確認できるリモコンなど、アクセサリーを豊富にそろえた。
「8K」テレビ 今年後半にも製品化
家庭向けの大画面テレビの性能も上がっている。シャープは、フルハイビジョンの16倍の解像度を持つ「8K」相当の画質が楽しめるテレビを年内に発売する。
画素を細かく分割して動かす技術を採用し、ほぼ8Kと同じ解像度を実現した。4Kテレビと同じ液晶パネルを搭載することで価格を抑え、価格は80型を中心に100万円以下とする。
8K放送は2016年にも国内で試験放送が始まる。シャープやソニー、韓国のLG電子などが8Kテレビの開発を進めており、15年後半にも製品化され、価格は数百万円以上と高額になる見通しだ。
8Kは4Kよりさらに画素を細かくすることで、立体感や臨場感がある映像を実現させる。4Kが14年から本格的な普及期に入る中、次の世代となる8Kが消費者にどう受け入れられるかが注目される。
屋外用大型ビジョンも高画質化
4K対応の大型画面も登場している。三菱電機は、米国ニューヨークのタイムズスクエア地区に14年11月、高画質の4K対応としては世界最大となる大型映像装置(オーロラビジョン)を設置した。
「マリオットマーキーズホテル」の外壁に「コの字形」に設置され、高さ約24メートル、幅は3面で計約100メートル。総面積は約2380平方メートルと、シングルのテニスコート12面分の広さに相当する。
独自の黒いLEDを使うことで明暗をはっきりさせて、屋外でも鮮明な画像を映し出せるのが特徴だ。
三菱電機は、札幌ドームや埼玉スタジアム2002などに、フルハイビジョン対応の大型映像装置を納入している。東京五輪・パラリンピックのスポーツ施設や、都心部の再開発で建設されるビルの壁面向けに、ニーズはますます高まりそうだ。