2017年2月26日
未来貢献プロジェクトのシンポジウム「女性とスポーツ」(読売新聞社主催、タニタ協賛)が1月25日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれた。女性スポーツの最前線を知る第一人者らの話に約200人が耳を傾けた。鈴木大地・スポーツ庁長官が基調講演、五輪メダリストやスポーツドクターらが「スポーツで『きれい&元気』を手に入れる」をテーマに語った。
- 主催:
- 読売新聞社
- 協賛:
- タニタ
基調講演
女性選手の研究必要
鈴木 大地 氏(スポーツ庁長官)
スポーツ庁の主な仕事は、スポーツによって国民の健康増進を図ったり、スポーツをする機会を充実させたりすることだ。2020年の東京五輪・パラリンピックを控え、文部科学省全体では予算が減っている中、新年度の予算案は10億円アップして334億円になった。この中に女性スポーツ振興についての予算も含まれている。 女性アスリートへの支援を強化することは、スポーツ庁が昨年10月に発表した強化プランの大きな柱の一つでもある。その取り組みを紹介したい。
まずは、男性と女性は生理学的に異なっているため、女性特有の課題を解決するための調査研究をもっと進める。女性の選手寿命は長くなっており、その間に妊娠や出産を経験することもあるため、そうした研究は必要だ。妊娠、出産、子育て期のトレーニングや、月経のコントロールについて医科学的な支援も行っている。また、女性の視点で選手を育てられるコーチの育成にも力を入れている。
女子中学生の運動習慣が二極化していることや、仕事や家事で忙しい20~30代の女性が一番運動していないことが調査で分かってきた。それぞれの課題を克服し、こうした人たちのスポーツへの参加率を上げていきたいと考えている。
情報交換で選手支援を
土肥 美智子 氏(国立スポーツ科学センター副主任研究員)
女性トップアスリートが最も必要としている支援は何か。2015年度に約600人にアンケートしたところ、多い順に身体のこと、金銭面、心理面ということが明らかになった。
実際、私たちが12年に設置した専用の電話窓口には多くの相談が寄せられている。月経や妊娠、摂食障害などの問い合わせが多い。
一方、抱えている課題を尋ねると、心の問題がトップにあがった。海外のデータだが、引退した女子プロサッカー選手への調査で、現役中に3人に1人が抑うつ状態を経験していた。コーチとの関係が大きな問題になるようだ。
女性の競技寿命が延び、ママアスリートが五輪にも出場するようになった。こうした選手を支援するため、選手たちが情報交換できるような事業も始めた。
自分の感情に気づいて
田中ウルヴェ京 氏(シンクロ・ソウル五輪銅メダリスト)
スポーツメンタルトレーニング上級指導士として、脳の中の思考と感情に気づいてもらい、調整するのが仕事だ。運動や仕事をする気が起きず、自分なんて嫌だと思ったときには、自分を知るトレーニングから始める。
その感情はプラスかマイナスか、心拍数が上がるか上がらないか。プラスの感情で、心拍数が上がるのはうれしいや楽しい。上がらないのはリラックスしている時。一方、マイナスの感情で、心拍数が上がるのは怒りや焦り。上がらないのは悲しみや落ち込みだ。
この4種類の感情をすべて大事に味わってほしい。マイナスの感情もしっかり感じ、対処行動を考えることで脳が活性化する。感情は身体運動をすると出やすいので、ぜひ、運動しながら味わってほしい。
筋肉つけて心身健康に
鯉川 なつえ 氏(順天堂大学女性スポーツ研究センター副センター長)
きれいと元気を手に入れるために必要なことは、ズバリ筋肉をつけることだ。
やせたいという女性は多い。1週間くらい食事制限すれば1~2キロはやせられる。しかし、間違いなくリバウンドする。
女性の場合、20歳代で筋肉量のピークが来て、その後は右肩下がりに落ち、50歳代で一気に減少する。男性よりも落ちるのが早いと言われる。特に膝の曲げ伸ばしに関わる筋肉が落ちやすく、膝の痛みにつながる。食い止めるには、ジョギングやスクワットなどの適度な運動をするほかない。
自律神経の乱れと筋肉量は関係するといわれている。筋肉をつけて自律神経が整うと、便秘や月経、睡眠の質も改善される。筋肉を増やして体も心もハッピーにするというプラス思考をもってほしい。
美しさ整った食事から
小沢 智子 氏(タニタ企画開発部企画開発課)
タニタの研究開発部門に所属して、スポーツ選手の栄養管理や体の組成などを調べている。食育のサポートを通して、女性の健康づくりを考えていきたい。
女性の体格を考える時、体重だけで考えるのはもう古く、筋肉や脂肪、骨といった体組成を評価する時代だ。世界的に健康的で美しい体とは、細いことではなく、筋肉と適度な脂肪があることという定義になりつつある。筋肉はメリハリのある体を作り、脂肪は女性らしいラインを保つ。
美しい体を作るには、食事が重要だ。主食、主菜、副菜、果物、牛乳・乳製品の5種類をそろえるのが基本だ。栄養もチームワークで働いており、どれかが足りないと必ずどこかでバランスを崩す。足りない栄養は間食で取ったり、次の日に補ったりしてほしい。
体調管理は練習と同じ
中村 知春 氏(女子ラグビー7人制日本代表選手)
健康的に鍛えることの難しさは、昨年の五輪でも身に染みて感じた。選手たちは体脂肪を減らし過ぎて生理が止まったり、風邪を引きやすかったり、練習し過ぎて疲労骨折したりした。
私たち日本人は、欧米などの強国と比べ、体重でマイナス10キロ、身長でマイナス10センチくらい身体面でハンデがある。年間300日近く合宿し、とにかく鍛える量を物理的に増やすという方法で強化を図ってきた。体調管理は、練習と同じくらい重要視して、睡眠を大事にしていた。
ラグビーは、けがが多いスポーツで、万全な状態で出場できる選手はあまりいない。「ピアスを開けたい」などけがをしたらやりたいことのリストを作り、前向きに考えて、けがをしても強いハートでいられるよう工夫している。
パネルディスカッション
何歳でも挑戦楽しむ
コーディネーター:稲沢 裕子(読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員)
——東京五輪・パラリンピックまであと3年。私たちも何か行動したら次世代につなぐレガシー(遺産)になるのではないか。
鯉川 実は、世界中で女性のスポーツ離れが深刻だ。その中で英国が大きな成果を上げている。女性が運動をしたがらない理由を調べ、他人から評価されることを恐れていることに気付いた。そこで「私らしく行動する」を前面に出して働きかけたところ、26万人が新たにスポーツを始めた。
——国内では、1964年の東京五輪に出場した選手を追跡調査していると聞いた。
土肥 五輪の年ごとにチェックしており、世界でも例のない調査だ。その結果、同世代の一般の女性と比べて、肥満の割合は少なく、握力は強く、骨密度も高いという結果が出た。運動習慣がある方も多かった。
——指導者と家庭を両立するのは難しいか。
鯉川 試合や練習の時は全力で選手に向き合い、家に帰れば全力で家族と楽しむ。それで十分、両立できる。
——女性がスポーツする上で取るべき栄養素は。
小沢 講演で話した5種類をそろえること。1日1回も食べなかったものがないように、パズルのように埋めてほしい。栄養はチームワークなので、特定の栄養素に偏らず、満遍なく取るのがポイントだ。
——「運動を長く続けられるか心配」という声が届いている。アドバイスを。
中村 何歳になっても挑戦を楽しむこと。一生懸命って格好悪いことの方が多いが、そういう自分を受け入れることで、本当に楽しいと思えるようになる。
田中 「心配」の裏にすてきな意味があると思う。焦りとか怖いとか、色々な不安な感情をしっかり味わって、楽しく対処行動につなげてほしい。
土肥 やはり無理をしないこと。けがをすると体を動かすのがおっくうになるので、やり過ぎに注意して運動を楽しんでほしい。
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