健康と病気の間にある「未病」~大腸から全身の健康を考える~
SDGs:すべての人に健康と福祉をSDGs:住み続けられるまちづくりを

2017年11月13日

 未来貢献プロジェクトの未病シンポジウム「楽しみながら健康と向き合うために」(読売新聞社主催)が10月12日、横浜市のパシフィコ横浜で開かれ、約700人が参加した。第1部は、大谷泰夫・前内閣官房参与と黒岩祐治・神奈川県知事、加藤誠・経済産業省クールジャパン政策課調査企画官が、健康と病気の間にある「未病」を改善して病気にならなくすることの重要性や、旅をきっかけとした健康作りについて講演した。第2部では、宮崎県での取り組み事例を、日隈俊郎・同県総合政策部長ら4人が紹介した。第3部は、先進的に未病対策にあたる3企業が、商品開発や企業支援サービスなどそれぞれの取り組みについて語った。

主催:
読売新聞社
後援:
内閣府、神奈川県、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会、日本薬剤師会
協賛:
日清オイリオグループ、ファンケル、ロッテ
協力:
アンファー、フェニックス・シーガイア・リゾート

第1部

企業のサポート必要

大谷 泰夫氏(前内閣官房参与)

大谷 泰夫氏

大谷 泰夫氏
1953年生まれ。厚生労働省で大臣官房長、医政局長、厚生労働審議官などを務め、2014~16年に内閣官房参与。15~17年国立研究開発法人「日本医療研究開発機構」理事。現在は神奈川県参与。

 40年近く厚生労働省や内閣で医療や年金、福祉などの仕事をし、退官した後は未病の考え方の深化や普及に努めてきました。その中で健康リテラシー(健康に対する正しい知識と行動)の重要性に気づいて、日本健康生活推進協会を設立。健康についての知識を検定試験する「日本健康マスター検定」を始めました。ある程度信用のある健康知識を持つことを資格にしてみてはどうかと考えました。まだ1年ぐらいですが、約1万4000人が受検しています。

 私と黒岩知事らが出席する未病のシンポジウムは今回で3回目になります。

 未病は、個人が健康に関してどれだけ知識を持ち、どのように行動するかが大切です。しかも、行動を継続しなければいけない。

 健康維持や病気の予防は、食べたいものが食べられない、やりたくない運動をしなければならないなど、辛抱しないといけない感じがつきまといます。これでは始めることも、続けることも難しい。

 健康改善のきっかけや、継続を支える楽しいプログラムを提供できるのは、お医者さんでも役所でもない。アイデアに満ちたサービスや商品を提供する企業の存在が欠かせません。未病は健康リテラシーのある個人と、人々の健康促進を様々な側面で支える健康産業(企業)という、二つの要素で成り立ちます。楽しみの中で旅などを通じて健康的な生活を続ける取り組みを紹介したいと思います。

高齢社会のモデルに

黒岩 祐治氏(神奈川県知事)

黒岩 祐治氏

黒岩 祐治氏
1954年生まれ。80年、早稲田大政経学部を卒業後、フジテレビ入社。報道記者などを経てキャスターとなり、「報道2001」などを担当。2009年退社。国際医療福祉大大学院教授を経て、11年から現職。

 神奈川県の年代別人口を見ると、1970年は年齢が上がるほど人口が減少するピラミッド形ですが、2050年は全く逆になります。この超高齢社会の問題を解決するキーワードが未病です。

 病気がはっきりしてから治すのではなく、未病の段階で、より健康的な生活になるように、食、運動、社会参加を心がけることが大切です。

 こうしたアプローチと、最先端の医療や技術の追究(再生細胞医療やロボット技術など)とを融合させ、健康寿命を延ばすことを目指しています。未病を改善する新たな産業創出を目指す未病産業研究会には492社が加盟しています。

 国際連携にも力を入れています。シンガポール、米国とドイツの州政府のほか、世界保健機関(WHO)、スタンフォード大学医学部などと、生命科学分野で協力する覚書を結んでいます。

 未病という概念は、世界中に受け入れられ、2年前に箱根町で開催した未病サミットでは英語で「ME(み)—BYO(びょう)」と紹介されました。

 WHOが神奈川県の未病への取り組みに注目するのは、将来世界が直面する超高齢社会の解決策を示すモデルケースになると考えるからです。

 未病対策を進める戦略的なエリアを設けています。箱根や足柄といった県西部に、食、芸術、湯、森、運動などの駅がある。それぞれ特徴のある駅を回っていくことで楽しみながら未病を改善していこうという流れを作っています。

旅先で心身健やかに

加藤 誠氏(経済産業省調査企画官)

加藤 誠氏

加藤 誠氏
1988年JTB入社。2002年JTB東日本営業本部国内旅行政策課長などを務め、旅行事業本部観光戦略部長兼JTB総合研究所客員研究員を経て、16年から経済産業省、現在クールジャパン政策課。

 観光産業は国の成長戦略の一つです。日本を訪れる外国人は昨年、2400万人を超え、観光立国宣言を出した2003年の約5倍に増えました。観光分野の国際競争力ランキングでは、日本は世界で4番目に魅力のある国と評価されました。項目別では「観光客への接遇」が世界一で、鉄道インフラも高い評価を受けています。

 未病の関連では、旅行という楽しみの中で健康回復・増進をはかる「ヘルスツーリズム」があります。

 自然豊かな地域を訪れ、そこで自然、温泉や体に優しい料理を味わい、心身ともにいやされ、健康を回復、増進、保持するものです。06年の観光立国推進基本計画に盛り込まれました。

 旅行後も健康的な行動を続ければ、豊かな日常生活につながります。旅先では、規則正しく起き、しっかり朝食を食べ、観光地を巡るなど適度な運動をします。旅行という非日常に身を置くことで、健康な生活へと行動パターンを変えることが容易になる。旅に出るだけで健康になることが医学的に実証されています。

 全国各地のヘルスツーリズム推進地は、日本ヘルスツーリズム振興機構のホームページに掲載されています。具体的な事例を紹介すると、〈1〉食事と温泉、森林セラピーを組み合わせた長崎県雲仙市のホテル・雲仙富貴屋〈2〉地形を生かした健康ウォーキングと温泉を活用した山形県の上山温泉〈3〉湯治の利用回数に応じて給付金が出る大分県竹田市——などがあります。

自分の体と向き合う

司会 中井 美穂さん

中井 美穂

中井 美穂さん

 50歳代を迎えて、自分は今、未病の状態だと思っています。女性は、更年期に入ると、体の変化を実感するからかもしれません。これまでにない体の疲れや冷え、めまいや耳鳴り、老眼での見えにくさなど、どうすれば改善できるのでしょうか。

 まずは、自分の体ときちんと向き合う勇気を持つことでしょう。つい、若かった時の記憶から、「この程度なら大丈夫のはず」と思ってしまったり、恐怖心から健康診断に行かなかったりして、進行した状態で病気が見つかったという話もよく聞きます。未病は、何をすれば自分の体が喜ぶのかを探す良い時期と思います。

 自治体や企業の様々な取り組みから、どうすれば自分の人生を楽しく生きていくことができるのかというヒントを得ることができました。

 加藤さんのヘルスツーリズムのお話もなるほど、と思いました。年齢とともに、新鮮な出来事と出会う確率が少なくなっていきます。でも、旅では、数多くの新鮮な出会いがあります。そこから、コミュニケーションが生まれて、旅する側だけでなく、受け入れる旅先の人たちも新鮮な気持ちになれます。これからもどんどん旅に出ようと思います。

第2部

食事、運動、分刻みで指導

宮崎 認知症予防教室も

第2部では、宮崎県での取り組み事例を4氏が紹介した。

宮崎県での取り組みを紹介する4氏

■健康長寿社会づくりプロジェクト

 毎日の食事で野菜をプラス100グラム以上、運動を毎日プラス10分以上にと、呼びかけている。健康寿命で宮崎県は男性が全国8位、女性が同4位。温暖で食材も豊か。宮崎牛は5年に1度の全国和牛能力共進会で今年、肉用牛部門で内閣総理大臣賞3連覇を果たした。日照時間が長いので、ピーマンもビタミンCが全国平均より3割も多い。(宮崎県総合政策部長の日隈俊郎氏)

■スポーツメディカルランド宮崎

 スポーツを健康医療面からサポートする。文部科学省の予算で産官学が連携し、競技力の向上や健康寿命を延ばすことを目標に、人材育成、けがの予防や早期発見に役立てる医学的なシステム作りに取り組んでいる。対象は、子供から高齢者、障害者や健常者、アマチュアから一流のプロ選手まで幅広い。(宮崎大学医学部整形外科教授の帖佐悦男氏)

■健康増進プログラム「ハッピーエイジング・ドック」

 ヘアケア製品の製造販売会社アンファー(東京都千代田区)が始めたツーリズム。宮崎市にある大型リゾート施設「フェニックス・シーガイア・リゾート」に3泊4日滞在して健康プログラムを実践してもらい、生活習慣の改善を図る。個別指導が特徴で、まず老化の進行を調べる検査を医療機関で受けてもらい、検査結果を基に、食事、運動、睡眠、趣味などについて分刻みのプログラムを医師が作る。プログラム実践後の血液検査データなどを分析し、帰宅後も健康的な生活習慣に生かしてもらう。食事は、県栄養士会会長による指南書をもとにシーガイアのシェフが作る。(アンファー商品開発部シニアフェローの波間隆則氏)

 プログラムは70万坪(約230ヘクタール)の黒松の原生林に隣接する豊かな自然環境で行う。夫婦で参加して互いの健康状態を知り、一緒に健康作りに取り組んでほしい。地元の食材を生かし、おいしくて健康になるメニュー、ゴルフなど様々な運動を用意。認知症予防の料理教室もある。睡眠にも工夫を凝らしている。(フェニックス・シーガイア・リゾート常務取締役の池田睦氏)

第3部

10種食品群で栄養管理

土屋 欣也氏(日清オイリオグループ理事・ヘルスサイエンス事業推進室長)

大谷 泰夫氏

土屋 欣也氏

 食用油メーカーとして、「三つのバランス」が大切だと考えています。食事と運動のエネルギー量のバランスが保たれているかどうか。そのほか、栄養素のバランス、あぶらのバランスです。

 栄養素のバランスについては、国の食事摂取基準で、たんぱく質、脂質、炭水化物の3大栄養素の摂取バランスが示されています。脂質は総エネルギー量の20~30%が目標です。

 あぶらのバランス。ワインや日本酒を楽しむように、場面に応じて、料理に応じて使い分けましょう。

 バランスを心がけても、難しいことがあります。高齢者は食が細くなり、エネルギーやたんぱく質が不足した「低栄養」が問題になります。心身の機能の低下につながる状態です。

 低栄養対策に活用したいのが、「10種類の食品群のチェックシート」=表=の考え方です。体に良いとされる肉類や大豆製品など10種類の食品を食べたら、量にかかわらずチェックシートに○をつけます。1日に七つ以上の○がつくようになるのが理想です。

 産官学連携協力の協定を結ぶ三重県鈴鹿市、鈴鹿医療科学大学と共同で、チェックシートの実証実験をしました。45~79歳の市民約500人に1か月間、シートへ記入してもらうと、平均で7種類以上の○がつきました。続けることで○の数も増えました。摂取すべき食品を意識するうちに、理想的な食生活が定着したようです。

 当社はMCT(中鎖脂肪酸)を含む商品を開発・販売しています。MCTは、ココナツや母乳などに含まれます。老健施設の高齢者に3か月摂取してもらうと、歩行速度や握力、認知機能に改善がみられた人もいるとの研究があります。今後も、様々なライフステージの皆さんをサポートする研究開発と商品化を進めます。

「健康経営」会社も元気

安藤 直仁氏(ファンケル健康経営推進営業部長)

安藤 直仁氏

安藤 直仁氏

 病気で休んでいる社員より、出勤していても何らかの体調不良がある社員の方が会社の生産性を下げているとする調査結果があります。普通に出勤していても、疲労、肩こり、目の疲れなどで仕事のパフォーマンスが落ちている。こうしたことから、社員の健康を重視する健康経営が注目されています。

 多くの企業は、残業対策を中心とした働き方改革を進めていますが、それでは不十分で、食事や運動など生活習慣の改善につながる健康作りが絶対に必要です。

 でも、一般的な健康作りは日常生活に取り入れるのが難しく継続できません。当社では、「ライフスタイルをほとんど変えないで継続できる健康法」で企業の健康経営のサポートを行っています。

 まずは、正しい健康知識を身につける必要があります。健康診断結果の見方や通勤中に手軽にできるストレッチなど身近で実践的な内容のセミナーが好評です。次に、自分の状態を知る。各種検査の数値を見ることで、自然と意識化されていきます。

 当社の社員食堂「学べる健康レストラン」では、食と学びの両面から健康作りを支援しています。

 食については、1食で塩分2グラム以下、野菜量120グラム以上など八つの基準を満たす健康メニューを現在、44種類提供しています。だしなどを上手に組み合わせるなどし、減塩なのに「しっかりとした味わい」です。

 学びについては、持ち帰り用のレシピカードを準備して、家庭でも気軽に作ってもらい、スマホで食生活診断ができるコンテンツなどを用意しています。

 この社員食堂とメニューは今年9月、神奈川県の「ME—BYO(未病) BRAND」(*)に認定されました。

 これからも各企業に、ライフスタイルをほとんど変えずにできる健康法を提供し健康経営をサポートしていきます。

「ME—BYO(未病) BRAND」 未病状態の改善につながる商品やサービスのこと。未病対策の促進と産業の活性化を目指す神奈川県が認定する。2015年5月以降、携帯電話の会話の声から心の健康状態を測定できるソフトなど、9社9件が認定されている。

かむこと8つの効用

内馬場 英氏(ロッテマーケティング統括部執行役員)

内馬場 英氏

内馬場 英氏

 良薬は口に苦し、と言いますが、菓子メーカーとしては「健康を、おいしく。」を前面に商品研究をしています。

 2014年、社内に「噛むこと研究室」を設けました。かむことはすべての健康の入り口、一丁目一番地です。肥満防止、味覚や脳の発達、消化の促進、歯の病気予防など様々な効能効果があるといわれており、企業や大学と連携した研究や情報提供を進めています。

 興味深い結果も出てきています。鶴見大学と共同で、百貨店の従業員を対象に行った研究では、ガムをかむことで、うつや不安を改善するストレス軽減効果が示唆されました。

 かむためには健康な歯も大切です。80歳になっても自分の歯を20本以上保つ取り組み「8020運動」に賛同。私どもも参加する「8020推進財団」では、よくかんで食事をしていた卑弥呼の時代にかけて、「ひみこのはがいーぜ」という標語を使って、かむことの八つの効用を啓発しています=表=。「ひ」は肥満予防になる、「み」は味覚が発達する、「こ」は言葉の発音がはっきりする。「ぜ」は全力投球。しっかり正しくかむことで、力を発揮できるという意味です。皆さんもぜひ、今日の食事からしっかりかんでください。

内馬場 英氏

 医薬品メーカーと連携し、植物由来の乳酸菌を使った「乳酸菌ショコラ」も発売しました。

 お菓子を作る過程では熱を加えることで乳酸菌をすごくいじめてしまいます。しかしチョコレートに包むことで乳酸菌を生きたまま保存できることがわかりました。チョコレートに包んだ乳酸菌ショコラは常温で持ち運べます。いつでもどこでも気軽に乳酸菌をとって、健康になってほしいと願っています。

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