未来貢献プロジェクト > イノベーションキャンパス in つくば 2015
2015年9月18日
高校生を対象にした科学・社会講座「イノベーションキャンパスinつくば2015」が8月19~21日、茨城県つくば市の会場で開かれました。19日は全国から約1,000人の高校生らが参加し、企業や研究機関からの講師の話に耳を傾けました。20、21日にはつくば市内の研究機関の見学、グループワーク、プレゼンテーションなどにじっくり取り組みました。
- 主催:
- 茨城県、茨城県教育委員会、 つくば市、つくば市教育委員会、読売新聞社
- 後援:
- 文部科学省、経済産業省、科学技術振興機構
- 協賛:
- 育良精機、茨城県信用組合、キヤノン、常陽銀行、新日鐵住金、関彰商事、タニタ、筑波銀行、東京ガス、日本アイ・エス・ケイ、日本テレビ放送網、日野自動車、富士通、リーテム(五十音順)
ごあいさつ
橋本 昌(茨城県知事)
本イベントは、未来を担う皆さんに、日本の発展をリードしてきた科学技術の成果に触れて欲しいとの思いで開催しています。これを契機に、皆さんが更なる発展に向けて取り組まれることを願っております。
市原 健一(つくば市長)
つくば市は、国内最大の研究開発拠点で、国際戦略総合特区等、大学・研究機関等と行政が共に実用化をめざした実証実験などを行っています。本日の多彩な講義が、皆さんの科学技術に触れる有意義な体験になることを希望します。
基調講演
「イノベーションを生むマネジメントスタイル」
森川 亮氏(C Channel株式会社 代表取締役社長)
生物の進化でも、環境変化に対応できた種が生き永らえました。世の中の変化が加速している今は、自分が何をしたいのか、そこにどれだけ時間を投下できるかが重要です。そして変化を先取りし「新しい価値を作ろう」と、チャレンジできる環境にあえて自分を置いて成長する生き方が求められます。皆さんにはぜひ、新しい価値、新しいサービスや産業を力強く生み出してほしいと思います。
特別講義
「イノベーションキャンパス in つくば 2015」学長より
長沼 毅氏(広島大学 准教授)
人類の歴史における三大イノベーションは、衣服・文明・大航海時代です。7万4千年前、火山の大噴火で地球が寒冷化した際に、人類を絶滅の危機から救ったのが衣服の発明でした。それに匹敵する規模の噴火が万が一起こると、文明崩壊の危機に遭遇するかもしれません。回避策の一つに火星移住計画があります。これからは宇宙に飛び出す新たな大航海時代がやってきそうです。
選択講座コース
Aコース | Bコース | Cコース | Dコース | |
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1時限目 |
あなたの大切なデータ、どう生かす?どう守る?
津田 宏氏 |
都市鉱山から金属を再生! リサイクル最前線での挑戦
浦出 陽子氏 |
美しい画像を撮る・描く、カメラとプリンターのからくり
中島 一浩氏 |
ものづくりの最先端を支える先進材料「鉄」
岡田 光氏 |
2時限目 |
謎の深海生物にさぐる宇宙生命の可能性
長沼 毅氏 |
進化するドローンと空の産業革命
野波 健蔵氏 |
素粒子から宇宙を探る
多田 将氏 |
|
Eコース | Fコース | Gコース | Hコース | |
1時限目 |
快適な毎日を支えるエネルギー・都市ガス
高野 宏治氏 |
熱中症ってなに?
熱中症の最新事情と熱中症になりにくいタニタ式からだづくり
望月 計氏 |
トラック・バスの事故ゼロへの挑戦!
榎本 英彦氏 |
テレビの裏側大公開!~取材現場から皆さんに届くまで~
浅見 洋介氏 |
2時限目 |
藻類から探る植物の進化とその秘めた可能性
山口 晴代氏 |
細胞シートで患者を治す
岡野 光夫氏 |
宇宙から地球を観てみませんか?
三浦 聡子氏 |
サッカーサイエンス&テクノロジー
浅井 武氏 |
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Aコース 1時限目
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あなたの大切なデータ、どう生かす?どう守る?
津田 宏氏(株式会社富士通研究所 知識情報処理研究所 データ・プライバシー保護 プロジェクトディレクター)
インターネットの登場以降、データはどんどん増え続け「ビッグデータの時代」と言われています。これからは位置情報や購買履歴などを含むパーソナルデータの活用が、医療や安全、金融、運輸、小売りサービスなどの分野でイノベーションのカギとなるでしょう。
一方で、パーソナルデータを悪用したフィッシング詐欺やSNSにおける「なりすまし」等の犯罪も増加しています。実は情報漏洩の大半は人為的なミスが原因です。私たちはバイオメトリクスによる個人認証やセキュリティリスク判定などの技術開発に取り組んでいますが、一人ひとりのユーザーが、日頃からプライバシーポリシーをきちんと読み、リスクについての感度を磨くことが大切です。
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Bコース 1時限目
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都市鉱山から金属を再生! リサイクル最前線での挑戦
浦出 陽子氏(株式会社リーテム サスティナビリティ・ソリューション部 部長)
都市鉱山とは工業製品を鉱石とみなして、リサイクルにより、鉄やアルミ、金銀銅などの金属資源を取り出そうという考え方です。日本は金属資源を海外の天然鉱山から輸入していますが、国内の都市鉱山の埋蔵量も豊富です。たとえば年間約65万トンの使用済み小型家電が廃棄され、うち43%が金属原料として再生できます。
リーテムは、都市鉱山からの金属リサイクルに取り組んでいます。リサイクル最前線では、製品の進化に対応した技術の開発やリサイクルしやすい製品設計への挑戦が求められています。使用済み小型家電を効率良く集める仕組みやリサイクル原料の利用促進など、社会の仕組みも変えていく必要があるのです。
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A・Bコース 2時限目
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謎の深海生物にさぐる宇宙生命の可能性
長沼 毅氏(広島大学 准教授)
私は微生物の研究者ですが、人類が初めて宇宙に飛んだ日に生まれ、宇宙に強い関心を持っています。太平洋の海底火山には、海底火山のガスを取り込み、体内の共生微生物が栄養を合成するというすごい深海生物・チューブワームが生息しています。表面が分厚い氷に閉ざされた木星の衛星エウロパにも、その下に海底火山と海(内部海)があります。チューブワームのような生物がいるかもしれません。
エウロパ深海調査は、今あるテクノロジーの組み合わせで実現可能です。エウロパの他にも内部海を持つ星が、太陽系だけで14個想定されています。新たな大航海時代がすでに始まっているのです。
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Cコース 1時限目
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美しい画像を撮る・描く、カメラとプリンターのからくり
中島 一浩氏(キヤノン株式会社 インクジェット 技術開発センター 担当部長)
キヤノンはカメラとプリンターの両方で世界をリードする唯一のメーカーです。誰もが美しい画像を手軽に扱えるように技術開発を続けています。デジタルカメラはヒトの仕組みをまねて、色を光の三原色の組み合わせとして数値化し画像データを作ります。さらに近年、カメラは仕組みにまで迫り、ヒトが“感じた”通りの画像を撮れるようになりました。
キヤノンのプリンターはインクを瞬時に熱して飛ばすサーマルインクジェット方式で、鮮明な画像をプリントします。これは、注射器の針に熱いはんだごてをあてたら水がピュッと噴き出したことをヒントにした、キヤノン独自の発明です。イノベーションにはそういった「気づく力」が大切なのです。
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Cコース 2時限目
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進化するドローンと空の産業革命
野波 健蔵氏(千葉大学 特別教授)
4つのモーターによって飛行するドローン。産業用ドローンは可視光・赤外線カメラを搭載し、画像を3Dで表現できる機能を備えており、各種の空撮、無人インフラの検査・点検、農薬・肥料の散布などに活用されています。日本でも橋梁やトンネル、ダム、メガソーラーなど各種インフラの点検や、事故現場調査等の応用が期待されています。
ドローンは今後さらに進化し、将来的に高速・長距離・長時間飛行が可能になれば、生態系の調査や密猟者の監視など用途はさらに広がります。また、離島や山岳地帯など、あらゆる場所に物資を運ぶことが可能になるでしょう。物流は近い将来、地上から空へと移っていくかもしれませんね。
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Dコース 1時限目
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ものづくりの最先端を支える先進材料「鉄」
岡田 光氏(新日鐵住金株式会社 技術開発本部 鹿島技術研究部)
人類が使っている金属の95・8%は鉄であり、暮らしと産業全般を支える素材です。世界の人々が豊かになるたび、鉄鋼需要が伸びています。鉄は理論強度の30%にしか達しておらず、いまだ大きな可能性を秘めた素材でもあります。
私は27年間、鉄の表面に関する研究開発をしてきました。自動車用には軽くて強い鋼板開発が重要です。シリコンを添加すると加工しやすく高強度になりますが、表面に傷ができます。さまざまなアイディアで実験を繰り返し、傷を防ぐ方法を見つけて導入するまで15年かかりました。イノベーションを起こすには、失敗の経験により考えを深めていくことが大事なのです。
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Dコース 2時限目
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素粒子から宇宙を探る
多田 将氏(高エネルギー 加速器研究機構 素粒子原子核研究所 准教授)
この世で最も小さい素粒子と最も大きい宇宙は、実はつながっています。素粒子を扱うのが素粒子物理学で、研究のために素粒子を取り出すには加速器を使います。日本は素粒子物理学の分野では最先端です。
最初の宇宙は一カ所に固まって、超高温だったと考えられています。これがビッグバンです。過去の宇宙を知るには、加速器でエネルギーを与え同じ状態を作って研究します。現在の加速器ならビッグバンの直後まで遡ることができます。今私たちは、宇宙を巡る最大の謎「理論上は宇宙のすべてが光になってしまうはずなのに、物質世界が存在するのはなぜか」の解明に取り組んでいるところです。
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Eコース 1時限目
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快適な毎日を支えるエネルギー・都市ガス
高野 宏治氏(東京ガス株式会社 日立LNG基地 総務部)
調理や暖房など、快適な毎日を支える都市ガス。都市ガスの原料である天然ガスは、-162℃まで冷却されLNG(液化天然ガス)として輸入されます。そして、そのLNGを貯蔵するのがLNGタンクです。
現在建設中の「日立LNG基地」では、23万klものLNGを貯蔵できる世界最大規模の地上式LNGタンクを建設しています。その建設にあたっては、さまざまな高度な技術が用いられており、例えば、タンク底部で組み上げられた約1,500tものタンクの屋根を、空気の圧力によって頂部まで持ち上げる「エアレイジング」という工法もその一つです。今回の講義が、私たちの生活を支えている“エネルギー”に興味を持ってもらうきっかけになればと思います。
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Eコース 2時限目
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藻類から探る植物の進化とその秘めた可能性
山口 晴代氏(国立環境研究所 研究員)
藻類とは、陸上植物以外で「光合成で酸素を作る」性質をもつ生物群です。約27億年前に出現し、光エネルギーを使って水と二酸化炭素から有機物と酸素を作ります。私たちが生きるためには、この有機物と酸素は欠かせませんが、それだけではなく、現在、藻類は広く産業利用されています。例えば、オイル、バイオエタノール、水素等のバイオエネルギー、食料や医薬品、珪藻土などの材料、飼料等に使われています。特に石油の代替燃料として藻類オイルの利用が期待されており、また最近では放射性物質をよく吸収する藻類も見つかっています。このような藻類は様々な環境から見つかります。私たちの身近な環境に未知のスーパー藻類が隠れている可能性があるのです。
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Fコース 1時限目
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熱中症ってなに?
熱中症の最新事情と熱中症になりにくいタニタ式からだづくり望月 計氏(株式会社タニタ 国際商品部 プロジェクトリーダー)
熱中症は発汗による放熱がうまくいかず、からだに熱がこもることから起こります。運動する学生のほとんどが症状を経験し、スポーツ活動が本格化する高一男子に死亡例が最も多く見られます。そこでタニタは熱中症の発症や死亡者を減らそうと、小さくて持ち歩きに便利な「黒球式熱中症指数計」を作りました。気温だけでなく湿度や輻(ふく)射熱も加味し、熱中症の危険度の指数となるWBGT(暑熱指数)を用いて、より正確な熱中症情報が確認できます。
また熱中症になりにくいからだづくりには、水分・塩分をこまめに摂取しながら暑さにからだを慣らし、豚肉や納豆などビタミンB1が豊富な食事を摂ることが大切です。熱中症を正しく知り、予防につなげてください。
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Fコース 2時限目
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細胞シートで患者を治す
岡野 光夫氏(東京女子医科大学 名誉教授・特任教授)
細胞シートは患者の細胞を培養し、患部に貼って組織を再生させる画期的な治療法です。細胞シート表面が傷つくと患部にくっつかないため、傷つけず取り出せるよう培養皿に特殊な素材を用いたことが成功につながりました。まさに医学と工学の融合から生まれた技術なのです。
これまで細胞シートを用いた角膜、心臓、食道がんの切除痕、膝軟骨、歯周組織、内耳粘膜の再生に成功し、肝臓、膵臓の再生治療研究も進めています。今後は治療を患者がどこでも受けられる仕組みづくりが必要です。現在その一つとして、細胞シートの培養を自動化し量産する「組織ファクトリー」プロジェクトが進行中です。これにより、安全で効果的な細胞シート製品の開発が実現されるよう、大学と病院、産業が力を合わせて頑張っています。
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Gコース 1時限目
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トラック・バスの事故ゼロへの挑戦!
榎本 英彦氏(日野自動車株式会社 技術研究所 所長)
大型トラックやバスは、安全装備を積極的に採用していますが、その背景には多くの苦労や工夫があります。ドライバーを事故から守る、変形しにくいキャビンの設計は、「行き詰まったら極端なアイディアを」という大先輩の助言がカギになりました。追突の可能性を検知して作動する自動ブレーキは、「本当に必要な時だけ作動し、邪魔だと思われない」ための作り込みがポイントでした。居眠りなどドライバーの状態を検知し警報するシステムでは、強い日射や夜間などの光環境でも間違いなく探知する技術に挑戦しました。
また、自ら開発した安全装置のよさを、クルマを買っていただくお客様や販売する人たちにアピールし、広く普及させることも大切な仕事です。
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Gコース 2時限目
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宇宙から地球を観てみませんか?
三浦 聡子氏(宇宙航空研究開発機構(JAXA)・主任開発員)
衛星による観測は広い範囲を一度に捉え、同じ地域を長期観測可能です。噴火など自然災害を観測する際、直接現地に行く必要がありませんし、人の目ではわからない温度などを知ることができます。二酸化炭素の分布等でも、全地球を一時に観測できるなど多くのメリットがあります。画像の分解能も上がり、細かいところまでわかるようになりました。
私は5つの地球観測衛星に関わり、地上設備の開発・運用をしています。JAXAでの毎日は、メールや報告書を読んだり書いたり、業者さんとの打ち合わせ等、地味な仕事の積み重ねです。そこから衛星が打ち上げられ、日々地球を観測しているのです。
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Hコース 1時限目
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テレビの裏側大公開!~取材現場から皆さんに届くまで~
浅見 洋介氏(日本テレビ放送網株式会社 技術統括局 技術戦略部 主任)
テレビの裏側では、番組制作・中継・伝送・編集・管制等の各段階で最新技術が番組を支えています。ニュース番組の場合、現場から伝送された映像を編集したものやスタジオ、中継現場等の映像をサブコントロール室で切り替え、音声や映像を調整して放映します。正確により早く伝えるために、場面ごとに利便性と安定性のバランスを考えた機材を選んでいます。
デジタル化によって文字や画像などの情報を送るデータ放送が始まり、さらにインターネットにつなぐことで、生放送での投票やプレゼント応募などサービスが格段に増えました。これからも通信技術と連携し、新しいサービスを展開していきます。
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Hコース 2時限目
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サッカーサイエンス&テクノロジー
浅井 武氏(筑波大学 教授)
運動の分析にはモーションキャプチャーを使い、動きをつかまえて三次元のデータにします。それをコンピュータ上で分析すると、選手の特徴が見えてきます。世界トップクラスのストライカーはディフェンダーの動きに非常に速く反応していますし、ドリブルの名手のボールコントロールのポイントもわかります。
サッカーで得点につながりやすいのは強力なキックで、それには複数の関節を連動させることが重要です。カーブや「ブレ球」などのテクニックも、ボールと足との衝突から読み解けます。このような分析をもとにシューズやボールを開発し、よりよいパフォーマンスにつなげようとしています。
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