健康と病気の間にある「未病」~大腸から全身の健康を考える~
SDGs:ジェンダー平等を実現しようSDGs:働きがいも経済成長もSDGs:人や国の不平等をなくそう

2020年3月9日

 未来貢献プロジェクトのシンポジウム「みんなでダイバーシティ~2020とその先へ~」(読売新聞社主催)が2月2日、東京都渋谷区の渋谷・ヒカリエホールAで開かれ、約250人が聴講した。スポーツジャーナリストの二宮清純氏が「スポーツと共生社会」と題して講演し、東京パラリンピックの成功が、今後の日本において多様性を尊重する社会が実現するための鍵になると訴えた。障害者やLGBT(性的少数者)が暮らしやすい社会の実現をテーマにしたパネルディスカッションも行われた。NPO法人代表理事の須藤シンジ氏、弁護士の松田純一氏、車いすバスケットボール元日本代表の三宅克己氏が、それぞれの取り組みや課題などを話し合った。パネルディスカッションのコーディネーターは、読売新聞東京本社調査研究本部の高橋徹主任研究員が務めた。

主催:
読売新聞社

基調講演

「スポーツと共生社会」

誰にも居場所と役割 社会が目指すワンチーム

大谷 泰夫氏

スポーツジャーナリスト
二宮 清純氏
1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとして、オリンピック、サッカー・ワールドカップ(W杯)、ラグビーW杯、メジャーリーグなど幅広い取材活動を行う。認定NPO法人健康都市活動支援機構理事。

二宮 清純氏(スポーツジャーナリスト)

 昨年一番に盛り上がったスポーツの話題といえば、ラグビーのワールドカップ日本大会だ。日本代表は史上初のベスト8入りを果たした。前回のイングランド大会では、南アフリカに勝って「ブライトンの奇跡」と呼ばれ、今回もアイルランドに勝ったことは快挙と言える。

 ラグビー日本代表では、補欠のことを「インパクトプレーヤー」と呼ぶ。ベンチ入りできるのは23人で、レギュラーの15人以外はリザーブ、つまり補欠だ。それを、一番大事な時に出ていくインパクトプレーヤーと呼んでいる。リザーブの選手たちは、自分たちは大事な時に出ていくのだと誇りを持てる。

 翻って日本の社会では、正社員、非正規社員という呼び方がある。「うちの父ちゃん非正規」といったら、まるで悪いことをしているようではないか。例えば、非正規は「インパクト社員」と呼んでみてはどうか。これは冗談ではなく、言葉の使い方が大切なのだ。誰にでも居場所があり、役割があり、出番がやってくる。これこそが「ワンチーム」で、日本が目指すべき共生社会のあり方だ。ラグビー日本代表はその大切さを教えてくれた。

 今年は東京五輪・パラリンピックイヤーだ。パラ競泳のレジェンド、河合純一さんがある日、「二宮さん、あなたは私にとっては後輩みたいなものだ」と言った。最初は意味が分からなかったが、説明を聞いて納得がいった。健常者も年を重ねていけば、どこか体の機能が弱くなったり、機能を失ったりする。河合さんは「私たちは健常者の未来の姿なのだ」と。その言葉を聞いて、五輪とパラリンピックが私の中でつながった。それまでは健常者のスポーツと障害者のスポーツは別物だと思っていた。

 パラリンピックの成功なくして、東京大会の成功はない。この機会にしっかりバリアフリー、障害の有無にかかわらず、誰でも使いやすいユニバーサルデザインの普及といった、共生社会の基盤を築くべきではないか。

 東京大会には世界各国から、多くの人たちがお越しになるが、気がかりなこともある。日本は招致する際に「おもてなし」を掲げたが、いまだ取り組むべきことが多いのだ。その一つはマナーの問題だ。例えば、歩きたばこをする人を街中で目にすることがけっこうある。喫煙の是非はともかく、マナーを守ることは基本だ。子どもにあたる恐れがあって危ないし、ポイ捨てはぼやの原因にもなる。街中に完全分煙した喫煙所を設けるなどの配慮があっていい。外国人もたくさん来日するのだから。

 日本は色々な考えの人たちが互いに配慮し、共生し、過ごしやすく、住みやすい社会だと、訪日した人たちに思ってもらえるよう、ひとりひとりがおもてなしの心を持つことが大事だろう。

パネルディスカッション

「みんなでダイバーシティ ~2020とその先へ~」

障害者像を「かっこいい」に

大谷 泰夫氏

NPO法人ピープルデザイン研究所代表理事
須藤 シンジ氏
NPO法人ピープルデザイン研究所代表理事。「心のバリアフリー」を提唱し、多様性を尊重する社会の実現を目指している。渋谷区や川崎市などの行政と協働して、障害者が暮らしやすいまちづくりに取り組んでいる。

須藤 シンジ氏(NPO法人ピープルデザイン研究所代表理事)

 日本は欧米先進国と比べると、ダイバーシティー(多様性)やインクルージョン(包摂)の面で、半世紀は遅れていると思う。健常者、障害者の双方の意識の中にバリアがあるためだ。このバリアを壊す、あるいは解かさないと、本当の意味で共生する社会は実現できない。

 そんな問題意識を持って、渋谷区を拠点に活動してきた。具体的な活動の一つが、優れたデザインや最新技術を取り入れた車いすなどの福祉機器に触れてもらい、障害に対する負のイメージを「かわいい」「かっこいい」に変えていくイベントだ。障害者、LGBTなどのマイノリティーに対する意識のバリアを越えてほしいと願い、2014年から始めた。ファッションタウンの渋谷をおしゃれな車いすで移動するなど従来にない発想で、固定概念を変える取り組みを続けている。

 パラリンピックという華やかな祭典で注目される障害者がいる一方で、就労の問題で日の当たらない、知的や精神的に障害のある方々にも思いをはせたい。市民ひとりひとりが時間と体を使って関与していくことが大切だろう。今年がその年になればいい。この考え方やアクションは都市、地方にかかわらず、日本全国で取り組むべき課題ではないか。

ハード無理でもハートを

三宅 克己氏

車いすバスケットボール元日本代表
三宅 克己氏
一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟イベントコーディネーター。交通事故で18歳の時に車いすの生活になったのを機に、車いすバスケットボールを始める。日本代表として3度のパラリンピックを経験した。

三宅 克己氏(車いすバスケットボール元日本代表)

 車いすバスケットボールや障害者スポーツを知ってもらおうと、年間150回ほど全国の小中学校を訪れている。

 車いすを初めて見る児童や生徒は最初、「かわいそう」「助けてあげないといけない存在だ」という感じで見ている。ところが選手たちが車いすで軽々と動き回ったり、転倒しても自分で起き上がったりする姿を見ていると、尊敬や憧れのまなざしに変わる。子どもは純粋で、壁を作らないでいられるのだ。ただ、大人の場合は心理的な壁を作ってしまうことも少なくない。

 私たちは、障害は個性であると考えている。障害があるとすれば、それは社会が作っていると言える。例えば、足の不自由な人が手すりがない階段を上る時、周りの人が手伝ってくれれば、その障害はないものになる。勇気がいると思うが、困っている障害者がいたら声をかけてほしい。「ハード」は変えられなくても「ハート」は変えられる。ぜひ、やさしい気持ちで手伝ってほしい。

 スポーツには社会を変える力があると信じている。4年に1回だけパラリンピックが盛り上がって、その後しぼむようなことにならないようにしたい。東京大会をきっかけとして関心を持ち続けてもらい、今後につなげていくことが一番大事になる。

ありのまま生きられる世に

三宅 克己氏

弁護士
松田 純一氏
松田綜合法律事務所所長弁護士。LGBTに対する理解促進のため、法律家の立場から活動を行っている。1990年代に米国留学中、親切に助けてくれたのがゲイのカップルだったのを機にLGBTに関心を持つ。

松田 純一氏(弁護士)

 LGBTという言葉をご存じだろうか。Lはレズビアン、Gはゲイ、Bは両性愛者のバイセクシュアル、Tは心と体の性が一致しないトランスジェンダーだ。LGBTは虹色がシンボルとなっており、そこに多様性を表現している。

 日本でLGBTへの認識が大きく変わったのは、渋谷区が2015年に同性のパートナーシップ証明書を出すようになったことだ。しかし、社会全体としての理解は、まだ不十分だ。

 現代に生きる我々が考えるべきテーマがある。男女という属性を超え、ありのままの姿で愛されたり、存在する場所を持てたりする世の中にするにはどうすればいいのかだ。男女共同参画社会といわれるが、男女という二極だけ、その属性だけで考えることで、はたして足りるのか。思春期の子どもの中には、とても苦しんでいるケースがあることに目を向けたい。

 一方、企業では取り組みが進んでいる。性的な指向などに関するハラスメントの禁止を、社内規定、就業規則に明記するようになった。結婚・ハネムーン休暇、慶弔規定で、同性パートナーでも配偶者と同様のルールを適用しようという動きもある。就職活動で性別の欄を廃止した例もある。社会全体でも、広げていくべきだと思う。

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