2018年11月22日
自動運転や電気自動車などが広く普及し、生活がより便利で安全なものになっていることが期待される次世代のクルマ社会。その実現に向け、政府と民間企業が協力した様々な取り組みが行われているものの、いまだに多くの課題が残されている。現在、どのような解決策が模索されているのだろうか。各界の有識者が集まり、今後のクルマ社会の展望や協業の重要性について議論するシンポジウムが10月、都内で開催された。
- 主催:
- 読売新聞社
- 後援:
- 経済産業省、日本自動車工業会
官民一体となった取り組みで、安心・快適な社会を築く
注目される「CASE」
現在、自動車業界で盛んに用いられる「CASE」という言葉は、コネクトの「C」、オートノマス(自動運転)の「A」、サービスまたはシェアの「S」、エレクトリックの「E」を組み合わせた造語だ。2年前のパリオートサロンでダイムラーAGのディーター・ツェッチェ会長が発表し、次世代のクルマビジネスの核となるコンセプトとして注目されている。
基調講演
「ポスト2020 CASEの先の社会受容性」
自動車だけでなく都市デザインにも変革を
国際モータージャーナリス
清水 和夫氏
内閣府や大手自動車企業が中心となり、活発に議論が行われているのが「自動運転」です。渋滞緩和や交通事故の低減、高齢者の移動支援などの手段として大きな期待が寄せられています。公道での実証実験も始まっていますが、技術不足や事故時の責任問題等、実用化に向けて課題が残されているのが現実です。一方、電気自動車に代表される「イーモビリティ」は実用段階にあるといえるでしょう。バッテリー技術の向上で格段に性能が上がっており、低炭素社会や「SDGs(持続可能な開発目標)」の実現に欠かせないキーワードとなっています。ただ、電気自動車がよくて、ガソリン車やディーゼル車が悪いというわけではありません。それぞれの自動車が互いに長所を生かし合い、うまく共存できるクルマ社会が到来することを望んでいます。
また「カーシェア」についても、自動車の稼働台数を減らすという点で、地球環境の負荷軽減に貢献しているのではないでしょうか。いまはまさに、世界の自動車産業全体が「モノをつくって売る」というビジネスから「モビリティという移動サービスを提供する」ビジネスへとシフトしている時代です。ヨーロッパではいくつか新サービスの導入事例がありますが、日本は駐車スペースなどの問題もあり、実施が遅れています。自動車だけでなく、社会システムや道路を含めた都市のデザインまで変えていくことで、新しい世界が広がるのではないでしょうか。
「『クルマのミライ』に向けた政府の取組」
自動車だけでなく都市デザインにも変革を
経済産業省 大臣官房参事官
(自動車・産業競争力担当)
小林 大和氏
政府は今年の夏に「未来投資戦略2018」という成長戦略を発表しました。その柱としてIoTやAIなどの新技術を実装した社会「Society 5.0」の実現を掲げています。目玉となる「次世代モビリティ」の発展には大きな期待を寄せており、積極的に取り組んでいく予定です。政府は2020年までに「無人自動運転サービス」を公道で開始すること、2030年までにそのサービスを全国100か所以上で展開することを目標にしています。そのために、周辺環境を見極めて、システム自身で判断ができる自律型自動運転技術の開発を進めているところです。また、自動運転技術は人流だけでなく物流にも貢献できるでしょう。具体的には、隊列を組んだトラックの後続無人化を目指しています。トラックの重量や高速での走行を考慮し、安全面には細心の注意を払わなければなりません。
こうした取り組みには自動車産業のみならず、IT産業や公共交通機関を含む様々なプレイヤーとの連携が必要不可欠です。新しいモビリティサービスの実現を目指して、各プレイヤーの連携を促進していきます。さらに、ルール整備も政府の大きな課題です。技術の変革に伴い、交通ルールや責任に関する種々の制度を変えていかないといけません。世界の動きは目覚ましいものがあります。日本が世界をリードしていくという意気込みで、スピード感を意識して技術開発や環境整備に取り組んでいきます。
トークセッション
「コネクティビティと次世代通信がつくるクルマ社会のミライ」
「三本の矢」で社会のニーズに対応
トヨタ自動車株式会社
コネクティッドカンパニー
ITS・コネクティッド統括部長
山本 昭雄氏
自動車は「つながる」ことで単なる移動手段から社会デバイスとなります。当社ではこの社会の流れに対応すべく、コネクティッド戦略で「三本の矢」を打ち出しました。まず「全車コネクティッド化」。2020年までに、日米で販売されるほぼすべての自動車に車載通信機を標準搭載する予定です。続いて「ビッグデータの活用」です。災害時の通れた道マップ、事故削減に寄与するつながる保険など、お客様にも社会にも役立つ活用法を考えています。そして最後が「新たなモビリティサービスの創出」です。今後、異業種連携を通じて「モビリティカンパニー」への変革に挑戦していきます。
「リアル」と「デジタル」を繋げる
NTTサービスイノベーション
総合研究所
所長
川村 龍太郎氏
「人が住むリアル世界とデジタル世界との関係をどう取り持っていくのか」ということが私たちの課題だと思っています。第五世代モバイル情報通信「5G」の普及に伴い、情報通信のリアルタイム性が格段に向上します。また、コネクティッドカーの観点から言うと「エッジコンピューティング」も発展させなければなりません。これはモノの近くで計算処理を行うことで、より速く正確にモノを制御できるようになる技術です。こうした新しいテクノロジーが実社会に導入されることで、モビリティと何かが組み合わさり、想像もできないような化学反応が起こることを期待しています。
最新技術で安心な自動車保険に
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
商品企画部 企画グループ
担当次長
梅田 傑氏
IoT技術の発達により実現したのが「テレマティクス自動車保険」です。これは、走行距離やドライバーの運転のクセなどのデータを集計することで詳細にリスクを把握し、保険料に反映することで安全運転の促進を図るものです。今年の4月にはトヨタ自動車さんと提携し、安全運転の度合いを保険料に反映する国内初の保険の販売も始めました。すでに多くの方にご加入いただき、当初の想定よりも多数の方の保険料が割引きとなり、事故も減少しております。今後も最新技術と保険会社が持つ膨大なデータを生かし、より利便性が高く、より事故の減少に貢献できるサービスを提供していくつもりです。
「モビリティの電動化がつくる社会のミライ」
自動車にもエネルギーマネジメントの概念を
株式会社本田技術研究所
R&Dセンター X 執行役員
エネルギー&モビリティ
マネジメントシステム統括LPL
岩田 和之氏
いま自動車と環境との問題を考えるときに「well to wheel」という概念が重要視されています。これは走行中だけでなく、燃料を採掘してからタンクに入れるまでの過程も含めてCO2の排出量を考えるというものです。この点では再生可能エネルギーとの連携で電気自動車は環境にやさしいといえますが、充電時間や航続距離などの課題も残されています。そこで当社は2輪車や超小型4輪に適用可能な「モバイルパワーパック」という着脱可能なバッテリーと「パワーパックエクスチェンジャー」という公共充電ステーションを開発しました。これにより、電欠の心配なくドライブを楽しんでいただけると考えています。さらに、災害時の非常電源としての役割も期待されている電気自動車。エネルギーマネジメントを大切にすることで、次世代モビリティは社会全体の効率を上げてくれると思います。
ココロ揺さぶるクルマ・バイクの楽しさ、驚きを、もっと。
「東京モーターフェス2018」
「東京モーターフェス2018(主催:一般社団法人 日本自動車工業会 ※以下、自工会)」が10月6~8日、東京・お台場で開催された。季節はずれの暑さが戻ったものの、家族連れなど、延べ21万8千人が会場を訪れた。「胸にぎゅんとくる。」をテーマに、無料でクルマ・バイクを楽しみ尽くしてもらうこの祭典は、出展車両数、会場面積ともに過去最大規模での実施となった。平成最後の年であることから「平成を楽しみ尽くし、そして未来に繋げる」イベントとして、旧車から新型車まで、様々な展示車が並んだ。また、ラジオDJのピストン西沢さんが、クルマを実際に走らせながら解説する「動くクルマ図鑑ステージ」や、登美丘高校ダンス部のOGとドリフトユニット「チームオレンジ」のフォーメーションダンスなどの催しが、集まった観覧者を沸かせた。
さらに、4つの「胸ぎゅん企画」として、自工会の豊田章男会長とマツコ・デラックスさんが登場した「スペシャルトークショー」、バブル時代に発売された車を展示した「バック to the バブル!」、グランツーリスモの迫力や魅力を体感できる「e−Circuit」、好きなアイドルやアニメキャラクターをペイントした愛車が並ぶ「痛車天国inTMF」も開催された。中でも盛り上がりをみせたのが、大学生を中心に約1000人もの人が出席したスペシャルトークショーだ。ステージにはサプライズゲストとして、ソフトバンクグループの孫正義会長も登場。参加者からは自動車業界の課題や将来についての質問が相次ぎ、豊田会長、孫会長の両名が熱く答えていた。
「第46回東京モーターショー2019」は2019年10月24日~11月4日の期間、東京ビッグサイトを中心に開催が予定されている。
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システムシンポジウム
「あなたと考える自動運転の安心・安全」
内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一つである「自動走行システム」は、10月7日、東京国際交流館(東京都江東区)で、東京モーターフェス2018の併催イベントとしてシンポジウムを開催した。今回のシンポジウムは、「あなたと考える自動運転の安心・安全」をテーマに、自動運転の更なる社会受容性の醸成に向け、市民の理解向上を目的として実施されたもので、自動運転の技術や関連の法規制等、国土交通省や警察庁、日本自動車工業会、大学・研究機関の各方面で安心・安全について取り組む専門家がパネルディスカッションを行い、「自動運転はどれだけ安全でなければならないか」、「自動運転の事故の責任問題」、「自動運転の国際連携」等に関して議論を行った。
シンポジウム前半は登壇者によるプレゼンテーション。プログラムディレクターの葛巻清吾氏はSIP自動走行システムの活動内容を、国土交通省の平澤崇裕氏、警察庁の杉俊弘氏、日本自動車工業会の横山利夫氏もそれぞれの組織における自動運転の取り組みを紹介した。また、東京農工大学准教授のポンサトーン・ラクシンチャラーンサク氏は「ヒヤリハットデータベースを活用した予防安全の進化」について、中京大学専門教授で弁護士の中川由賀氏は「自動運転をめぐる法的責任」について発表。
後半はSIP自動走行システムの構成員で国際モータージャーナリストの清水氏のモデレートによるパネルディスカッション。前半で紹介された法的責任の問題や事故回避のためのシステム開発などについて改めて議論したほか、人間が自動運転システムを過信することによる事故のリスクも話題になった。また、会場からは消費者のコスト負担についての質問があがり、多様な観点から意見交換がなされた。