2016年3月18日
地方創生を“自分ゴト”として捉えにくい首都圏の方々に、一人ひとりに何ができるのか考え、アクションを起こすきっかけとしてもらうためのイベントが、東京・ヒカリエホールで2月27日に開催されました。
第1部では、石破茂地方創生担当大臣とマンガ「地方は活性化するか否か」の著者・こばやしたけしさんのトークセッション、第2部では、地方創生に向けてアクションを起こしている方々によるパネルディスカッションが行われました。
- 主催:
- 読売新聞社
- 後援:
- 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 内閣府地方創生推進室
ご挨拶
石破 茂<地方創生担当大臣>
現在の出生率と死亡率がそのまま続くと、日本の人口は200年後にいまの約1/10、300年後には約1/30になってしまいます。人類がまだ経験したことがない規模とスピードでの人口減少を迎える中で、エネルギーや食糧がつくられ、子供も多く生まれる地方が衰退し、東京だけが栄えるということはありえません。地方を盛り上げていた公共事業や企業誘致を再び、というわけにはいかないが、これまでとはまったく違う視点で価値を見つけ、「地方の方が楽しいじゃない」という価値観をつくっていってもよいのではないでしょうか。
地方の魅力や移住などについて語り合うこのイベントが、皆さん一人ひとりにとっての地方創生を考えるきっかけになれば幸いです。
第1部 トークセッション
当事者の自覚を持ち各々のアクションを
石破 茂<地方創生担当大臣>
こばやし たけし氏<studio
at-take代表、ほのぼの系社会派マンガ家 マンガ「地方は活性化するか否か」の著者。(秋田市在住)>
【進行】
鈴木 美潮<読売新聞東京本社 メディア局編集委員>
地域独自の取り組みで若い世代にアピールに
鈴木 こばやしさんのマンガ「地方は活性化するか否か」は、女子高生が地域活性化について考える物語ですが、いま若い世代が東京圏に流出しています。
こばやし 就職や進学で一度地元を離れるのは悪いことではありません。ただ、帰ってこようとした時に、仕事や賃金の面で受け皿がないんですよね。
石破 「増田レポート」※によれば、全国の過半数の自治体で2040年までに20代、30代女性の数が半分以下に減少します。これは自治体が消滅する可能性があるということで話題になりました。若い世代に地方を選んでもらうためには、東京圏の人が「あそこ面白いよね」と思うような場所にすることが必要です。
鈴木 面白い取り組みをしている自治体もありますよね。
石破 福井県鯖江市では、女子高生が活躍する「JK課」のまちづくりを、積極的に支援しています。また、地方の特長は、行政との距離が近いこと。東京で知事に会うには1年かかりますが、地方であれば数日で会えるでしょう。自分たちの意見や力でまちは変わっていくので、住民には「首長や役所がやってくれる」ではなく「私がやってみよう」と思ってほしい。
こばやし 確かに「やりっぱなしの行政」と並んで「頼りっぱなしの民業」「全然関心なしの市民」が地域活性化を実現できない要因となりがちですね。
活性化を支える4つの人材
鈴木 地域活性化におけるキーパーソンや課題も重要とされています。
こばやし 型にとらわれない「ばかもの」、外からの視点を持つ「よそもの」、エネルギーのある「わかもの」、そして、それらを束ねる「きれもの」が必要です。一方、イベント開催や公共施設建設など「手段」のはずのそれらが「目的」になってしまいやすいという問題点が挙げられます。
石破 「金で賑わいをつくる」のと「賑わいで金をつくる」のとでは、まったく違いますからね。「お任せ民主主義からの脱却」が重要です。
鈴木 私たちが地方創生に参加するために、何から始めたらいいでしょうか。
こばやし やはり、自らが住むまちの出来事を“自分ゴト”として再認識し、まずは身の丈に合わせてできることを考えるべきではないでしょうか。
石破 皆さんのまちの「今だけ・ここだけ・あなただけ」を見つけ、ぜひ発信してください。まずはやってみよう。その行動の積み重ねが、やがて日本を変えていくのです。
※日本創成会議・人口減少問題検討分科会「成長を続ける21世紀のために『ストップ少子化・地方元気戦略』」
第2部 パネルディスカッション「わたしが地方を選ぶ理由(わけ)」
見いだした新たな価値 自分らしくこの地方で暮らす
【コーディネーター】
兼松 佳宏氏<京都精華大学人文学部
特任講師、元「greenz.jp」編集長(京都府京都市)>
【パネリスト】
大森 由紀氏<株式会社オレンジハーモニー ブランドディレクター
(島根県益田市)>
西塔 大海氏<福岡県上毛町 地域おこし協力隊(移住促進担当)
(福岡県上毛町)>
真藤 舞衣子氏<料理家・my-an主宰 (山梨県山梨市)>
野原 典彦氏<ナチュラルフード森の扉 代表
(栃木県茂木町)>
ヒビノケイコ氏<4コマ漫画エッセイスト・作家
(高知県嶺北地方)>
各地で実現する多様な移住スタイル
兼松 今日は地方で生き生きと活躍している方々にお集まりいただきましたが、まずはそれぞれの活動や生活について教えてください。
ヒビノ 高知県の嶺北地方で、家族4世代で暮らしており、パッケージづくりも行うお菓子工房を経営しながら、地域の魅力を発信するためにブログで4コママンガやエッセイを発表しています。
西塔 福岡県の上毛町で行っているのは移住促進の仕事。大学生向け教育プログラムの一環としてリノベーションした築100年の古民家が仕事場で、移住相談や見学の希望者が年間で約1200人訪れます。
真藤 山梨県で地元の食材を使った料理教室やカフェを開いているほか、“食育菜園”を併設した保育園で料理を担当しています。特に親御さんに食育の大切さを伝えているんです。
野原「新規就農者の支援」や「農作放棄地の減少」をテーマに、人口約1万3千人の栃木県茂木町で“オーガニック八百屋”として、宅配やマルシェの運営を行っています。
大森 下着ブランドを立ち上げるため、3年前に夫、娘と縫製工場がある島根県益田市にⅠターンしました。マルチワークで、夫は私塾の、私はヨガ教室の講師をしています。
都会では得られない魅力的なメリット
兼松 地方で暮らすことのメリットとは?
ヒビノ 都会にはあらゆるモノや情報が溢れていますが、地方はそうではありません。アートのフィールドから見ると「何もないからこそ、つくる気になる」環境で、何ごとでも自分が動けば動くほどカタチになっていきます。
真藤 移住して6年経って気づいたのは、捉えようによってはメリットもデメリットもないということ。東京でもひっそりと暮らせるし、地方でもネットがあれば不自由なく過ごせます。その場所で、やりたいことを見つければいいんです。
西塔 当初は何かを手放さなくてはならないと想定していましたが、そうでもなかった。クリエイティブな仕事は自分で持ってくればいいし、逆に刺激的な出会いは増えたとすらいえます。
野原 物理的にではなく、精神的に豊かになりました。隣のおばあちゃんとの会話や近隣の家で行われる飲み会など、近所の方々との日常的な関わりによって、人と人との“有機的なつながり”を感じています。
大森 起業するにあたって家賃が安いのもメリットですし、人口拡大課がある益田市から「空き家バンク」の紹介など、手厚いサポートが受けられました。また、食べ物をはじめとする環境がよいのか、夫の白髪や花粉症もなくなり、家族の健康状態も改善されたんですよ。
自分にとっての地域の価値を見つける
兼松 移住を検討したり、地方とのつながりを求めたりしている方にアドバイスはありますか?
ヒビノ やはり最後は自分で決断するということ。別に失敗してもいいので、後悔しないように納得してから行動に移すべきです。
野原 住んでみたい所をいくつかに絞って、通うことから始めてみるのがいいのではないでしょうか。いきなり引っ越す必要はないと思います。
真藤 そこに住むと決めた以上、何か価値のあるものをつくり出してほしいですね。また、土地ごとにコミュニティーがありますので、最低限のコミュニケーション能力は必要かもしれません。
西塔 気になる地域が見つかったら、そこで次の3人と出会ってください。まずは大家さん。うちの大家さんは親のような存在ですごくいい人なんです(笑)。それから、自らの存在を周囲に認識させてくれる地域の顔役と、同じ立場からの助言をもらえる先輩移住者ですね。
大森 100%理想に合う場所なんてないのですから、自分にとって何が一番大事か、その地域でそれが実現できるかが重要。そして、縁を大切にして日々感謝を忘れないことです。
兼松 様々なお話を伺ってきましたが、そのうちのどれか一つでも、皆さんの地方創生へのアクションのヒントになることを期待しています。
地域の産品、RESAS、移住情報コーナーも
当日は「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」に選ばれた各地の特産品などを取り扱うブース出展も同時開催されました。会場には、生の食感にこだわった八ヶ岳の和菓子や、被災地支援の一環として生産されている岩手県のくるみを使用したお酒など、全国の“おいしいもの”が集結。中でも鳥取県産のビーツを使用したピンク色のカレーは、ひと際目を引いていました。
また、衣服や家具の展示のほか、地域経済分析システム「RESAS」や日本中の移住情報を入手できる「移住ナビ」の体験ブースも設置され、訪れた人々は様々な角度から地域の魅力や情報に触れることができました。
3回のワークショップを振り返って
牧島 かれん<内閣府大臣政務官>
本イベントに先だって、2月中に、地方創生において活躍が期待される世代別で、3回に分けてワークショップを開催しました。
各回ともに、すでにアクションを起こしている方々をアドバイザーに迎え、第1部では取り組みのプレゼンテーションを、第2部では参加者の皆さまとともにディスカッションを行う構成にしたことで、テーマに強い関心を持ってお集まりいただいた方々に、地方創生を“自分ゴト”として受け止めていただけたのではないかと感じています。
移住女子×地方創生 2016.2.5
〝私らしい暮らし〟を探して
【コーディネーター】
長谷川 奈月氏<NPO法人ETIC. ローカルイノベーション事業部
サブマネージャー>
【アドバイザー】
伊勢崎 まゆみ氏<風土農園 (岩手県遠野市)>
樋泉(といずみ) 聡子氏<交流型宿泊施設 WEEK神山 女将
(徳島県神山町)>
横田 響子氏<コラボラボ代表取締役
(東京都)「そうだ、地方で暮らそう!」国民会議メンバー>
地方の人口減少を食い止めるカギは若い女性の移住。実際に地方で暮らしながら活躍する女性らがアドバイザーとして招かれ、UターンやⅠターンに関心のある参加者と、移住先での仕事や暮らしに関する情報を共有しました。
岩手県遠野市で地元出身の夫とともに無農薬・無肥料の米や豆を栽培する伊勢崎さんは、都会での生活を謳歌していた頃に観光で訪れた遠野市の自然や文化に魅せられたエピソードや、田舎での子育てなどについての話を披露。
徳島県神山町で交流型宿泊施設を運営する樋泉さんは、将来の生き方を模索していた時に、厚生労働省の求職者支援制度を利用して神山町に赴いたことや、そこに住む「人」の魅力が本格的な移住の決め手となったことなどを語りました。
また、全国の女性の起業を支援する活動を行う横田さんは、近年増加しているという地方で事業を成功させている女性社長の実例を紹介しました。
グループディスカッションでは、参加者がアドバイザーも交え4、5人で1組となり、移住に対する思いや悩みなどをざっくばらんに意見交換。最後には「NEXT STEP宣言」として、今回のワークショップを踏まえた上での実現可能な目標を発表し合いました。
アクティブシニア×地方創生 2016.2.9
第二の人生の選択を考える
【パネリスト】
黒笹 慈幾氏<高知大学
地域協働学部・地域連携センター特任教授
(高知県高知市)「そうだ、地方で暮らそう!」国民会議メンバー>
黒田 三佳氏<人材育成アカデミー
ローズレーン代表、里山ソムリエ (山形県米沢市)>
雄谷
良成氏<社会福祉法人佛子園理事長、全国生涯活躍のまち推進協議会会長
(石川県金沢市)>
都会で活躍してきた50、60代のシニア世代はどのようにして地方創生に参加できるのか。同年代のパネリストとともに考えました。
出版社を定年退職した後に高知県へ移り、現在は同県への移住誘致の先導役も務める黒笹さんは、自身の趣味である釣りが盛んな高知の魅力に触れつつ、「人生最大の決断の一つであり、欠点も含めてその土地を愛さなければならない移住は、結婚と類似点が多い」と話しました。
たった1回の旅がきっかけで、夫と娘を連れて山形県米沢市で第二の人生を始めた黒田さんは、一歩を踏み出す思い切りの大切さを伝え、「地方には、都会の仕事で培った能力を生かせるたくさんのチャンスがある」とアドバイス。
高齢者や大学生、障害のある人などがともに暮らす街「シェア金沢」を運営して日本版CCRC※を実現する雄谷さんは、地方に多様な人が関わり支え合うコミュニティーをつくることが、シニア世代の移住促進にもつながるという期待を示しました。
グループトークでは、参加者がそれぞれ興味のあるパネリストを囲み、より具体的なエピソードを聞いたり、個別に相談をするなどしました。
※Continuing Care Retirement Community/高齢者が健康時から介護・医療が必要となる時期まで継続的なケアや生活支援サービスを受けながら、生涯学習や社会活動に参加できる共同体
デジタル世代×地方創生 2016.2.17
ⅠTで新しい時代を拓く
【コーディネーター】
伊藤 達也<内閣府大臣補佐官>
【アドバイザー】
川原 均氏<株式会社セールスフォース・ドットコム
取締役社長兼COO(東京都)>
川島
宏一氏<筑波大学システム情報系社会工学域教授(茨城県)>
齋藤 隆太氏<株式会社サーチフィールド 取締役
FAAVO事業部責任者(東京都)>
地域における課題の解決や経済の活性化のためには、都心からの距離や時間の制約を克服できるⅠT/ⅠCTの利活用が欠かせません。3人のアドバイザーが、ⅠT/ⅠCTを生かした地方のイノベーションや仕事の創出、まちづくりなどについて講演しました。
プログラムは、「地域の未来を担うデジタル世代の活躍の場をつくっていきたい」と意気込みを述べた伊藤達也内閣府大臣補佐官の開会挨拶からスタート。
川原さんは、本社の機能の一部を和歌山県の新オフィスに移転したところ、現地での業務効率や社員満足度が向上したことを報告しました。
齋藤さんは地域を盛り上げるプロジェクトに特化したクラウドファンディングサービスを通じて、地域に「チャレンジを賞賛する文化」を根付かせることを目指していると熱弁。
地方自治体で地域開発や情報運用に携わってきた川島さんは「情報を整理してオープンデータ化することが、よりよいまちづくりにつながる」と語りました。 グループディスカッションでは、アドバイザーと参加者が3つのグループに分かれて、それぞれ「地域経済」「地域社会」「地域コミュニティー(まちの賑わい)」をテーマに、自由な議論を行いました。
詳しくは、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局まで