シンポジウム<未病>未病を一緒に考えよう 2015年7月8日(水)よみうり大手町ホール 大ホール

2015年8月26日

 「未来貢献プロジェクトシンポジウム・未病を一緒に考えよう」(読売新聞社主催)が7月8日、東京・大手町のよみうり大手町ホールで開かれ、約450人が参加した。第1部では、横倉義武・日本医師会長と黒岩祐治・神奈川県知事、大谷泰夫・内閣官房参与が、病気になる前段階の「未病」について日頃から意識することで、健康寿命*を延ばす方策を議論した。黒岩知事は未病に着目した神奈川県の施策を紹介した。第2部では、社員や顧客の健康づくりのサポートに熱心な3企業の担当者が、それぞれの取り組みを語った。

未病とは

主催:
読売新聞社
後援:
内閣府、神奈川県、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会、日本薬剤師会
協賛:
ファンケルヘルスサイエンス、みずほ銀行、東京海上日動火災保険

*健康寿命

一生のうちで日常生活を支障なく送れる期間。何歳まで元気に暮らせるのかの指標で、厚生労働省が国民生活基礎調査などを基に算出した。2013年時点の日本人の健康寿命は、男性が71.19歳、女性は74.21歳。平均寿命は男性80.21歳、女性86.61歳。その差は男性9.02歳、女性で12.40歳になる。

かかりつけ医 重要に

横倉 義武氏(日本医師会長)

横倉 義武氏

横倉 義武氏
1944年生まれ。69年、久留米大医学部卒。同大医学部講師を経て90年、福岡県の医療法人・弘恵会ヨコクラ病院の院長に就任。同県医師会理事、同会長、日本医師会副会長を歴任し、2012年4月から現職。

 未病という言葉は、江戸時代の福岡藩の儒学者、貝原益軒の健康指南書にも出てきます。医学界も非常に関心を持っていたテーマです。

 日本医師会は、全国都道府県の医師会、地域の890余りの医師会から成り立っています。医師は、病院や診療所での治療、健康診断や学校健診、労働者の健康管理、休日や夜間の救急医療、在宅医療などの形で、いつも皆さんのそばにいます。

 その中で、何でも相談でき、最新の医療情報を熟知し、必要な時に専門医療機関を紹介できる、総合力を持つ医師を「かかりつけ医」と呼んでいます。生活背景を把握し、身体、心理面などを総合的に判断し、対応しています。また、健康相談や健診といった地域における健康医療活動に積極的に参加し行政や保健、介護福祉関係者と連携して活動しています。

 団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに、高齢者の自立生活を支える地域包括ケアシステムの構築が進められています。

 そのような中で、高齢者の尊厳を保ち、住み慣れた地域で、いつまでも健康に過ごせる社会を実現するためにも、かかりつけ医の果たす役割が重要になってきます。

 未病を含めた病気の予防は、地域の健康を守る一つの視点となります。主役は地域で暮らす皆さんです。よりよい制度、サービスを一緒に築いていきましょう。

特区生かし産業創出

黒岩 祐治氏(神奈川県知事)

黒岩 祐治氏
1954年生まれ。80年、早稲田大政経学部を卒業後、フジテレビ入社。報道記者などを経てキャスターとなり、「報道2001」などを担当。2009年退社。国際医療福祉大大学院教授を経て、11年から現職。

 神奈川県では1970年はきれいな人口ピラミッドでしたが、2050年には全く逆の形になって、85歳以上の人が最も多くなると予測されています。病気がちな高齢者が皆、病院に行くことになると、医療システムそのものが崩壊してしまいます。

 このため、三つの特区を活用し、未病を治すアプローチと最新の医療技術とを融合させることで、「健康寿命日本一」になることと新たな産業の創出を目指しています。

 健康と病気を二分法で考えがちですが、実際には色のグラデーションのように連続的に変化していくものであり、そのグラデーションの部分が未病です。

 どの段階にいても少しでも健康に近づけるのが未病を治すことです。そのために神奈川県では、食、運動、社会参加の取り組みを進めています。新たな技術や産業も生まれてきています。

 10月には、未病を学術的に議論して世界に向けて発信する「未病サミット」を箱根で開きます。世界でも初めての開催です。医療関係者に加え、遺伝子情報やロボット技術、コンピューターの専門家など様々な分野の英知が結集します。

 病気を治す時代から、未病を治す時代へ。今、大きく変わろうとしているのです。

生活していく治療へ

大谷 泰夫氏(内閣官房参与)

大谷 泰夫氏

大谷 泰夫氏
1953年生まれ。76年、東京大法学部を卒業後、厚生省(当時)入省。厚生労働審議官などを務め、2014年退官。同年から現職。今年4月、国立研究開発法人・日本医療研究開発機構理事に就任。

 日本は、これまでの歴史でも類を見ない超高齢社会にありますが、急激な人口動態の変化に対応できる社会制度はまだ確立していません。長生きしても介護が必要な状態が長く続くという課題に直面しています。

 未病は、健康でも病気でもない状態を指します。

 従来の医療政策では、健康か病気かの二分法の上に立ち、どうやって病気やけがを治すかが中心課題でしたが、これからは病気との共存が非常に大切になります。

 人生の長い時間、多くの国民が未病の領域にいます。治す治療から、生活していく治療へ。今後は、この領域の健康・医療戦略を考えていかねばなりません。

 政府の健康・医療戦略の命題は健康寿命を延ばすことです。健康寿命は、介助を受けずに普通に暮らせる期間のことですが、これは「未病寿命」とも置き換えられます。定期健診やがん検診を受けて自分の健康が100点満点ではないと自覚した上で健康を維持・改善する意識を持つこと、また、病後も回復後もさらに重症化しないように予防を考えることが大切になります。

 少々問題を抱えていても、病気ではないと捉えて行動する、それを行政や企業が支えていく。未病という意識改革を切り札に、大きな運動を展開していくことが新たな対策となります。

3氏討論

大谷 未病を考える際、生活者にとって大切になるポイントは。

横倉 健康は自分で作るもの。生活習慣病は生活の中から起きています。食事、運動、睡眠など正しい生活習慣が重要です。子どもの運動能力の低下も深刻です。昔から言われていることですが、3食食べること、早寝早起きといった習慣を、子どもの頃から身につけてほしいですね。

大谷 医療費や地域の仕組みづくりでは行政に大きな負担がかかります。どう支えますか。

黒岩 医療費は伸び続けていますが、財政論から議論に入らず、健康な時期を延ばすことで医療費を抑制したい。行政がやることには限界があり、民間の力でどう盛り上げるかがポイントです。神奈川県の未病産業研究会には約190社が参加しています。また、体にいいことをすると買い物でお得になるなど、住民を引き込む手法も大事です。

大谷 政府の成長戦略でも、健康医療サービスを産業として捉える流れがあります。キーワードは、「ポジティブ(積極的)」で、「ちょっとファジー」、しかし「安全第一」の三つです。では、今後の医療の展望や民間との連携について、一言お願いします。

横倉 医療者、経済団体、有識者らから成る日本健康会議が発足します(7月10日に発足)。利害を超え、国民の健康のために団結しようと大きな波が動き出しています。また、未病という運動が社会を動かしつつあります。世界一の高齢社会である日本が問題をどう解決していくのか。世界のモデルになっていくことが望まれています。

大谷 企業や専門家は未病の分野にどう取り組めばいいのでしょうか。県の施策の将来像を教えてください。

黒岩 国や民間の膨大な電子情報のビッグデータを活用し、一人ひとりが自分の状態をチェックしながら、食の指導や運動習慣などで未病を治していく、いわゆる「個別化・治未病」を目指します。日本には、日本食など未病を治す伝統的な手法があります。生活の中で未病を治しながら暮らしてきました。原点に戻り、かかりつけ医がいる安心感の中で健康づくりができる流れを作ります。

大谷 これからは、未病を前向きに捉え、病気があっても積極的に生きる考え方が大切になります。国が旗を振る従来の医療とは逆で、未病については、個人の主体的な選択を企業や専門家が支え、地域行政がその背景を作っていくことで、新しい健康・医療戦略にたどり着けるのではないかと思います。

協賛

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