男女共同参画シンポジウム 2016年10月29日(土)東洋大学 白山キャンパス 井上円了ホール[参加無料]

2016年11月28日

 日本の私立大学における初めての女子学生が東洋大学に入学してから、今年で100年。先月29日、その東洋大学で産官学の識者らが男女共同参画について論じるシンポジウムが開催されました。1部では女性の活躍を中心としたダイバーシティの意義、またその実現に向けた取り組みなどについて意見が交わされ、2部では一層の活躍が期待される「理系女子」が、それぞれの経験を踏まえてディスカッションしました。

記念すべき百周年 さらなる前進を

竹村 牧男氏(東洋大学 学長)

 東洋大学はいまから100年前の1916年に栗山津禰さんを受け入れ、私立大学として初めて男女共学を実現させました。栗山さんは卒業後に中学教師になりましたが、これも女性初のことです。受け入れの背景には、創立者・井上円了の「広い層に学習機会を提供したい」という熱い思いがありました。

 本日のシンポジウムが、男女共同参画、そして女性の活躍の重要性について考えるとともに、本学における様々なダイバーシティのさらなる推進をもたらす機会となれば幸いです。

1部

女性エンパワメント
未来を拓くダイバーシティ
—東洋大学の女子学生入学から100年—

主催:
東洋大学
共催:
読売新聞社
後援:
内閣府

基調講演

女性活躍によるダイバーシティ

菅 義偉氏

菅 義偉氏(内閣官房長官)

 ダイバーシティ社会とは、性別、国籍、年齢、人種、宗教、障害の有無、価値観、キャリア、経験、働き方などに関わらず、多様な個性が力を発揮できる世の中のこと。これは安倍晋三内閣総理大臣が実現を約束する「一億総活躍社会」と通ずるものがあります。

 「一億総活躍プラン」の中核に据えたのが「女性活躍」です。就業を希望しているものの、働ける状況にないため求職していない女性が300万人もいるとされているなど、女性は最大の潜在力です。安倍政権では50万人の保育所の定員増を図るとともに、育児休業給付を拡大しています。しかし、男性の育児休業の取得率はいまだ低く、意識改革が必要です。また、大企業や国・地方公共団体に女性活躍のための行動計画の策定や情報の公表を義務づける女性活躍推進法も今年4月に完全施行しました。

 そのような中で大きな成果が上がっているのが、女性の雇用の増加です。安倍政権の下では、就業者数が100万人増加しているだけでなく、第一子出産後の就業継続率、上場企業の役員数、国家公務員の採用率などが改善しています。

 今後女性の活躍をさらに推進するカギは「働き方改革」だと考えています。長時間労働の是正、同一労働同一賃金の実現、柔軟な働き方の推進などに取り組んでいきます。

シンポジウム

未来を拓くダイバーシティ −産官学で考える−

インセンティブで企業支援

武川 恵子氏

武川 恵子氏(内閣府 男女共同参画局長)

 女性活躍推進法に基づき、女性の活躍推進に取り組む企業を3段階で評価する「えるぼし」認定。すでに182社が「えるぼし」の認定を受けており、年間5兆円規模の政府調達で、「えるぼし」企業が加点評価されることになります。また、上場企業の女性役員を増やすよう要請。2012年に630名(1・6%)だったのが16年には1388名(3・4%)に増加しています。さらに、女性役員を増やすため、モデル研修プログラムをつくって提案します。

7原則に224社が署名

福嶌 香代子氏

福嶌 香代子氏(UN Women 日本事務所長)

 UN Womenは、2010年の国連総会決議に基づき設立された、ジェンダー※1平等と女性のエンパワメント※2のための国連機関。具体的な活動の一つとして挙げられるのがグローバル・コンパクトとともに女性のエンパワメント原則(WEPs)を策定したことです。「トップのリーダーシップによるジェンダー平等の促進」、「機会の均等、インクルージョン、差別の撤廃」、「教育と研修」、「地域におけるリーダーシップと参画」などの7つの原則には、日本の224社を含む世界1000以上の企業が署名しています。

※1 ある時代のある社会が、そこに所属する男性・女性にとってふさわしいとする役割、行動、性質など
※2 さまざまな選択肢を得て、自らの生活への制御感と力を獲得すること

多様性支える独自の制度

丸山 誠治氏

丸山 誠治氏(NTTドコモ 取締役執行役員人事部長)

 ダイバーシティ推進を経営の柱にするNTTドコモでは、年次有給休暇の失効分を積み立てて育児等の目的で取得できる「ライフプラン休暇」や、生後満3歳までの子を持つ社員が取得可能な「育児休職」などの制度を通して、女性が働きやすい環境を整備しています。管理者になることがイメージできない人には、同性のロールモデルやメンターを提示し、キャリア支援を積極的に行うことで、近年ではキャリア意識の高い人が多くなり、管理者登用も進んでいます。また、障がい者の雇用やLGBT社員への支援にも力を入れています。

最高水準の男女共同参画

矢口 悦子氏

矢口 悦子氏(東洋大学 文学部長)

 東洋大学は全11学部中3学部の学部長が女性で、これは全国の主要大学の中でトップの比率。学部の女子学生比率も、学生数上位10大学の中で最大です。大学職員は女性の方が多い傾向があるのですが、本学は男女比が半々に近く、総合的に男女共同参画が進んだ大学だと胸を張れるのではないでしょうか。ただし、企業と同じように、学生、職員、教員のそれぞれに男女共同参画に向けた「見えない壁」が存在していることも事実です。その壁が生まれた理由を解き明かし、取り払うことに貢献していきたいと思います。

産業・組織で実現度に格差

今村 肇氏

今村 肇氏(東洋大学 経済学部 教授)

 本学の現代社会総合研究所では、従業員100人以上の1282法人を対象にダイバーシティ進展度を分析。女性社員比率、女性社員継続雇用比率、女性役員比率など7つの指標から「ダイバーシティポイント」を導き出し、各企業を順位づけしました。上位企業の産業には報道・情報通信、電子・化学など、下位企業には宿泊・飲食、生活関連など。技術イノベーションの恩恵を受ける産業は時間管理・働き方改革がしやすい一方、そうでないところは女性のエンパワメントなど、さらなる組織イノベーションが必要と思われます。

東洋大学が推進役として

<コーディネーター>
松原 聡氏(東洋大学 副学長)

 本学が公表した主要企業のダイバーシティ進展度調査結果が、今日の議論を踏まえて我が国におけるダイバーシティ実現に向けた取り組みの一助となることを期待します。本学は今後も私立総合大学で初めて男女共学を実現した高等教育機関として、これまでの100年の歴史を生かし、ダイバーシティの拡充に努めていきます。

2部

理系女子に懸かる日本の未来

主催:
読売新聞社
後援:
内閣府、東洋大学

基調講演

女性の社会進出の状況

加藤 勝信氏

加藤 勝信氏(女性活躍担当大臣/内閣府特命担当大臣(男女共同参画))

 女性の活躍は企業や社会に労働力としてだけでなく、多様性ももたらします。その結果、商品の開発やサービスの提供などにおいてイノベーションが引き起こされ、生産性の向上を通じて経済成長へとつながるのです。我が国では女性の就業者数、就業率ともに改善してきてはいますが、世界の先進国などと比べると、まだまだ男女共同参画が進んでいないのが実情です。

 女性が活躍できる社会とは、仕事に加えて、家事や育児も男女で共有する社会のこと。日本の夫の家事・育児関連時間は、国際的に見て低水準です。これからは男女共同参画基本計画における施策などを通して、男性中心型の労働慣行の変革を目指します。

 本シンポジウムの2部は理系女子がテーマ。研究者の中で女性が占める割合は年々増加していますが、これもまた他国に遅れをとっています。女性が不得意な分野なのではなく、機会が提供されていないということでしょう。政府においては、女子中高生・女子学生の理工系分野への進路選択を応援する「リコチャレ(理工チャレンジ)」などの取り組みにより、理系女子が力を発揮できる環境をつくっていきます。

パネルディスカッション

イマドキ理系女子の最前線

女性専門職は働きやすい!?

華房 実保氏

華房 実保氏(三菱化学株式会社 機能化学本部グループマネージャー、前内閣府男女共同参画局審議官)

政井 華房さんは最近まで男女共同参画局の審議官を務められていました。日本における理系女子の現状や、国の取り組みについて教えてください。

華房 理系の学部や研究科に進む女性は、男性に比べて全体的に少なく、中でも理学や工学の分野は突出して少ないです。また、女性の研究者の割合は14・7%ですが、研究者の約3分の2が所属する「企業」に限定すると、その数値は8・2%まで下落するのです。

このような背景から男女共同参画基本計画では「科学技術・学術分野における女性の参画拡大」、「女性研究者・技術者が働き続けやすい研究環境の整備」、「女子学生・生徒の理工系分野の選択促進及び理工系人材の育成」などを掲げています。

政井 大学や企業の立場からはいかがでしょうか?

八田 亜矢子氏

八田 亜矢子氏(タレント)
東京大学医学部健康科学・看護学科卒業、同大学院医学系研究科修士過程終了。テレビのバラエティー番組やラジオなどで幅広く活躍中。

金子 全国の理系学部の平均女子学生比率は34・3%、研究科は約20%です。東洋大学の生命科学部は36・1%、研究科は38・6%と平均値を上回っています。また一昔前の理系女子は「実験室から出てこない」「地味」「笑わない」などのイメージを持たれていましたが(笑)、生命科学部の学生は本当に元気で明るいですよ。実験をしているうちにどんどん楽しくなるようで、半数近くが研究科に進学しています。

華房 三菱化学では、2008年にダイバーシティ推進グループを設置し「女性活躍推進宣言」を策定。13年からは、女性活躍支援だけではなく、個々人の内面的な多様性も踏まえ、誰もが働きやすい環境づくりに取り組んでいます。社員の女性比率はまだ14%程度ですが、妊娠・出産を理由に退職する人はほとんどいないです。中小企業の場合は、専門の部署を設けることなどがなかなか難しいでしょうから、そういった点に配慮した国の施策も求められます。

八田 私も大学で理系に進んだのですが、工学系のクラスを筆頭に女子学生の少なさを肌で感じていました。ただ、専門職として企業で働いている友人に話を聞くと、華房さんの会社のように、出産などの際に手厚いサポートを受けているようです。実は女性にとってすごく働きやすい分野なのかもしれません。

各種イベントでキャリアを明確に

金子 律子氏

金子 律子氏(東洋大学 生命科学部長)

政井 理系女子が働き続けやすい職場も少なくないことが分かりました。一方で、研究者になることを希望する女子学生の母数自体が少ないという問題もあります。

金子 男女共同参画学協会連絡会が理系学会員を対象に行った調査では、「進路選択に影響したこと」は男女ともに「幼少時に自然にわいた興味」が第1位です。また、女性の方が男性より、中高生の時期の周囲の影響が理系選択に影響した傾向がありました。ですから、理系選択者を増やすには、幼少期を始めとする様々な時期での働きかけが重要であると思います。

八田 確かに私も子どもの頃から算数や理科が大好きでした。何回分かの誕生日とクリスマスのプレゼントとして、天体望遠鏡を買ってもらったほどです。

政井 マヤ氏

<コーディネーター>
政井 マヤ(フリーアナウンサー)

華房 いま化学を学んでいる20歳の娘の過去を振り返っても、その通りだと思います。そして、湧いた興味を深めながらキャリアをイメージしてもらうことが大事。今年の「夏のリコチャレ」では、90の団体が協力して144のイベントを行い、合計約1万2千人が参加しました。企業としても、もっと会社見学や実験教室などの機会を提供できるといいですね。

金子 本学でも、小中学生を対象にしたサマースクールや、女子中高生対象の「生命科学探求ツアー」、高校生向けの生命科学実験教室と、様々な催しを実施しています。大学生に対しては、キャンパス内企業説明会や「OGを囲む会」など、就職支援にも力を入れています。実際に理系の仕事に就いている先輩の話を聞ける「OGを囲む会」は学生たちに大好評です。

八田 「リコチャレ」や「OGを囲む会」などを通して、将来のビジョンが明確になるのは素晴らしいことだと思います。「女性だから」という理由で理系の道を諦めている人もいるかもしれません。だけど、人口の半分は女性で、そのニーズに向けた研究開発ができるのは女性研究者のはずです。今後、さらに理系女子が働きやすい世の中になることを願っています。

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