2016年9月23日
約300の研究施設が立地する茨城県つくば市。G7科学技術大臣会合が開かれたこの地で、8月18日(木)~20日(土)に「イノベーションキャンパスinつくば2016」が開校。高校生たちが多彩な分野の研究者・企業人の授業を受け、最先端のイノベーションに触れました。
- 主催:
- 茨城県、茨城県教育委員会、つくば市、つくば市教育委員会、読売新聞社
- 後援:
- 文部科学省、経済産業省、科学技術振興機構
- 協賛:
- アサガミ、茨城県開発公社、茨城県環境保全事業団、茨城県信用組合、ウエルシア薬局、Classi、五光物流、常陽銀行、新日鐵住金、関彰商事、筑波銀行、東京ガス、日本アイ・エス・ケイ、日本テレビ放送網、富士通、ベネッセコーポレーション(50音順)ほか
第一部
開校式
学長あいさつ
橋本 昌(茨城県知事)
全国からお越しの皆さん、これからの日本の発展を支える最先端の科学技術に触れて、大いに刺激を受けて下さい。
基調講演
中村 正人(JAXA宇宙科学研究所教授)
地球と全く違う金星の気候を調べ、新たな気象学を創ろうというのが金星探査計画です。特殊カメラを備えた金星探査機「あかつき」を2010年に周回軌道に投入するも失敗。しかし、チーム全員が成功を信じ、万が一の不具合に備えて万全の予行演習を行い、すべてをやりきった結果、打ち上げから5年後の12月にラストチャンスでの再投入に成功し、観測データから多くのことがわかってきました。「あかつき」の“失敗の末の成功”が、皆さんを勇気づけられればうれしいです。
特別講義
長沼 毅(広島大学教授)
発明や改良はイノベーションとは似て非なるものです。どんな分野でも市場や社会に突破口を拓く、オリジナルで新しくかつ重要なもの。それがイノベーションです。今ある技術は必ず頭打ちになりますから、突破口を切り拓く必要があるのです。また、イノベーションには「思う」のではなく「考え」「行動する」ことが重要です。考え方には比較、類推、関連、想像の4つのステージがあります。イマジネーションや共感につながる「想像」のレベルにぜひ到達してほしいです。
選択講座
開校式の後は、A~Gの7コースに分かれ、1、2時限の講座を受講しました。
1時限目 | 2時限目 | |
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Aコース |
オープンデータから世の中の状況を調べてみよう!
西野 文人氏(株式会社富士通研究所 知識情報処理研究所) |
火星に行く、火星に住む、火星で農業する!
長沼 毅氏(広島大学) |
Bコース |
森の恵み — 樹木から化学製品 — 山田 竜彦氏(森林総合研究所) |
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Cコース |
空の産業革命は、空飛ぶクルマ
岩田 拡也氏(産業技術総合研究所) |
ニュートリノの秘密に迫る!
多田 将氏(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所) |
Dコース |
ものづくりの最先端を支える先進材料「鉄」
岡田 光氏(新日鐵住金株式会社) |
ディープラーニングのアルゴリズム
櫻井 鉄也氏(筑波大学) |
Eコース |
未来の手術を体験してみませんか? 3Dでできることわかること 大城 幸雄氏(筑波大学) |
プラスチックで病気を治す? スマートポリマー 荏原 充宏氏(物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)) |
Fコース |
テレビの技術大公開! ~番組制作から最新技術まで~ 穗坂 怜氏(日本テレビ放送網株式会社) |
藻類から探る植物の進化とその秘めた可能性
山口 晴代氏(国立環境研究所) |
Gコース |
プログラミングは世界を支えている
佐々木 達也氏(Classi株式会社) |
世界の教室をつなぐ遠隔ロボット技術
田中 文英氏(筑波大学) |
オープンデータから世の中の状況を調べてみよう!
西野 文人氏(株式会社富士通研究所 知識情報処理研究所 人工知能研究センター ナレッジシステムプロジェクト 専任研究員)
オープンデータは誰もが自由に使え、加工して再配布できるのが特徴で、新しいサービスの創出や社会問題解決、イノベーションの促進に役立つと期待されています。2013年のG8を機に各国がオープンガバメントの一環として進めており、日本も各省庁のデータを集約したデータカタログサイトを公開しています。自分で作る人たちもいて、データを簡単に公開できるサイトやオープンデータのコンテストもあります。実際に、地域の問題を共有するなど面白い活用例も出ています。
森の恵み
— 樹木から化学製品 —
山田 竜彦氏(森林総合研究所 木材化学研究室長)
日本の森林は25万㎡と国土の67%を占め、約半分は人工の針葉樹林です。木材の成分中約30%を占めるリグニンが有効利用されていなかったことから、地域の林業を活用しリグニンを資源化するコンソーシアムを立ち上げました。そしてスギを対象に、改質リグニンを木質から直接取り出す方法を発明したのです。リグニンはプラスチックやフィルムへの加工、高付加価値な炭素フィルターに利用できます。今まさに、森が資源の供給源となるイノベーションが生じつつあります。
火星に行く、火星に住む、火星で農業する!
長沼 毅氏(広島大学 教授)
私は火星で農業(生物生産)をしたいと考えています。火星の太陽光は地球の半分弱ですが、光合成には十分です。火星探査機によって窒素とリンがあるとわかっており、地表近くに氷もありそうです。光合成で酸素を作り、地球化(テラフォーミング)の切り札になるのは地衣類でしょう。強い太陽風や放射線を避けるためには、穴の中に住んで集光機で採光するのがよさそうです。火星移住計画も進められており、移住者のコミュニケーション面などでもイノベーションが必要です。
空の産業革命は、空飛ぶクルマ
岩田 拡也氏(産業技術総合研究所 知能システム研究部門 フィールドロボティクス研究グループ)
軍用の無人標的機として開発されたドローンは、現在カメラやセンサー搭載の無人機として活用されています。さらに次世代の産業として、輸送用途や空飛ぶクルマへと発展するでしょう。空飛ぶクルマの条件は、安全で騒音を出さず、長距離を飛べて人が乗れることです。また社会に受け入れられるためには「空路」と「事業免許」の整備が必要です。地形を問わない輸送交通手段としてすべての地域を豊かにする可能性を秘めており、世界から争いをなくす技術となるかもしれません。
ニュートリノの秘密に迫る!
多田 将氏(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 准教授)
私たちは東海村で作ったニュートリノを約300km離れたスーパーカミオカンデまで飛ばし、その性質を調べる実験をしています。物質を作っている素粒子はクォークが6種類、レプトン(電子とニュートリノ)が6種類です。宇宙誕生最大の謎は、理論上は物質と反物質が出会って消滅するはずなのに、物質世界が存在することです。「それは物質・反物質の数が非対称だったからではないか」という小林・益川理論を、ニュートリノから証明しようというのがこの実験なのです。
ものづくりの最先端を支える先進材料「鉄」
岡田 光氏(新日鐵住金株式会社 技術開発本部 鹿島技術研究部)
鉄は人類の使う金属の95.8%を占め、生活に不可欠な素材です。2050年には1950年の約10倍の鉄が消費されるといわれ、いまだ大きな可能性を秘めています。自動車用には強くて変形自在な薄板が求められますが、生産工程で表面に疵(きず)ができるという問題がありました。私はさまざまな方向から実験を繰り返し、疵を防ぐ方法を発見。現在は省エネという課題に取り組んでいます。イノベーションを起こすには諦めないこと、周囲の協力を得て失敗を次に活かすことが大切です。
ディープラーニングのアルゴリズム
櫻井 鉄也氏(筑波大学 システム情報系 教授)
ディープラーニングは人工知能が「自分で考える」ための計算方法の一つです。神経細胞(ニューロン)のつながり方を数式で表してモデル化し、コンピュータ上で再現します。たとえば手書き文字を識別できるようにするためには、膨大な画像を数値に変換して入力し、正解に近づけるように計算していきます。もっとも単純な人工ニューロンのモデルは高校数学で学ぶ「ベクトル」の考え方に基づいています。それを多層構造にして正解率を上げることで、ディープラーニングは成り立っているのです。
未来の手術を体験してみませんか?
3Dでできることわかること
大城 幸雄氏(筑波大学 医学医療系消化器外科 講師)
コンピュータと医療が融合し、CTやMRIのデータを見やすく3D加工できるようになりました。実際の臓器に画像を投影し、手術のシミュレーションやナビゲーションに使われています。3Dプリンタで出力すれば実感を持ってシミュレーションできますし、手術の際の臓器の変形をリアルタイムで反映するシステムも開発しました。すべての手順をリハーサル済みなので、安心安全に手術ができます。これらのコンピュータ外科手術支援は、外科医の教育にも活用されています。
プラスチックで病気を治す?
スマートポリマー
荏原 充宏氏(物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA) 准主任研究者)
プラスチックも私たちの体のタンパク質も、分子が繋がっているポリマーです。注射器、点滴チューブ、人工血管など医療材料の歴史はほぼポリマー利用技術の歴史と言えるでしょう。スマートポリマーとは、特定の病原体を入れると固まったり、形状記憶機能を持ったりなど、外部刺激に応答して性質を変えられる特殊なポリマーです。これらを使って、腕時計状の人工透析装置や、体に貼れて患部を温めながら薬を放出する抗がんメッシュなどを開発。今までにない治療法を作ろうとしています。
テレビの技術大公開!
~番組制作から最新技術まで~
穗坂 怜氏(日本テレビ放送網株式会社 技術統括局 インターネット技術部 副主任)
テレビの裏側では、番組制作・伝送・収録・編集・管制等の各段階で最新技術が番組を支えています。ニュース番組では、取材現場それぞれに最適な機材を選択して、情報をより早く正確に伝えることを心がけています。また最近では、放送と通信を融合させたハイブリッドキャストや、テレビを利用した分散コンピューティング技術、「いつでも」「どこでも」視聴可能なインターネット配信等の研究にも取り組んでいます。今後も新サービスを展開していきますので楽しみにしていてください。
藻類から探る植物の進化とその秘めた可能性
山口 晴代氏(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 研究員)
藻類はミドリムシやワカメなど、陸上植物以外で光合成をして酸素と有機物を作る生物の総称です。約27億年前に出現し、おかげで多くの生物が生存可能になりました。現在藻類は、油、バイオエタノール、水素などのエネルギーや、食料、医薬品、珪藻土などの材料、飼料等に使われています。藻類はどこにでもいて、非常に多様です。まだ、私たちの身近な環境に将来役に立つ藻類が隠れている可能性があります。これからそんなスーパー藻類を一緒に探してみましょう。
プログラミングは世界を支えている
佐々木 達也氏(Classi株式会社 プロダクト部 部長)
プログラミングは今やなくてはならないものです。銀行のATMやGoogle Mapのない世界を想像してみましょう。ただしシステムを正しく動かすためには、エンジニアがコンピュータに条件と動作を漏れなく正確に伝えることが大切で、そこに多大な努力がなされています。プログラミングは難しいものではなく、書けば動くので単純に楽しいし、うまくいけば世界中の人に使ってもらえるかもしれません。誰でもパソコンとネット上の情報だけで世の中を変えられる可能性があるのです。
世界の教室をつなぐ遠隔ロボット技術
田中 文英氏(筑波大学 システム情報系 准教授)
分身ロボットを遠隔操作するテレプレゼンス(遠隔存在感)ロボットを子ども向けに開発し、擬似留学体験できるようにしました。この技術は英会話教育においても、緊張を解いてより早く話せるようになる効果があります。勉強を教えるロボットも世界中で開発されていますが、逆転の発想で「できの悪いロボット」を作り子どもたちに教えさせたところ、子どもたちの成績が上がりました。人工知能やロボットは今後、「人間の力を引き出す」形のものも注目されていくでしょう。
交流会
ロビーと渡り廊下には各講師のブースのほか、協賛企業や自治体のブースがオープン。高校生たちはお目あてのブースを自由に回って質問をしたり、選択講座で説明を受けた素材や機器をじかに見たり、触ったり操作したりと、楽しい時間を過ごしました。
ブースが集合しているので全て回ることができた!
修了式
修了あいさつ
市原 健一(つくば市長)
皆さんが将来、人類の発展のために科学技術で問題解決することを期待しています。
まとめ
壇上には選択講座の先生方が勢ぞろい。学長の長沼先生の司会で、参加者から寄せられた中から質問に答えていただき、第一部を締めくくりました。
第二部
第一部のプログラムの後は、2泊3日の第二部がスタート。まずつくば市内の研究機関を訪問し、イノベーションが生まれる現場を見学しました。さらに最終日のプレゼンテーションを目標に、高校生同士で話し合って問題解決するグループワークに参加。自ら考え発言し、チームを作って協力する体験をしました。
『Classi』を使った新しい学習サポートの形
今回から学習支援クラウドサービス「Classi」を導入。自分のスマートフォンやタブレットを用いて、グループ内での情報共有や講師への質問に活用しました。多くの生徒がすぐに慣れ、掲示板で熱い議論が交わされることもありました。
参加した高校生の声
「今まで参加したイベントの中で一番面白かったです」「自分の将来に向けてとても参考になりました」「予想していたよりずっと講義が面白かった」「つくばにまた来てみたいです」と、うれしい声が多数寄せられました。
協賛