2016年12月19日
未来貢献プロジェクトの未病シンポジウム「スポーツ健康科学と医学・医療 スポートロジーを考える」(読売新聞社主催)が11月22日、東京都中央区の日本橋三井ホールで開かれ、約500人が参加した。基調講演に鈴木大地・スポーツ庁長官が登壇したほか、医療関係者と、世界陸上銅メダリストの為末大さんら元スポーツ選手が、スポーツが健康や生活に与える影響について語った。
- 主催:
- 読売新聞社
- 後援:
- スポーツ庁、国際スポートロジー学会、日本障がい者スポーツ協会
- 協賛:
- 学校法人順天堂
健康寿命延ばす知恵
大谷 泰夫氏(前内閣官房参与)
高齢化が進み、よく65歳以上や75歳以上の話が出ますが、病気の手前となる「未病」は40歳以上を対象にします。今や日本に40歳以上は7000万人以上もいて、人口の大半を占めます。
平均で80、90歳まで生きる時代ですが、大事なのは「健康寿命」です。
40歳を過ぎたら、一点の曇りもなく「完全な健康」という人は減ってきますが、「完全に病気」という人も実はそんなに多くはいません。未病とは、このゾーンの人たちのことです。
ここで大事になるのが生き方の問題です。「健康寿命を延ばしましょう」と言われても、何かやりたいことがないとピンと来ない。
その点、スポーツは動機付けになりますね。スポーツを続けるためには、食事にも気をつけます。もちろん筋力維持など、スポーツ的な知識、技法から学ぶところも大きいと思います。
スポーツを習慣づける
鈴木 大地氏(スポーツ庁長官)
2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会まで5年を切った昨年10月、スポーツ庁が発足しました。私は初代長官に就任し、現在に至ります。取り組むミッションは大きく分けて五つあります。〈1〉スポーツによる健康増進〈2〉我が国の国際競技力の向上〈3〉国際的地位の向上〈4〉スポーツによる地域・経済活性化〈5〉子どものスポーツ機会の充実——です。
スポーツを通じた健康増進のための取り組みについて、ご紹介します。
新潟県見附市でスポーツしている人としていない人を比べたところ、3、4年後、スポーツしている人の1人当たりの年間医療費が10万円抑制されたそうです。三重県いなべ市でも運動した人の医療費が減ったというデータが出ています。
成人で週1回以上スポーツを行う人の割合は直近で40%です。私たちは21年までに、これを65%に増やしたいと思っています。年代別では20、30歳代が低いんです。特に女性。子育て、家事、仕事、忙しくてスポーツができない人が多い。働き方も変えていく必要があるだろうと思っています。
私も忙しくジムにいけないので朝走っていますが、走れない日は13階のオフィスまで「登山」しています。ちょっとした心掛けでスポーツする習慣が作れるのではないかと考えています。
障害者スポーツの振興も重要です。障害者の週1回以上のスポーツ実施率は一般成人よりさらに低くて19%。障害のある人たちも安心して安全にスポーツできる環境の整備にも取り組んでいきます。
超高齢社会予防が第一
代田 浩之氏(順天堂大学医学部長)
「スポートロジー」という言葉をご存じでしょうか。
スポーツと医学、その他の専門科学が融合した新しい学問領域です。超高齢社会の日本は、未病の段階からの予防が極めて重要。スポートロジーは、身体活動と健康の関係を研究する学問として、社会に貢献すると考えています。順天堂大学では医学部だけでなく、スポーツ健康科学部や看護学部も含め、スポートロジー研究を進めています。
その研究で最近わかったことを紹介します。脳卒中や心臓病の原因となる動脈硬化は、歩けば歩くほど進行しなくなり、動脈硬化の程度を示す血管の内側の厚みも薄くなって改善する方に動いていきます。
糖尿病も、食事療法だけより、運動療法と両方やる方がよくなります。またメタボリックシンドロームの人ほど脳機能も落ちやすいのですが、運動はメタボを改善し、脳神経も活性化します。健康寿命を延ばし、介護を受ける時期を遅らせることにもつながります。
継続できるルール作る
為末 大氏(元プロ陸上選手)
高齢者の陸上競技マスターズの方と話す機会がありました。目標は世界一。どうやって世界一になるかというと、「ライバルより長生きして最後の1人になっても走っていればいい」と言うんです。実は日本はマスターズが強いんです。
どうやったら健康になれるか、結構僕らはわかっているんです。問題はどうやって、その習慣を続ければいいか。それが難しい。
選手はルール化が得意。人間の心は弱く誘惑に負けてしまう前提に立ち、継続できるルールを作る。やせたいと思ったら冷蔵庫から食べ物を捨てる。コンビニから遠い所に住むとか。やるぞと思い立った時に、紙に書くのではなく、ルールを作るのが大事なんです。
仲間を作るのも大事。面倒な日でも周りにつられてやったりする。次にスケジュール化。1年に1回何かを披露する機会を作り、それまでに体を整えるというのもいいのではないかと思います。みんなの前で何かを披露するとなると、やはり日常に気を使います。
ハンデあっても挑戦を
京谷 和幸氏(元車椅子バスケットボール日本代表)
23年前の交通事故で下半身不随の宣告を受けました。車椅子バスケットボールを始めたのは、妻が障害者手帳の手続きに行った時の市役所職員が選手で熱心に誘われたから。最初はやる気がありませんでしたが、リハビリする中でスポーツは良いと聞き「やろうかな」と傾きました。
「障害者スポーツだろう」と言い訳を作り、逃げたこともあります。でも国体に出て、選手同士が戦術について緻密な会話を交わしているのを聞いて「これはスポーツだ」と思いました。「サッカーの時の輝きを取り戻せるかもしれない」と全力を尽くしました。
その後、シドニーから四つのパラリンピックに出場し現役引退。今年のリオデジャネイロの大会もコーチとして同行しました。
事故や病気でハンデを負っている人たちには何でもいいからスポーツをやってほしいです。体力的な面だけでなく心が豊かになり、生活の質の向上につながっていくと思うので。