2017年12月8日
自動運転や電気自動車などが普及した次世代クルマ社会の到来は、私たちの暮らしをより安全で快適なものに変える最も重要なポイントの1つになるだろう。官民の積極的な取り組みが進む中、各界の有識者が一堂に会し、今後の展望や課題について議論し合うシンポジウムが開催された(10月29日/東京ビッグサイト)。
地方創生の拠点としても期待される「道の駅」、そして世界で大きな注目を集める「自動運転」にフォーカスが当てられたイベントの模様をダイジェストで紹介する。
【コーディネーター】政井マヤ氏(フリーアナウンサー)
- 主催:
- 読売新聞社
- 後援:
- 経済産業省、国土交通省、総務省、警察庁
- 協力:
- 一般社団法人日本自動車工業会
第一部/クルマと道の駅
【基調講演・トークセッション】
地域活性化のカギに
矢代 隆義氏(一般社団法人日本自動車連盟(JAF)会長)
道の駅は3つの視点から論じることができ、1つ目が「道路交通」です。クルマは走れば止まりますから、「たまり空間」が必要になります。つまり休憩施設としての役割で、これが道の駅の原点です。2つ目が「地域産業」。地域観光のゲートウェイの役割を果たし、物産品の販売などが6次産業化や雇用の創出につながっています。3つ目が「地域生活基盤」。寄り合いの場としてはもちろん、行政窓口など住民サービスの拠点となり、域内外の人々の交流も生むのです。
都市部から地方への交流人口を増加させ、地域を活性化させる「ドライブツーリズム」の振興に取り組むJAFは、道の駅と強い関わりを持っています。例えば、約4900の推奨ドライブコースの中では931の道の駅を紹介しており、583の道の駅ではJAF会員向けの優待を展開中です。
今後の道の駅には、過疎地域での交通インフラ拠点となるべく、自動運転システムと連携したコミュニティーバス・デマンドバスの活用などが期待されます。
超高齢社会で輝き増す
大石 久和氏(公益社団法人土木学会 会長)
実は、道の駅は純粋な民間の発想から生まれた施設。山口のある農場経営者による「鉄道には駅があってトイレがあるのに、道路にないのはなぜなんだ」という考えが誕生のきっかけです。道路沿いの残地に、仮設トイレや物産品の販売所を設置して民間の社会実験が行われました。いまでは国の制度となり、1134か所にまで増えた道の駅ですが、休憩・情報発信・地域連携機能だけでなく、防災・福祉機能なども併せ持った施設へと発展を遂げています。
最近では、自動運転の実証実験もスタート。高齢化が進む中山間地域で、住民が道の駅内のスーパーや病院、役場などを訪れるための交通手段として自動運転車が注目されています。
高度経済成長時代には地方から大都市へ人が流れていきましたが、昨今の超高齢社会では多世代の家族がともに暮らし、支え合うことが必要。かつてとは逆方向の人の流れが生まれることが求められており、その実現に向けて交通・情報の拠点となる道の駅の役割がより大きくなっているのです。
道の駅パネル展を実施
シンポジウム会場では、全国「道の駅」連絡会の協力のもと、パネル展を実施。地域活性化の拠点として、特に優れた機能を継続的に発揮している「全国モデル駅」の紹介などを行った。
第二部/自動運転社会に向けた取り組みと将来の展望
【オープニングスピーチ】
社会的重要性を意識し 究極の自動運転社会へ
清水 和夫氏(国際自動車ジャーナリスト)
昨年のパリオートサロンで、ダイムラーAGのディーター・ツェッチェ会長は「CASE」と呼ばれるコンセプトを発表しました。「C」はコネクト、「A」はオートノマス(自動運転)、「S」はサービスまたはシェア、「E」はイーモビリティーを指します。この4つのキーワードは、いまでは世界の自動車メーカーの共通認識になっているといってもよいでしょう。
我が国でも様々な委員会などを通して自動運転に関する議論がなされていますが、忘れてはいけないのが「誰のため、なんのための自動運転か」ということ。技術論ではなく、安全性や快適性、経済・環境への貢献など社会的重要性を強く意識しなければなりません。
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)では、緩やかに自動運転レベルを上げていくオーナー・カーと、急速にレベル3・4を達成する物流/移動サービスという2つのアプローチから究極の自動運転社会を目指す戦略を立てています。物流/移動サービスにおいては、過疎化・高齢化が進む地域などで、駅やバス停から目的地までの「ラストワンマイル」をつなぐ交通手段となることが期待されています。
【プレゼンテーション・パネルディスカッション】
官民一体の技術革新を
河野 太志氏(経済産業省製造産業局自動車課 課長)
日本経済の中でよりウェートが大きくなっていく自動車産業の競争力を維持・強化することは、重要な政策課題です。大きな技術革新が同時並行的に起こり得る、CASE がもたらすスピード・インパクトについて、現時点で正確に予想することは容易ではありませんが、イノベーションを生み出すための「攻めの機会」と捉えることも必要でしょう。
自動運転の普及においては、先進技術開発を進めるための各社の協調連携支援、新しいビジネスを試すための制度インフラの整備が肝心。政府としても、先頭車両が有人、後続車両が無人のトラック隊列走行や、高齢化が進むエリアをはじめとする特定地域での無人自動走行小型カート・小型バスの実証事業などを進めています。
国内外での取り組みを推進
江坂 行弘氏(国土交通省自動車局 技術政策課長)
「交通事故の削減」「高齢者等の移動支援」「渋滞の解消・緩和」「国際競争力の強化」につながる自動運転。国交省では、自動運転戦略本部を設置し、国内外で様々な取り組みを行なっています。
国際的な取り組みにおいては、G7交通大臣会合で「自動運転技術の有人下での実用化に向けて、国際的なレベルでの協力を目指す」ことに合意。国連WP29では「自動運転に関する更なる高度化を前提とした車両安全基準の議論」をスタートさせました。国内での取り組みとしては、産学官連携のASV(先進安全自動車)推進計画や、安全運転支援機能を備えた安全運転サポート車の普及啓発、製品の安全性能を評価・公表する自動車アセスメント事業などを展開しています。
交通事故の減少に貢献
杉 俊弘氏(警察庁交通局交通企画課 自動運転企画室長)
警察庁では、高齢者の交通事故を減少させることに、特に力を入れて取り組んでいます。国の基本計画では、平成32年までに年間の24時間死者※数を2500人以下、死傷者数を50万人以下にすることが目標です。そのためには先端技術の活用推進が非常に重要となり、中でも自動運転技術を「将来における交通事故の削減に必要不可欠な技術」と考えています。
昨年は公道実証実験のためのガイドラインを、今年は遠隔型自動運転に関する取り扱いの基準を策定・公表。国際的にも、道路交通安全グローバルフォーラム(WP1)の正式メンバーとなりました。研究開発も進めており、自動車に信号情報を提供する路側システムの技術開発などを行っています。
※交通事故発生後24時間以内に死亡した者
5Gによる進化に期待
中里 学氏(総務省総合通信基盤局 新世代移動通信システム推進室長)
自動運転社会の確立に向けて欠かせないのが、情報通信技術(ICT)の発展です。2020年以降に実現する第5世代の移動通信システム(5G)は「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」という3つの特長を持ちます。その中でも自動車の進化と関係が深いのが「超低遅延」。クルマとクルマ・路側機・ネットワーク・人などをつなぐV2X※通信に生かされるのです。前方・後方車両との通信によるスムーズな車線変更や、遠隔での走行管理・制御などが可能になるでしょう。
課題も想定され、クルマが“走るビッグデータ”になっていく中では、セキュリティー問題を解決しなければなりません。各業界が「Win−Win」となるビジネスモデルを構築する必要もあります。
※Vehicle to everything
世界各社レベル4に注力
野辺 継男氏(名古屋大学未来社会創造機構 客員准教授、インテル株式会社事業開発・政策推進 ダイレクター)
昨夏以降、欧・米・中の各自動車メーカーが、レベル3よりもレベル4の開発を優先することを表明しました。これは「自動運転」から「人間」への安全な運転権限の移譲が非常に困難であるため。また、近年急速に進化したディープラーニングの技術により、レベル4を実現できる可能性が高まったことも理由の一つです。
そうして誕生するであろうハンドル・アクセル・ブレーキのないクルマは、個人に販売することも想定されますが、基本的には人や物を運ぶモビリティー事業に供給されるでしょう。メーカー自体もモビリティー事業に参画していくことになるはずです。海外では2020年前後にレベル4が商用化される見込みで、その先にレベル5があります。
法人車両への活用も
国武 正史氏(住友三井オートサービス株式会社 代表取締役専務執行役員)
自動運転の普及は、公共性の強い車両や過疎地で使用される車両から進んでいくことが予想され、最後になるのが法人車両ではないかと考えます。しかし、法人車両は国内7850万台の登録車のうち2500万台に上り、1台あたりの走行距離も個人の約3倍です。事故削減の観点から見ても、自動運転車のニーズは高いといえます。
特に約60万台の法人車両を所有する介護業界は非常に事故が多く、各社頭を痛めています。朝晩に送迎が集中する状況下ではコストの問題から専属ドライバーを雇用できず、ヘルパー・介護福祉士が運転手を兼任せざるを得ないことが原因でしょう。自動運転技術は、こうした運転に不慣れなドライバーもアシストしてくれるものだと思います。
革新的なサービス続々
山本 彰祐氏(株式会社ディー・エヌ・エーオートモーティブ事業本部 シニアマネージャー)
ディー・エヌ・エーでは、車両や技術の開発をしているわけではなく、様々な企業と手を組み、自動運転を活用したシステム・サービス・ビジネス構想の設計や構築を行っています。
フランスEasyMile社との取り組みでは、昨年8月に私有地内無人運転バス「ロボットシャトル」の運用をスタート。すでに国内7か所での走行実績があります。ヤマト運輸とは、無人運転での配達を目指す次世代物流プロジェクト「ロボネコヤマト」の実用実験を行っている最中です。スマホ用のタクシー配車アプリ「タクベル」は、神奈川県タクシー協会の推奨アプリに認定されています。日産自動車とも業務提携し、新しい交通サービスの開発に力を入れているところです。