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人生100年時代のヘルスイノベーション

2020年3月2日

 未来貢献プロジェクトの未病シンポジウム「人生100年時代のヘルスイノベーション」(読売新聞社主催)が1月30日、横浜市西区の新都市ホールで開かれ、約300人が参加した。第1部では大谷泰夫・神奈川県立保健福祉大理事長、鄭雄一・東京大教授が、病気になる前の段階の「未病」を意識することの重要性を述べた。第2部では、黒岩祐治・神奈川県知事、久元喜造・神戸市長がそれぞれの未病対策例を紹介。第3部では未病に関した商品・サービス開発などに先進的な3企業が取り組みを語った。

主催:
読売新聞社
後援:
日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会、日本薬剤師会、神奈川県、神戸市
協賛:
タニタ、ファンケル、住友生命
協力:
アンファー

第1部 オープニングセッション

「人生100年と未病戦略」

食と運動、睡眠、社会参加

大谷 泰夫氏 神奈川県立保健福祉大理事長
大谷 泰夫氏
1953年生まれ。東京大法学部卒業後、厚生省(当時)入省。厚生労働省医政局長、厚生労働審議官などを経て、2014年退官、16年まで内閣官房参与。18年4月から現職。

大谷泰夫氏・神奈川県立保健福祉大理事長

 人生100年時代、健康か病気かではなく、健康と病気は連続しており、その二つが交錯している状態を「未病」として捉える考え方がますます重要になってきました。

 未病への対処法は三つあります。

 まずは食生活。口の中の健康状態の悪化も免疫力低下や生活習慣病につながると言われています。次に運動と睡眠などの生活態度も大事です。社会参加も重要です。人と関わり続けることで健康生活が充実します。

 正しい知識に基づいて、自分の健康状態をチェックして生活改善を続けていくこと――これを健康リテラシーと呼びます。未病対策の出発点です。そのきっかけに日本健康マスター検定を2017年2月に始めました。健康生活や健康に関する仕事のための知識を問う試験です。

 未病対策になる魅力的な商品やサービスを開発展開する民間企業が増えれば、将来、10兆円規模の市場になると言われています。

日本健康マスター検定

 運動や食事など、健康に関する正しい知識力を認定する制度の一つ。職場や地域での健康作りのリーダーを目指す「エキスパート・コース」では医療や介護の政策なども問われる。検定はこれまでに5万9396人が受検し、3万3485人が健康マスターという資格を取得している。

数値化し、複数の人生シナリオ

鄭 雄一氏 東京大教授
神奈川県立保健福祉大研究科長
鄭 雄一氏
1964年生まれ。東京大医学部卒業後、米ハーバード大医学部助教授などを経て、2007年から東京大教授。19年から神奈川県立保健福祉大研究科長を兼務。専門は骨・軟骨の生物学、再生医学、バイオマテリアル工学。

鄭雄一氏・東京大教授 神奈川県立保健福祉大研究科長

 従来の健康と病気の二分法では、個人は健康なら何もせず、病気なら医者に任せる、となりがちでした。「未病」は、健康と病気を連続と捉え、努力をすれば健康な方に近づくし、努力しなければ病気の方に近づくとして、「自分の健康は自分で守る」とする考えです。

 病気かどうかを決めるのに診断基準がありますが、未病について、どう「見える化」するかが重要になります。その指標作りに取り組んできました。

 専門家が話し合い、指標に必要な条件があることが分かってきました。未来予測ができる、それぞれの人に合わせて個別化されている、連続的で変えることができる、使いやすく費用対効果が高い、科学的根拠がある――の五つです。

 次は、どう作るか。〈1〉生活習慣〈2〉認知機能〈3〉運動能力などの生活機能〈4〉メンタルヘルス・ストレスの四つの領域を計測して総合し、性別や年齢で考慮して数字(未病指標)を出しました。

 病気になるリスクを評価するような形で当初は考えていましたが、もっと前向きに捉えるものにしようと、点数が高いほど、健康を維持する能力が高いという形に変えました。

 例えば、今は48だとします。このままのライフスタイルを続けていたら、3年後には35に下がりますが、反省して改善したら70に上がります。たばこを吸って生活態度も雑になると、20にまで下がりますよ――。そういった複数のシナリオを示し、未来を選んでもらうものです。

 こうした「見える化」に、健康についてのリテラシー、一緒に取り組む仲間づくりなどが加わらないと、日常行動を変えようという気持ちは起きません。

 この未病指標は、健康増進に関する商品開発や自治体での地域ごとの課題分析、民間企業での社員の健康を考えた経営効果の測定、生命保険会社での保険料率の算定など、幅広く活用できるのではないかと考えています。

第2部 基調セッション

「首長が語る人生100年時代のヘルスイノベーション」

超高齢化団地の奇跡

黒岩 祐治氏 神奈川県知事
黒岩 祐治氏
1954年生まれ。早稲田大政経学部を卒業後、フジテレビに入社。報道記者などを経て「報道2001」キャスターなどを担当。2009年退社。11年に神奈川県知事となり、3期目。

黒岩祐治氏・神奈川県知事

 知事になった時から、「いのち輝く神奈川」を作りたいと言い続けてきました。そのために、医療の充実だけでなく、環境も農業も教育も街づくりもすべてがつながる必要があります。

 国だと、担当する役所が違って縦割りです。それでは駄目だと県として取り組んできたところ、国連が「SDGs」(持続可能な開発目標=2030年までの国際目標。経済発展と環境保護、貧困解消などを両立させる)を提唱し始めました。このままだと地球は持続できなくなる、今のうちに変えようということです。中身を見ると、「いのち輝く」と同じです。取り組みを進めると、国の「自治体SDGsモデル事業」の一つに選ばれました。都道府県では神奈川県だけです。

 「いのち輝く」の中でも重要な考え方が「未病」です。19年夏に国連本部で、この未病についての話をすると拍手喝采を受けました。国連の組織「国連開発計画(UNDP)」と神奈川県が連携趣意書を結ぶことになり、その書面に「ME―BYO」「Inochi」と明記されました。

 横浜の若葉台団地ですごいことが起きています。18年3月末時点で高齢化率は47・8%と全国平均28・0%を大きく上回っていますが、要介護認定率は全国平均を下回り、10年の推移では、認定率が下がっている。

 実は自治会が活動的で多世代交流の場を作り、文化やスポーツのイベントを次々と企画し、社会参加を促し、みんなが元気になっているんです。こうした政策をさらに進めようと、横須賀や綾瀬で高齢者劇団を作りました。

 重要なのは何を目指すのか。死なない社会、病気にならない社会は無理です。死ぬ直前までみんなが笑って、元気になって、人と人がつながる。それが未病対策であり、SDGsなんです。

「医療島」や認知症無料診断…

久元 喜造氏 神戸市長
久元 喜造氏
1954年生まれ。東京大法学部卒業後、自治省(当時)に入省。総務省官房審議官、自治行政局長、神戸市副市長などを経て、2013年の神戸市長選で初当選。現在2期目。

久元喜造氏・神戸市長

 1995年1月の阪神大震災で神戸市内では4571人が亡くなり、産業も壊滅的な被害を受けました。そこから、市は命と健康を重視したまちづくりで復興を果たそうと取り組みを進めてきました。

 まず、沖合の更地だった人工島に巨大な医療産業都市を作りました。368もの企業、団体、研究所が進出し、最先端治療を行う病院も出来ました。

 例えば、スーパーコンピューター「京(けい)」もここにあり、高度な医薬品をつくる際の実験などに使われています。現在、さらに計算処理能力が高い「富岳(ふがく)」に移し替える作業が行われています。また、国産の手術支援ロボットの開発も大学や企業の連携で進んでいます。

 市民向けの健康管理アプリも開発しました。健診結果や日々の歩数や食事などを入力すると、健康アドバイスを受けられ、改善されたらポイントがもらえます。ここに未病指標を組み込めば、アプリとしてさらに進化できるのではないかと考えています。

 認知症対策にも力を注いでいます。

 認知症の人が電車にはねられて、家族が鉄道事業者から多額の賠償請求をされる裁判がありましたが、こうした場合の救済ができるように市が一括して民間の賠償責任保険に入りました。

 早期発見のために簡易診断を無料で受けられる制度を作りました。今年度はおそらく2万人が受診することになりそうです。

 ほかの施策に伴う経費を削減し、さらには市民にも負担をお願いしました。認知症は誰もがなり得るから、市民全体で支えようという思いが届き、市議会で議決もいただきました。

 未病という考え方を取り入れて、「健康創造都市」の取り組みを進めていきたいと考えています。

ICT活用/孤立した人 どう動かす

西川 りゅうじん氏 西川 りゅうじん氏

黒岩知事 久元市長 西川りゅうじん氏

黒岩知事と久元市長は、マーケティングコンサルタントの西川りゅうじんさんの進行による座談会形式で、「未病」を掘り下げた。

西川 ICT(情報通信技術)の活用など、神奈川県と神戸市、東西港町で相通じるものがありますね。

黒岩 神奈川県にも健康管理のアプリがあり、体重や歩数、服薬情報などを記録・管理できます。妊婦と子どものデータを集める電子母子手帳など民間アプリとも連携しています。

久元 市が開発した健康管理アプリは内容は良いのですが、利用者を増やさないといけない。例えば、高齢者が多く住む団地で集中的に使ってもらい、直接感想を聞き、充実した内容にする工夫が必要だと感じました。

西川 健康診断を受けない人、精密検査に行かない人がいます。健診・検査に背を向ける“心のバリア”のようなものをどう取り払うかも課題です。

久元 あきらめみたいな境地。大きな原因は孤立ですよね。家に閉じこもって、健康にも無関心で食生活も偏りがちになる。そういう人たちにどうアプローチするか。各地区の社会福祉協議会に「地域福祉ネットワーカー」がいて相談に乗っています。震災から支え合って復興してきた神戸だからこその取り組みです。

黒岩 引きこもっている人と会話をする、遠隔操作の分身ロボットがあります。内蔵のカメラでお互いの顔は見える。会話したことがありますが、引きこもっている女性が、外には出られないけれど、まあ見事にしゃべる。するとその人の生の声が出てくる。

 仮想世界でもゲームの世界でもいいから、そこから始めて心が明るくなってきて、じゃあ出てみようかみたいな発想もあるのかなと思います。

第3部 企業セッション

「人生100年時代の未病ライフデザイン提案」

おいしく楽しく フレイル予防

深山 知子氏 タニタ開発部生体科学課長
深山 知子氏

深山知子氏・タニタ開発部生体科学課長

 「フレイル」という言葉をご存じですか。加齢に伴って、筋力などが低下し、健康障害を起こしやすくなった状態、寝たきりや要介護になる一歩手前です。健康な頃から予防することが大切です。フレイル状態になっても、適切な対策を取れば、健康な状態に戻すことができます。

 フレイル予防にはどのような食事がいいでしょうか。筋力の減少と低下を招かないためにも1日3食以上、肉や魚などのたんぱく質をしっかり取りましょう。1日1回は主食、主菜、副菜を含んだ定食スタイルの食事を取り入れ、麺類だけの時は、卵や、エビ天などをトッピングしてもいいですね。

 筋力やバランス能力も大切です。転倒のリスクは、筋力が低下すると4倍、バランス能力が低下すると3倍上がります。十分に力を発揮できる「使える筋肉」を増やすことを心がけましょう。腹筋に力を入れ、お尻をきゅっと締めて、姿勢正しく座ってみる。足が開いていたら閉じてみる。普段使われていない筋肉を使うことができます。運動するのが難しい人は、日常生活の中で、意識して取り入れてください。

 筋力やバランスは、なかなか測る機会がありませんが、数値にして「見える化」することが重要です。椅子から立ち上がる動作だけで、簡単に筋力とバランスが分かる装置を開発しました。

 社会とのつながりも欠かせません。家に閉じこもると、生活範囲が狭くなり、認知機能なども衰えてきます。また、しゃべらない、笑わないとなると、表情筋も使わなくなり、口腔(こうくう)機能の低下にもつながります。動かないことで空腹にならず、食べられないという悪循環に陥ります。

 積極的に外出し、おいしい食事を楽しく、笑いながら取ることこそが、フレイル予防につながります。

健康増進を動機づける保険も

高田 幸徳氏 住友生命 執行役常務
高田 幸徳氏

高田幸徳氏・住友生命 執行役常務

 保険会社の役割は時代とともに変化してきました。

 戦後すぐは、一家の大黒柱が亡くなった時への備えとして。また、高度経済成長期には社会保障だけではまかない切れない遺族の生活を支えるために、大きく伸びてきました。高齢化が進んだ1990年代には、病気、介護など、「長生きのリスク」に備えた商品ができました。

 現在は、リスクがさらに多様になっており、高額な医療費がかかる先進医療を受けるための保険や、病気で働けなくなった時の保障が充実してきました。

 2050年には100歳以上の人口が50万人になると推計されています。人生100年時代ですが、現状では、平均寿命と、健康寿命の差が、男性で9年、女性で12年もあります。健康寿命を延ばし、人生を豊かにしていくのが今後の保険会社の役目だと考えています。

 1年半前、健康増進型の保険の提供を始めました。

 健康的な生活をいかに楽しく、かつ長く続けてもらうかという観点から行動経済学の考え方を取り入れたものです。南アフリカの会社が開発し、世界21か国以上で販売されている保険です。

 加入者はまず、健康診断書を提出してアンケートに答えます。病気の早期発見が、健康寿命の延伸に役立つからです。さらに日々、スマホなどで歩数や心拍数を測定してもらい、ポイントに換算します。スポーツイベントへの参加などもポイントに加算されます。獲得ポイントによって、保険料が上下したり、目標を達成するとご褒美がもらえたりします。

 人間は、楽をしたいとか、おいしいものをおなかいっぱい食べたいとか、本能的に不健康な方に流れてしまう傾向があります。健康増進型の保険に入ることで、運動、食生活、社会参加と、健康的な生活を動機づけてもらうことができると思います。

最適なサプリや食の改善提案

若山 和正氏 ファンケル 上席執行役員
若山 和正氏

若山和正氏・ファンケル 上席執行役員

 人生100年時代、これまでは考えられなかったような高齢化が到来し、様々な社会的課題が出てきています。労働人口が減少し、共働き世帯が増えるなど、働き方が変わってきています。その中で食事の環境も大きく変わり、栄養の問題も、課題の一つになっています。

 健康意識の高まりもあって、サプリメント市場は年々拡大しています。ただ我々の調査では、サプリメントを日常的に取っている人は、成人男性では3割弱でした。まだまだ健康のための取り組みとして活用されていないのが現状だと思います。

 その理由は、〈1〉どんなサプリメントを取っていいのか分からない〈2〉飲んですぐに効果を体感できない――の二つが挙げられると思います。特に、〈1〉では、テレビや雑誌、友人からの紹介で、サプリメントの情報は手元にあっても、どんな種類があるのか、摂取量も自分に合っているかどうかの判断は難しいということです。サプリメントの過剰摂取を心配する人もいるかもしれません。

 今月20日から、尿検査と「食生活、生活習慣に関するアンケート」を行い、その人の健康状態を分析して最適なサプリメントを提案するサービスを始めています。提供するサプリメントの種類や摂取量の組み合わせは10億通り以上にもなります。

 さらに、食事を記録するアプリ「あすけん」と協力して、食生活の傾向とサプリメントを組み合わせて、自分に必要な栄養素の充足度を見ていけるようにします。このサービスの利用者は、食生活を改善するためのアドバイスを受けることもできます。

 サプリメントは薬ではないので、病気になった時はきちんと治療を受けることが大切です。しかし、病気になる前や病気から回復した状態、つまり未病の段階では、サプリメントを活用してもらえると思います。

魅力的なサービス 行動を変える/健康リテラシー 自分守る力

大谷氏 西川氏

未病産業の可能性

 シンポジウムの締めくくりとして、大谷さんと西川さんが「企業の取り組み事例を踏まえた未病産業の可能性と展望」をテーマに話し合った。

西川 大谷さんの骨密度は20代だそうですね。

大谷 1日8000~1万歩歩くのはもう20年ぐらい。その日全然歩かなかったら1駅前で降りる。昨年末から水泳も始めました。

西川 私も50歳から水泳を始めましたが、最初は100メートルも泳げなかった。還暦の今は、止まらずに1200メートルが平気になりました。60歳以上はプール無料の自治体もあり、ありがたいですね。

大谷 朝はトイレの後、体重計にのる。暴飲暴食すると、すぐ体重に出ます。

西川 未病指標ですね。さて先進的な3企業に共通するポイントは何でしょう。

大谷 未病を考える時、「気づき」「行動変容」「持続」の三つがキーワードになります。どれも難しい。企業の役割が大事になってきています。民間の魅力的なサービスや商品があれば、行動を変えて、続けることができるでしょう。

西川 消費者からすると、健康食品や健康器具の情報は玉石混交で怖いです。見極めるポイントはありますか。

大谷 「行政がチェックしてくれる」と考える人がいるかもしれないですが、従来の考え方です。大事なのは、消費者自身が、自分に合っているのは何か、効果があるのか、時には医師とも相談しながら決めていく「健康リテラシー」です。

西川 リテラシーとは、一人ひとりが健康に関する正確な知識を持ち、意識を高めていくこと。自分を守る目利き力ともいえますね。

大谷 健康リテラシーは、単に知識だけではありません。健康のために、やるべきこと、食べてはいけないものなどを知り、行動を変えていくことが大事です。必要な知識を問う「日本健康マスター検定」などの機会を生かしてほしいと思います。

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