健康と病気の間にある「未病」~大腸から全身の健康を考える~
SDGs:すべての人に健康と福祉をSDGs:住み続けられるまちづくりを

2019年11月11日

 未来貢献プロジェクトのシンポジウム「血糖値から考える健康」(読売新聞社主催)が10月9日、東京都中央区の東京コンベンションホールで開かれ、約500人が聴講した。公益財団法人佐々木研究所理事長の佐々木敬氏が基調講演し、食後の血糖値の上昇度合いを示す「GI」値が低い食事の重要性を訴えた。「糖との正しい付き合い方」をテーマにしたパネルディスカッションも行われ、タレントの優木まおみ氏や管理栄養士らが、健康的な食生活などについて語り合った。(司会・コーディネーターはフリーアナウンサーの政井マヤさん)

主催:
読売新聞社
後援:
日本糖尿病協会、日本GI研究会

基調講演

食べ方・組み合わせ大切

大谷 泰夫氏

東京慈恵会医科大医学部卒。同大教授などを経て、2019年4月から公益財団法人佐々木研究所の理事長を務める。日本GI研究会代表幹事。

公益財団法人佐々木研究所理事長 佐々木 敬

 糖とはどういうものなのか、体の中で糖は何をしているのか、どういう病気と関係していて、健康を保つためにはどうしたらいいのかを話したいと思います。

 糖には様々な種類があります。そのうちブドウ糖は重要な栄養素の一つで、エネルギー源の中心となる働きを持っています。脳は常時、ブドウ糖を使っています。寝ている時も、考えている時も、難しい試験問題を解いている時も、ボーッとしている時も、ほぼ同じ量のブドウ糖を使います。ですから、血液中のブドウ糖濃度である血糖値の維持は大切です。

 私たちの体には血糖値を一定の範囲に保つ機能があります。血糖値が常時高いと、糖尿病に進行しやすいのです。

 肥満や糖尿病の人は、食後の血糖値が非常に高くなる傾向にあります。糖尿病の治療が進まないと、動脈硬化で血流が途絶え、ひどいと足の切断につながることもあります。網膜が傷ついて失明したり、腎臓が悪くなったりする人もいます。

 最近は医療事情が良くなり、こうした合併症は減っています。だけど、糖尿病そのものは減りません。それどころか、うなぎのぼりに増えています。理由はよく分かっていませんが、何とかしなくてはいけません。

 私たちは、健康を維持するために、食後の血糖値の目安である「グライセミック・インデックス」を考えた食事をとることを提案しています。これは食後血糖値がどういうふうに上昇するかを示すもので、「GI」と略します。

 近頃は、GI値を示した食品も売っているので、目安になると思います。この値が低い食品は、血糖値の上がり方が緩やかだということです。たとえばリンゴは低GIの食品で、糖尿病の人にとって良いとされています。最近ではリンゴの樹皮から作った薬が糖尿病の治療に役立つとして出ています。

 食後の血糖値には、食べ方、何と一緒に食べるか、どういうご飯を食べるかなども関係してきます。例えば、麦ご飯を単体で食べても白米より若干GI値が低い程度ですが、一緒に焼き魚を食べるとより低くなります。

 糖質、脂質、たんぱく質の三つを適切にうまく組み合わせた食事、GIを考慮した食事療法が大切だと考えています。こうした食事は血糖が上がりにくくなるだけではなく、筋肉の減少を抑えます。筋肉が弱まると、食べ物をのみ込む力や骨も弱くなります。高齢化が進む中で、食事療法は重要です。適度な筋肉トレーニングなどの運動も続けていきましょう。

パネルディスカッション

「GI値」意識し糖尿病防ぐ

管理栄養士。1994年、東京慈恵会医科大付属病院栄養部に入職。現在、同大柏病院栄養部課長を務める。医師と連携しながら、腎臓病や糖尿病などの患者が取り組みやすい食事療法の普及に努める。

東京慈恵会医科大付属柏病院栄養部課長 湯浅 愛

 血糖値や体脂肪を気にして、食事を減らしたほうがいいんじゃないか、抜いたほうがいいんじゃないかと考える方もいると思います。実は、血糖値はできるだけ上がり下がりがないほうが体に負担が少ないことが分かっています。でも、欠食はかえって食後の血糖値を上下させてしまいます。

 糖尿病の患者さんに対して、私たちは「適正なエネルギー量で栄養バランスのとれた食事にしてください」とお願いしています。ただ毎食カロリー計算するのは大変です。皆さんにはGI値を意識してほしいと思います。カロリーや食べる量ではなく、食事の質に着目した考え方です。

 例えば、今まで白米を食べていたのなら、麦のご飯や玄米に変える。白いパンは、ライ麦パンや雑穀パンに変えるといった具合です。食べる量は変えずに、質を変えるのであれば、取り組みやすいのではないでしょうか。

 GI値が高いのは白いご飯、食パン、ジャガイモ、ようかん、せんべい、カステラなどです。低いのはポテトチップスとかミルクチョコレート、ミカン、グレープフルーツなど。間食するのなら、せんべいよりもチョコレートのほうがいいでしょう。

 毎日の食事を低GIにするためには、食物繊維を多く含むものを最初に食べる、お酢やレモンなど酸味のあるものを食事に足す、乳製品を一緒にとる、主食を置きかえる。今日から一つぐらいできそうではないでしょうか。

 食事療法は、こつこつ毎日続けることが大事。量より質という考えを取り入れ、健康維持に役立ててください。

朝食抜き 続けるとリスク

一般社団法人ラブテリ代表理事。働く女性の健康支援プロジェクトを推進している。農林水産省の「地域食文化活用マニュアル検討会」委員などを務めた。予防医療コンサルタント。

一般社団法人ラブテリ代表理事 細川 モモ

 日本では働く女性が増えており、仕事をしながら健康や食生活を理想的に維持できるのか、大きな課題になっています。肥満と痩せの二極化も進んでおり、男性はメタボリックシンドロームや糖尿病、肥満が増え、女性は痩せすぎが増えています。

 年代別で見ると、特に20~30代の女性の「痩せ率」が目立ち、社会問題になりつつあります。痩せていると健康にいいのではないかというイメージを持つ方もいるかもしれませんが、骨密度の減少、転倒や骨折をきっかけとする寝たきり、生理不順などのリスクがあります。

 私どもの調査では、働く女性は朝食の欠食率が非常に高いということが明らかになっています。約4割が、朝ご飯を食べずに出社している状況です。残業などで晩ご飯の時間が遅くなるため、朝は胃もたれしていたり、おなかがすいていなかったりして、朝ご飯を食べられないという事情があるようです。

 朝ご飯を抜くと、血糖値が非常に乱れやすくなります。こうした食生活を10年、20年と続けていくと、当然ながら糖尿病のリスクが上がってしまいます。

 妊娠を機に糖尿病になる妊娠糖尿病患者が、増加傾向にあります。痩せているから糖尿病にならないという話ではないのです。

 GI値の低い食材で血糖値をコントロールし、間食で上手に栄養を補給してください。例えば、おやつに野菜スナックやビターチョコレートなどをとってください。

 血糖値と栄養失調に気をつけ、生涯、健康な体を維持してほしいと思います。

おかず工夫と適度な運動

タレント。1980年、佐賀県生まれ。2003年東京学芸大卒。テレビの情報番組、バラエティー番組への出演や、女性誌のモデルなどを務める。2児の母。

タレント 優木 まおみ

 食べることは生きる上で楽しみでもあります。「こういう食べ物はだめ」とすべてを規制するのではなく、食べ方を少し気をつけるだけで体にもいいということが、今回の講演で分かりました。

 食事には気を使っています。時間がある日に、一気に3日分ぐらいのおかずを作り置きしています。肉や魚を使った主菜のほか、ブロッコリーやトマトなどの野菜は毎食、必ず使っています。ご飯は玄米にしています。毎日、仕事が終わってからご飯を作るのは大変ですし、朝ご飯はパンだけになりがちなので、おかずを常備しておくと、一品増やすことができます。

 適度な運動は大切だと実感しています。体を動かすと、気持ちが明るくなるし、体もちょっと温かくなります。ピラティスを3年ぐらい前に学び始めてから、筋肉を少しずつ付けていこうという気持ちでいます。そのためには、食事が大切です。どういうものをとればいいのか具体的に分かったので、すぐに実践して、筋肉の「貯金」をしていきたいです。

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