2017年4月27日
未来貢献プロジェクトのシンポジウム「マイナンバー制度*を考える」(主催・読売新聞社、共催・内閣府、後援・総務省)が3月14日、東京・大手町のよみうり大手町ホールで開かれた。制度を巡る国の方針について高市早苗総務相が基調講演した後、五輪メダリストの寺川綾さんらがトークショーやパネルディスカッションで、マイナンバーを巡る疑問や活用方法を議論した。
*マイナンバー制度
国民一人ひとりに割り当てた12桁の番号(マイナンバー)を使って、行政機関が別々に管理していた所得や年金などの個人情報を結びつける制度。2016年1月に導入された。税金をきちんと集めたり、行政事務を効率化したりすることが目的だ。番号や顔写真が記載されたプラスチック製の「マイナンバーカード」は公的な身分証明書として使える。
- 主催:
- 読売新聞社
- 共催:
- 内閣府
- 後援:
- 総務省
基調講演
官民のサービスに活用
高市 早苗氏(総務相内閣府特命担当大臣(マイナンバー制度))
マイナンバー制度は、利便性の高い社会を実現するために2016年1月に導入された。マイナンバーカードは現在1300万件を超える申請があるが、さらに普及させるには、多くの人に利便性を実感してもらう必要がある。
例えば、住民票の写しなどは、全国約5万店舗のコンビニエンスストアで土日でも早朝、深夜でも取得できるようになっている。
今年はマイナンバーカードを使ってログインする個人専用サイト「マイナポータル」を本格稼働する予定だ。今は保育所に入所を申請する場合、申請書に勤務先が発行する就労証明書などを添えて、役場に出向く必要がある。「マイナポータル」を活用すれば、必要書類を電子化して市区町村に自宅などからオンラインで申請できるようになる。
乳幼児健診や予防接種などの知らせがスマートフォンなどに届くサービスも予定している。こうした子育てワンストップサービスは一番便利になるサービスだと思う。
地域の活性化にもつなげたい。マイナンバーカードのICチップには電子的に個人を認証する機能があり、これは民間サービスの本人確認にも活用できる。今でも携帯電話の契約や証券口座を開設する際の本人確認に利用されているが、今後はコンサート会場でチケット代わりに使うとか、医療機関でも健康保険証の代わりに使えるようにするなど、マイナンバーカードが1枚あれば、様々なサービスが受けられるようにしたい。
マイナンバーに関して、「個人情報が漏えいしないか」といった懸念があることは承知している。
仮にマイナンバーの番号を他人に知られても、それだけで本人になりすますことはできない。マイナンバーカードのICチップには税や年金などプライバシー性の高い個人情報は記録されない。特殊加工で偽造や不正利用もできないようになっている。マイナンバーを扱う事業主には個人情報保護法より厳しい情報管理を求めている。
万一盗難・紛失した場合は、365日24時間コールセンターが対応する。電話一本で即時停止できるので安心感があると思っている。
トークショー
寺川 綾さん(ロンドン五輪 水泳メダリスト)
向井 治紀氏(内閣官房番号制度推進室長)
Q マイナンバーなぜ導入?
寺川 マイナンバーを導入した理由は何か。
向井
国や地方自治体は住所、氏名、年齢、性別で本人を特定しようとしてきたが、これがなかなか難しい。なぜなら漢字の読み方はどこにも登録されていない。同姓同名の人もいる。
銀行の口座番号やドラッグストアの会員番号など民間企業は番号で顧客を管理しているが、それと同じように住民票とひもづけた番号(マイナンバー)を国民一人ひとりに割り当てることで本人を特定する手段にした。税や社会保障などの手続きの効率化や利便性を高めるのが狙いだ。
寺川 マイナンバーを他人に知られると個人情報も知られてしまうのか。
向井 番号を知られても個人情報が漏れることはない。銀行の口座番号によく似ている。みだりに人に教えるものではないが、お金を振り込んでもらう時は知らせることはよくある。しかし、知らせたからといって自分の預金が取られると心配はしないと思う。マイナンバーも同じで、利用する際には本人確認書類が必要になる。なりすましで年金などを不正受給されることはない仕組みにしてある。
寺川 民間企業にマイナンバーを求められた時、提出しても良いのか。
A 納税など手続き効率化
向井 大丈夫だ。通常の個人情報よりはるかに厳しい情報管理義務がある。マイナンバーにかこつけて他の情報を聞き出してくる企業は危険なので、そうした話には乗らないようにしていただきたい。
寺川 マイナンバーとマイナンバーカードは違うのか。
向井
例えば銀行の口座番号だけでは預金を引き出せず、キャッシュカードと暗証番号が必要だ。マイナンバーも同じで、番号だけでは何もできない。本人確認と番号を確認する書類がいる。それを一つにしたものがマイナンバーカードだ。
通常は、マイナンバーを使う社会保障などの手続きをする時に使うが、公的な機関が発行した写真付きのカードなので、運転免許証のように本人確認にも使える。カードのICチップにはインターネットを使って電子的に本人であることを証明できるシステムがついている。これは免許証にはない機能で、携帯電話の購入時など、いろいろな店舗で使える。
寺川 一つのカードでいろいろ使えるのは便利。番号を知られても情報が流出するわけではないこともわかった。
ポイントカードに代用
伊藤 博氏(モトスミ・ブレーメン通り商店街振興組合理事長)
我々の商店街は独自に事務局を持ってポイントシステムを管理しているが、こうした商店街は全国に少ない。費用が非常にかかるからだ。例えば、ポイントカードは1枚250円、3万枚作れば、それだけで750万円もかかる。
マイナンバーカードを多くの人が持つようになって、商店街のポイントカードの代わりに使えるようになれば、商店街にとってはカードを自前で作る必要がなくなり、経費の節減になる。使うことでポイントが付くようにすれば、商店街の活性化にもつながるだろう。商店街がマイナンバーカードを活用できる部分は非常に多いと思う。
ただ、全国の商店街は非常に疲弊しており、受け皿となる商店街がものすごく少ないのが現実だ。これから商店街として、受け入れ体制の整備を進めていきたいと思っている。
診察記録 統合して確認
須藤 修氏(東京大学教授)
マイナンバーカードの個人認証機能を使った「マイナポータル」が始まれば、インターネットに自分専用のポータル(玄関)サイトを持てるようになる。
そうすると、国民一人ひとりに対応したお知らせ型のサービスを受けるベースができる。例えば、65歳になったら自治体から、「あなたは肺炎予防のワクチンを打つために、いつまでに何々病院に行ってください。費用は自治体が負担します」といった連絡が来るようになる。
自分の子供の健康状態の情報は、かかりつけの医者、地域の中核病院、学校の保険医などがばらばらに持っている。マイナンバーカードを使えば、子供の診察データを全部統合して見ることができる。
独居の高齢者の見守りにも使える。問診データを集め、都会にいる子供がマイナンバーカードを使って本人確認すればそのデータを見ることができる。マイナンバーカードの公的な個人認証機能は、様々な活用方法が期待されている。
カード100%普及目指す
国定 勇人氏(新潟県三条市長)
マイナンバーカードを普及させるには、カードを持っている方が圧倒的に便利なんだと思ってもらわなければいけない。
新潟県三条市では、住民票の写しなど証明書のコンビニエンスストアでの交付や、図書館の貸し出しの受け付けができる。災害の時にマイナンバーカードを活用すれば、誰がどこに避難しているか把握できるので、避難所を円滑に運営できるようになる。
今は引っ越しをする際、様々な手続きで名前や住所を何回も書かないといけない。個人専用サイト「マイナポータル」が普及すると、平日・休日問わず、どこからでも手続きが可能になる。
三条市民のマイナンバーカードの交付率は残念ながらまだ9%だ。一人残らず持っている状況をいち早く作り上げたい。
マイナンバー制度に関する問い合わせは、政府の専用のフリーダイヤル(0120・95・0178)へ。受付時間は平日は午前9時半~午後8時。土日祝日は午前9時半~午後5時半(年末年始を除く)。