シンポジウム キャッシュレス決済の普及~2020年へ向けて~ 2019年6月29日(土)丸ビルホール
SDGs:産業と技術革新の基盤をつくろうSDGs:住み続けられるまちづくりを

2019年7月26日

 本社が取り組む未来貢献プロジェクトのシンポジウム「キャッシュレス決済の普及~2020年へ向けて~」(読売新聞社主催)が6月29日、東京都千代田区の丸ビルホールで開かれた。世耕経済産業相がビデオメッセージを寄せたほか、経産省の担当者やクレジットカード会社、メガバンクの役員らが、普及に向けた取り組みや課題について講演した。元新体操団体日本代表の畠山愛理さん、車いすラグビー日本代表の池崎大輔さんも交えたパネルディスカッションで議論を深めた。(司会は畑下由佳・日本テレビアナウンサー)

主催:
読売新聞社
後援:
経済産業省 キャッシュレス推進協議会
協力:

ビデオメッセージ

「ポイント還元」を起爆剤に

経済産業大臣
世耕 弘成氏

 経済産業省は、キャッシュレス決済の普及を全力で推進している。日本のキャッシュレス決済比率は増加傾向にあるものの、世界的に見ると大きく立ち遅れている。利用者、店舗の双方に数多くのメリットをもたらすことが理解されていないことが原因かもしれない。

 私自身、時計型の端末で決済しているが、あらかじめクレジットカードや電子マネーの情報を登録しておけば、店舗で端末をかざすだけで支払いができてとても便利だ。お店にとっても、来年夏の東京五輪・パラリンピックに伴うインバウンド(訪日外国人客)消費のさらなる取り込みや、現金管理の手間、時間の削減につながる。

 10月からは消費税率の引き上げに伴い、中・小規模の店舗でキャッシュレスで支払いをした際に、5%という思い切ったポイント還元を実施する。店舗の端末導入負担をゼロにして決済手数料も引き下げる。令和元年を「キャッシュレス決済元年」として、ポイント還元事業を起爆剤としながら、キャッシュレス決済の普及に尽力していく。

基調講演

訪日客増に対応 地方も推進

経済産業省 商務・サービスグループ
キャッシュレス推進室長(現消費・流通政策課長)
伊藤 政道氏

 政府がキャッシュレスの推進に対し、どう考え、何をやろうとしているのかをお話ししたい。

 キャッシュレスには様々な形態がある。クレジットカードを第一に思い浮かべるだろうが、電子マネーやデビットカード、スマートフォンを使ったQRコードなどによるモバイル決済もある。日本の2018年のキャッシュレス決済比率は24・1%と、国際的にかなり低い。政府は、25年6月までに4割程度とする目標を掲げている。

 日本でなぜキャッシュレス決済が進まなかったのか。一つは、店がキャッシュレス決済に対応した端末を導入する費用や、決済事業者に支払う手数料が高かった。消費者も「浪費しそう」「安全性は大丈夫なのか」との心配から、現金で買い物をしてきた。

 一方、政府はなぜ進めようとするのか。例えば、お店では現金を扱うとレジ打ちやお釣りの準備、売上金を金庫に入れるなどの様々な手間が発生する。キャッシュレスにすれば、店舗運営を効率化できる。訪日観光客はなるべくキャッシュレスで支払うので、需要の取り込みにも必要だ。消費者は、小銭や両替が不要になり、現金自動預け払い機(ATM)に行かなくて済むようになる。

 今、どういうサービスが生まれつつあるのか。一つは「スマートストア」だ。レジに行かなくても、電子タグのついた商品をかごにいれて店を出るだけで決済が完了する。米国や中国で、こうした形態の店が展開されている。日本でも少しずつこうした取り組みが出てきている。

 キャッシュレス決済は地方には広がらないのではないかという指摘があるが、必ずしもそんなことはない。地元の金融機関が旗振りをしたり、商店街などがリードしたり、様々な取り組みが地方でも進んでいる。

 例えば、岐阜県の飛騨・高山地域で使われている地域マネーの「さるぼぼコイン」がある。地元の信用組合が発行していて、スマホに専用アプリをダウンロードし、お金をチャージすれば、QRコードを使って決済できる。

 政府は今、何をしようとしているのか。10月に消費税率が10%に上がるのに合わせて、政府は「キャッシュレス・消費者還元事業」を来年6月末まで行う。中小の店舗で、キャッシュレスで買い物をした消費者に5%分のポイントが返ってくる制度だ。お店側には、クレジットカード会社などに払う決済手数料や端末費用を国が補助する。

 ポイント還元以外では、昨年7月、産官学で「キャッシュレス推進協議会」を立ち上げた。そこで「JPQR」というQRコードの統一規格を作った。

 19年度は、役所や病院での支払いのキャッシュレス化に向け、課題の解決に取り組む。昨年の北海道地震では、停電になってキャッシュレス決済用のレジ端末が使えないという指摘があった。災害時でも使えるようにするにはどうすべきか、議論を進めている。

プレゼンテーション

「カードでタッチ」環境整備

ビザ・ワールドワイド・ジャパン 取締役営業本部長
外山 正志氏

 ビザ(VISA)は約60年前に米国で生まれた。当時、ボール紙製のカードを作り、お金を払わなくても買い物ができるようにしたのが始まりだ。提携している三井住友カードやみずほ銀行が発行するカードが、「ビザカード」として世界中で使われている。

 ビザは単なるカード会社ではなくなっている。カードを支えるネットワークを使って様々な決済の仕組みが生まれている。

 従来、支払いの場所は店舗だったが、色々なモノの中に支払い機能が組み込まれていく。例えば、冷蔵庫の中に支払い機能があって、卵が残り2個になれば自動的に注文し、支払いが行われる。家電一つ一つにカード払いの仕組みがある世の中がすでに来ている。

 ビザは、冷蔵庫やクルマといった一つ一つのモノに固有のカード番号を用意し、使ってもらうサービスをネットワーク上でやっている。

 決済手段が多様化しても、便利さや安心・安全が基本だ。二つの戦略がある。一つはデビットカードだ。銀行口座からすぐに引き落とされ、残高がすぐに調べられて安心だ。

 もう一つは、タッチ決済。ビザカードを読み取り端末にかざすだけで決済ができる仕組みで、従来のクレジットカードより素早い決済が可能だ。日本では3月時点で700万枚のビザカードにタッチ決済機能がついている。来年は東京五輪・パラリンピックがあるため、海外から来る人がタッチ決済を使える環境にしていきたい。

口座直結の電子マネーを

みずほフィナンシャルグループ 常務執行役員
向井 英伸氏

 最近、人手不足で人件費が上昇しており、飲食店が値上げしたり、スーパーやコンビニが営業時間の短縮に動いたりしている。労働人口が減る中、日本が直面する人手不足という課題を、キャッシュレス決済比率を上げることで解決する余地は大きい。

 キャッシュレス決済が進まない理由は何か。クレジットカードを持っている人でも、1万円以下、1000円以下といった少額の支払いのためにお店でカードを出すのは面倒と感じる人が多い。キャッシュレス決済に対応できていない店にどうやってインフラを届けるかという問題もある。

 こうした課題への一つの答えが、みずほ銀行が3月に始めた新しいキャッシュレスサービス「Jコインペイ」だ。銀行口座と直結した新しい電子マネーで、スマートフォンでQRコードを読み取って買い物ができるだけでなく、他の利用者にお金を届けたり、受け取ったりできる。

 現金に最も近い感覚で使える電子マネーとして提供していく。預金口座さえあれば、若くてクレジットカードを持てない人や、不安でカードを持たない高齢者など、みんなが使える仕組みにしたい。塾の授業料の支払いや割り勘、募金や経費精算などにも利用できるサービスにすることを目指す。

 みずほ銀行だけでなく、全国の地方銀行など約70の金融機関に協力してもらい、そこに預金口座を持つ人が使える。提携する金融機関をさらに増やし、便利に使えるサービスにしたい。

乱立した決済手段を集約

三井住友カード 代表取締役社長
大西 幸彦氏

 今、非常にたくさんの企業が、新しい決済サービスを打ち出している。結果として支払い手段が乱立し、お店や利用者も困惑しているのが実情ではないだろうか。健全なキャッシュレス社会を実現するためには、お店や消費者の視点に立つことが大事だ。

 お店では、たくさんの支払い手段が出てきたため、レジの周りに多くの端末を置く必要がある。店員もその都度、使い方を覚えなければならない。消費者も、どの支払い手段が自分にとって最適なのか分かりにくい。財布から現金はなくなってもカードはいっぱいで、スマートフォンにはアプリが山ほど並んでいる。

 三井住友カードでは、GMOペイメントゲートウェイとビザの3社連合で、事業者向けの次世代の決済プラットフォームを作っている。これにより、クレジットカード、デビットカード、電子マネーなど、いろいろな決済を一つの端末、一つの契約で、ワンストップでできるようにする。

 (同じグループの)三井住友銀行では、4月から全店で「スクエア」という決済手段を紹介している。米国の会社であるスクエアと提携しており、スクエアの端末とスマホがあれば、クレジットカードのほぼ全てのブランドに対応できる。

 キャッシュレス決済で一番使われ、伸びてきたのはクレジットカードだ。昔は特別な時に使う感じだったが、日々の買い物で使ってもらえるようになった。生活に少しでも豊かさや新しさを生み出すことができればと思っている。

パネルディスカッション

手に障害あっても楽々

池崎 大輔選手

海外遠征で両替不要に

畠山 愛理氏

畠山 選手時代、試合や合宿で約25か国に行った。毎回、その国のお金に両替すると、帰国した時に小銭が余ってしまう。クレジットカードだと、どの国でもお金が余らず、両替の必要もないので助かった。

池崎 僕の場合、手にも障害があって、財布から小銭を出すのに時間がかかる。カードを出して「ピッ」と決済すれば、後ろに並んでいる人にも迷惑をかけないので、僕もカードをよく使う。

畠山 カードだと、お金が目に見えないので、たくさん使いすぎていないか、セキュリティー面は大丈夫かと、少し不安に感じるところもある。

大西 使いすぎやセキュリティーを心配する声は多い。我々は「セルフコントロール」という機能を作っていこうとしている。顧客自身が利用限度額をスマートフォンで自由に設定できるようにする。カード決済には不正検知の技術もある。キャッシュレスも安心だということを理解してほしい。

池崎 遠征や合宿で地方によく行く。海外に比べてカードが使えないところがまだまだ多い印象だ。

大西 これから使えるお店は増える。10月から「キャッシュレス・消費者還元事業」が始まるのに合わせて、中小のお店から決済端末の申し込みが増えている。

向井 QRコード決済も世の中で話題だ。スマホ一つあれば、簡単に支払いができる。小さなお店や屋台など個人事業主でも、導入コストが小さい。キャッシュレス決済の可能性を大きく広げるサービスだ。

伊藤 来年は東京五輪・パラリンピックがあり、世界中からたくさんの観光客が来る。おもてなしのためにも、あと1年間でキャッシュレス決済のできる環境を整えることが重要だ。

外山 真夏に開催されるので、支払いに時間がかかり、行列ができると大変だ。支払いがスムーズにできるように、タッチ決済の導入を進めていきたい。

畠山 私も2度五輪を経験しており、東京でも混雑すると思う。決済が素早くできることが混雑の解消につながる。

池崎 自分はロンドンやリオデジャネイロのパラリンピックの際、1時間以上並んで食べ物を買ったこともある。いろいろな国の人が集まり、いろいろな支払いをするとすごく時間がかかる。

伊藤 消費税率が10%に上がる10月以降、キャッシュレスで買い物をしたら5%のポイントが還元される。これをきっかけに、お店も消費者もキャッシュレス決済をやってみることを強く勧めたい。

シンポジウムの講演に耳を傾ける人たち(6月29日、東京・丸の内で)
=佐々木紀明撮影

司会
畑下 由佳氏

多彩な決済 手軽で安全 都内で体験会

リストバンドでタッチ決済の体験をする参加者
(6月27日、東京都千代田区で)
=小林武仁撮影

 6月27~29日の3日間、東京都千代田区の丸ビルで、キャッシュレス決済の体験会が開催された。クレジットカードの技術を応用したタッチ決済や、スマートフォン決済のコーナーに大勢の人が詰めかけた。

 ビザ・ワールドワイド・ジャパンと三井住友カードは、それぞれ読み取り用の端末にリストバンドをかざすだけで支払いができる体験コーナーを用意した。抽選で当たった人などにリストバンドのプレゼントも行われた。

 リストバンドは、クレジットカードなどを利用して、ネット上であらかじめお金をチャージ(入金)して使う仕組みだ。川崎市の会社員、長岡雅彦さん(66)は「リストバンドなら財布からカードを出さずに手首に巻いているだけで安全に使える。こういうものなら使ってみたいし、使えるお店も増えてほしい」と話していた。

 みずほフィナンシャルグループは、みずほ銀行と地方銀行など約70の金融機関が共同で展開するスマートフォン決済「Jコインペイ」を紹介。利用者同士の送金が簡単にできるサービスの体験コーナーを設けた。

 埼玉県富士見市の自営業、本間裕明さん(55)は「銀行口座からいったん入金した電子マネーを、無料で口座に戻すこともできて便利だ。銀行が運営しているので、お金を預けるという点でも安心して使える」と話した。

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