健康と病気の間にある「未病」~大腸から全身の健康を考える~
SDGs:すべての人に健康と福祉をSDGs:住み続けられるまちづくりを

2019年8月2日

 未来貢献プロジェクトのシンポジウム「健康寿命の延伸と栄養」(読売新聞社主催)が7月2日、東京都千代田区のヒューリックホール東京で開かれ、約600人が耳を傾けた。日本栄養士会会長の中村丁次氏が基調講演し、日本人の栄養状態が過剰栄養と低栄養に二極化している現状を指摘。「栄養で日本を元気にする」をテーマにパネルディスカッションも行われ、元バドミントン日本代表の潮田玲子氏や厚生労働省の担当者らが適切な栄養の取り方について考えた。(司会・コーディネーターはフリーアナウンサーの政井マヤさん)

主催:
読売新聞社
後援:
公益社団法人 日本栄養士会

基調講演

高齢者は「痩せすぎ」対策

大谷 泰夫氏

1972年徳島大医学部卒。85年、東大で医学博士取得。神奈川県立保健福祉大教授などを経て、2011年から同大学長、18年6月から日本栄養士会会長。

日本栄養士会会長
中村丁次(なかむら・ていじ)氏

 人生100年時代が到来すると言われるようになりました。100歳から現在の年齢を引いてみてください。あと何年も生きなければなりません。これからの高齢社会では、健康で楽しい人生をどう送るかが重要なテーマになってきます。

 世界の研究者たちが今、「栄養障害の二重負荷」という状況に頭を悩ませています。簡単に言うと、太っている人と痩せている人が混在しているということです。国連食糧農業機関(FAO)が2006年に定義しました。食べ過ぎで困る人と、逆に食べられないで困る人が、同時代に同じ地域に存在するのです。

 先進諸国では、中高年のメタボリック症候群(メタボ)が増大する一方、若い女性と高齢者の痩せが顕著になっており、世界的規模で問題になりつつあります。同じ地域だけでなく、同じ家族の中でも混在し始めています。

 日本も同じです。戦前、戦後の低栄養状態を、高度経済成長によって乗り切りましたが、食事が欧米化し、肥満の問題が起こりました。内臓脂肪がたまる、血糖値が高くなる、血圧が高くなるなどのリスクが重なることで、心筋梗塞(こうそく)が増えるという結果になりました。

 一方で、若い女性や高齢者は低栄養状態にあります。特に高齢者の低栄養は、体重が落ちる、筋力が落ちる、疲労感が増すなどの「フレイル(虚弱)」を招きやすく、注意が必要です。

 メタボとフレイルは、どちらも健康寿命を短くし、合わせて介護の要因の6割を占めます。この二つを乗り切れば、私たちは健康寿命を延伸できるのではないかと考えられます。

 ポイントは食事です。年を取ると、腹八分目が健康にいいと粗食にする人がいますが、サルを使った実験で、高齢になって腹八分目に食べても、寿命の延びには影響しないことが分かってきました。腹八分目の食事をしているサルの骨密度はどんどん低下して、骨粗しょう症の原因になります。さらに、現在の日本人は太り過ぎて死ぬよりも、痩せて死ぬ方が多いということも分かってきました。

 65歳くらいまではメタボ対策を一生懸命やる必要がありますが、それを過ぎると、今度は痩せ対策、フレイル対策をやっていかなければなりません。腹八分目のメタボ対策から、しっかり食べるフレイル対策にギアチェンジしてもらいたいと思います。

 皆が健康な100歳を目指して生きられる社会を作っていかなければなりません。祝福の中で生まれ、祝福の中で死んでいく。このような社会を皆で作ろうではありませんか。

パネルディスカッション

食事と運動 両方必要

東京医科歯科大大学院博士課程修了。医学博士、管理栄養士。1997年厚生省(現厚生労働省)入省。内閣府食育推進室などを経て、2017年から現職。

厚生労働省健康局 栄養指導室室長
清野富久江(せいの・ふくえ)氏

 日本では現在、少子高齢化が進んでいます。2065年には、2・6人に1人が65歳以上に、4人に1人が75歳になると予測されており、他の先進諸国と比べて高齢化率は高くなっていきます。

 平均寿命と、日常生活を制限されることなく生活できる期間である健康寿命を見ると、男女ともに平均寿命も健康寿命も少しずつ延びており、さらにその差は縮まってきています。元気で生活できている期間が長くなっており、国はさらに健康寿命を延ばす取り組みをしています。

 「スマート・ライフ・プロジェクト」という健康づくりの運動で、大きく四つの取り組みをしています。一つは「毎日プラス10分の運動」です。プラス10分の運動をすれば、死亡のリスクを2・8%減らせる、生活習慣病の発症を3・6%減らせるという調査結果も出ており、65歳以上の方は1日40分くらいを目安に体を動かしましょう。生活習慣病の予防のため、「野菜をプラス1皿食べましょう」とも呼びかけています。

 高齢者のフレイルを予防する対策も始まっています。フレイルの影響は多面的で、低栄養や筋肉量低下などの身体的な側面だけでなく、判断能力の低下やうつ状態になるなど精神的な側面もみられます。さらに、外に出たくないと思ったり、人との関わりがうっとうしくなったりする社会的な側面もあります。

 フレイルを予防するには、運動だけではダメ。しっかりと食事も取らなければならない。両方がそろって初めてしっかりと体が作られるということも分かってきました。

 人生100年時代。皆さんと一緒に健康づくりを推進していきたいと思います。

適正な食事量 しっかり把握

管理栄養士、公認スポーツ栄養士。東海大大学院を修了し、医学博士取得。2009年から神奈川県立保健福祉大栄養学科教授。専門分野はスポーツ栄養学。

日本栄養士会副会長
鈴木志保子(すずき・しほこ)氏

 バランス良く食べる大切さは、給食などの機会に教育されているので、日本人で知らない人はいないのではないでしょうか。しかし、「バランス良く食べていますか」と聞くと、半数の大人は「ちょっと分からないな」となります。

 どんなにいい食事でも、適正な量以上を食べたら過栄養状態に、適正量以下なら低栄養状態になります。自分の適正量を知ることが大事です。

 毎食、バランス良く食べなければならないのは、一つには体内の化学反応をしっかり進めるためです。食事から排せつまでの間に、体内では化学反応が連続して起こっていますが、材料の何かが少ないと少ない方に合わせて化学反応することになり、栄養状態が悪くなります。

 二つ目には、新陳代謝を良好に行うためです。爪や毛や歯以外の体の細胞は、作り替えられています。いつ、どの細胞が作り替えられてもいいように、毎食、炭水化物と脂質、ビタミン、たんぱく質、ミネラルの5大栄養素をしっかり取る必要があります。

 筋肉と骨は、運動などの刺激によっても出来る量が変わります。刺激がないと、筋肉や骨の量が少なくなり、体が動きにくくなります。

 運動による刺激と、栄養の摂取がとても重要だと知る必要があります。特に、年を取ると摂取する量が少なくなるたんぱく質が大切です。肉などの消化が負担なら、たんぱく質が多めの牛乳やヨーグルトも活用してみてください。

 日本栄養士会では、8月4日を「栄養の日」と定めて、1日から7日は「栄養週間」として、各地でイベントを行っています。各都道府県に、管理栄養士や栄養士がいる「栄養ケア・ステーション」もあります。いろいろ相談してみてください。

世代に合わせた食生活

1983年生まれ。小椋久美子さんとのペアで、2008年北京五輪で女子ダブルス5位入賞。12年に混合ダブルスでロンドン五輪に出場、同年に現役を引退。夫はJリーガーの増嶋竜也氏。2児の母。

元バドミントン日本代表
潮田玲子(しおた・れいこ)氏

 現役時代は、管理栄養士の皆さんにすごくお世話になりました。それなりに栄養の知識はあったのですが、家庭でいざ自分が食を提供する側になった時、現役アスリートの夫や子どものために、食について知っている方がいいと思い、野菜ソムリエといった資格を取るなど、自分なりに勉強しました。

 現代はいろいろな情報を得ることができ、かつては糖質をカットしたり、ファスティング(断食)をしたりしたこともありました。結局は、バランスの良い食生活を送り、食べる時間と睡眠に気を使うことが、健康で体にいいなというところに行き着きました。

 運動も栄養摂取も、一から新しいことをやるというのはすごく大変です。いつも車で行くところを歩いてみようとか、食事に1品足そうとか、そういうことであればトライしやすいですね。

 食は永遠のテーマですね。子どもや私たち、高齢の方、それぞれの世代に合わせて考えることが大事だと思います。これからも栄養に向き合っていきたいです。

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