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企業の環境への取り組みと、そのマネジメント
経営学部経営学科 北田 皓嗣 准教授

北田 皓嗣准教授北田 皓嗣准教授

自分が知っている企業の名前と、「環境」をキーワードに、各企業がどんなことをしているのか「Google先生」に尋ねてみてください。例えば「サントリー 環境」と調べると、サントリーグループの環境活動のページを見つけられると思います。「天然水の森」というキーワードを掲げ、「水」を確保し続けるためには、「森」を守ることが大切だと訴えています。そのために森林研究の専門家と協力したり、小・中学生を対象にした教育コンテンツを提供したりするなど、通常の企業活動のイメージとは少しかけ離れた取り組みも紹介されています。

他にも「サントリーのエコ活」というページを見てみると、商品を消費者の手に届けるまでにどのような環境への配慮がなされているのかが分かります。環境負荷を低減させるためにペットボトル製品のパッケージを見直し、自動販売機の電気の利用について検討し、製品の輸送を工夫し、工場で省エネ・省資源に取り組み、原材料を持続可能なかたちで調達する環境保全への取り組みが紹介されています。

例えば、普段、皆さんが手にしている、「なっちゃん!」や「伊右衛門」といった商品そのものを環境に配慮して作るだけでなく、その製品を消費者まで届ける段階、製品を作る作業の段階、そして自然環境の中から材料を集めてくる段階といったビジネスのすべてのプロセスで環境に配慮していることが分かります。それ以外に、「BOSS」のCMでおなじみの宇宙人ジョーンズも環境のページに登場します。企業がどうして水や森を守る活動をしているのか、サントリーの活動の不思議さについて考えるというストーリーの動画が配信されています。広報・マーケティングの活動にも環境が組み込まれていると言えるのではないでしょうか。

経営に環境の視点を取り込む

皆さんが検索した企業はどんなことをしていましたか? きっと皆さんが思っている以上に幅広い活動や、積極的で、挑戦的な取り組みを行っていたのではないでしょうか。このような、企業活動の隅々にまで環境の意識を浸透させた経営を、私の恩師の國部克彦先生は「環境経営」と定義しました。私の関心は、一つ一つの環境保全への取り組みよりも、背景にある環境経営を可能にするマネジメントの仕組みにあります。組織が計画を立て、その結果を分析し、見直すプロセスを通じて、企業活動に環境の視点を取り込む方法を考えています。

従来から企業は、ISO14001に代表される環境マネジメントシステムを利用しながら環境保全活動を管理するための仕組みを構築してきました。しかしながら多くの場合、環境マネジメントシステムは企業の本業から独立して利用されてきました。つまり環境のPDCA(P=計画、D=実施、C=チェック、A=是正活動)サイクルの活動と、経営活動のPDCAサイクルの活動が別々のマネジャーや管理部門によって実施され、組織のなかで分断されていました。これでは先ほど挙げた経営活動の隅々にまで環境の視点を反映させるという組織マネジメントの段階にはありません。

経営活動と環境保全活動の統合

環境への配慮が企業経営においてそれほど重要でない間は、別々に運用されていてもそれほど問題ではありませんでした。経営活動を妨げない程度に環境保全を進めるのであれば、環境管理部門の担当者が社内のルールを設定し、他の従業員がそれに従うことで、組織は規制や社会からの要望に対応することができるでしょう。

しかしながら冒頭に挙げたサントリーのように、経営活動のすべてのプロセスに環境を反映させようとすると、個々の活動の背後にある経営活動のマネジメントと環境保全活動のマネジメントを統合することが必要になってきます。つまり販売や生産、材料の調達、製品の輸送など一連の経営活動に責任を負うマネジャーが、それぞれの部門の活動の中で環境に与える影響を管理することが必要になります。このような環境と経営の統合のために、近年、さまざまな試みがなされています。

例えば外部向けの方法として、「統合報告」と呼ばれる情報開示の枠組みが提唱されています。統合報告とは、従来からある財務情報開示を、環境や社会、ガバナンスの視点から拡張し、投資家などの企業の利害関係者に企業の価値創造への中長期的な展望を説明するための考え方です。2013年に国際統合報告評議会(IIRC)より報告書作成のためのフレームワークが発行され、多くの日本企業の情報開示の在り方に影響を与えています。マネジメントの視点から考えると、統合報告書を作成し、外部へのコミットメントを示すプロセスで、企業が組織の戦略的なレベルで環境と経済を結び付けることが期待されます。

また内部管理の方法として、「マテリアルフローコスト会計」と呼ばれる資源生産性を向上させるための会計ツールが開発され、ISOにより国際標準化がなされています。資源生産性とは、より少ない投入原材料で、より多くの製品・サービスを生み出すことを目指した、経営戦略を考えるための一つのアイデアです。製品を作るための材料も、その加工や輸送にかかる電気などのエネルギーも、元をたどれば自然環境から取ってくることになります。そのため同じ製品を作るにしても、材料やエネルギーの使用量を減らすと環境への負担を減らすことができます。同時に、企業は材料やエネルギーをどこかから買っているので、使用量が減れば、企業側もコストを減らせます。つまり資源生産性を高めることは環境にも、会社経営にもWin-Winな手法といえます。

これらの手法の技術的な発展や利用の方法を研究することで、すぐに実用的な環境経営のかたちを描けるわけではありません。しかしながら、組織が環境保全と経済活動との「折り合いをどうつけるのか」について深く考えることができるようになります。環境問題や社会課題の解決のために、企業や投資家が果たすべき役割への期待が高まれば高まるほど、利益の拡大や企業の発展という従来の中心的な価値観との間で折り合いをつけることが難しくなってきます。マネジメントの仕組みは、対話を促し、人と人とを結び付け、調整するための枠組みを提供することができるため、環境保全と経済活動との「折り合いをどうつけていくのか」について考えていく場を創造し、ヒントを提供してくれます。


経営学部経営学科 北田 皓嗣

Hirotsugu Kitada
専門は環境マネジメント、管理会計。神戸大学大学院経営学研究科にて博士号(経営学)を取得。2012年4月に法政大学経営学部に着任。ISO/TC207/WG8(MFCA) 対応国内委員。最近の論文は、Kitada, H. & Higashida, A. (2016). Management Control Systems for Material Flow Cost Accounting: A Case of Japanese Company, Proceedings of the 2016 International Conference on Industrial Engineering and Operations Management., Kokubu, K., & Kitada, H.(2015). Material flow cost accounting and existing management perspectives. Journal of Cleaner Production, Vol. 108, part B, pp.1279–1288など。