社会に役立つ画像計測・処理技術の開発
~コンピュータによる画像データの処理システムを研究
情報科学部ディジタルメディア学科 花泉 弘(はないずみ ひろし) 教授
大学院時代にリモートセンシングを研究
花泉弘情報科学部教授の大学院時代の研究テーマはリモートセンシング。衛星や航空機などから得られたさまざまなデータを計測・分析し、人類にとって役に立つ情報を抽出する技術の研究です。花泉教授は、特に赤外線の画像データから海洋表面の情報を読み取る技術の開発や、それを利用して実際に役立つ情報の抽出に取り組みました。例えば、海面の赤外線温度のパターンから潮目などを読み取ることができると、従来より容易に漁場を探すことも可能になります。
こうした大学院時代の研究から花泉教授は画像計測や画像処理全体に研究対象を広げていき、現在では、リモートセンシングだけではなく医療やセキュリティに画像計測・処理技術を役立てる研究に取り組んでいます。「簡単にいえば、人間に代わってコンピュータが画像情報を処理・認識するシステムを研究しています。人間が画像を見れば簡単にわかることでも、コンピュータに肩代わりさせるのは容易ではありません。しかし、いろいろな画像処理技術を組み合わせたり、新しい処理技術を考案したりして、望みの結果が得られたときの感動は何物にも代え難いものです。人間の認識能力を超えるような画像処理・認識システムを作ってみたいものだと思っています」と花泉教授。
肺がんや大動脈瘤の発見や治療に画像処理技術を利用
花泉教授の最近のリモートセンシング分野の研究では、新しい画像処理技術を使ってさんご礁の現状を専門家が観測しやすくなる画像を提供することができました。花泉教授の新しい画像処理技術とは、分解能の劣る衛星画像に高分解能の衛星画像を組み合わることによって、効率的に細やかな画像データに変換する技術です。花泉教授は、この技術によって定期的に観測されるデータからその間の時間的変化を検出する技術も開発しました。
医療の分野では、現在、二つの医用画像処理技術の研究を進めています。
一つは肺の血管の3次元画像のデータをコンピュータによって自動的に認識する研究です。最近、CT(コンピュータ断層撮像法)やMRI(磁気共鳴画像診断装置)などの医療機器が進歩し、肺に巡らされた血管の詳細な3次元画像を入手できるようになりました。例えば、患者の1年前の画像と現在の画像を比較することで、がんと疑われる腫瘤の早期発見などにつながると考えています。
花泉教授が開発している肺に巡らされた血管の認識システム。
気管支を認識してそれにより肺野(肺の外側面積約50% の領域)を抽出(左写真)し、さらに、内部の血管を右写真のように認識します。
「技術の進歩によりCTやMRIから得られる画像の枚数が飛躍的に増えたため、一枚ずつ読映すると腫瘤を見落としてしまうリスクも増えてしまいます。こうしたリスクを回避するために、コンピュータに画像データを比較・分析させ、疑わしい箇所を抽出・提示するスクリーニングシステムを開発しているところです」と、花泉教授は研究の狙いを語ります。国立がん研究センターの協力の下で研究を進めています。
二つ目の医用画像処理技術の研究は、大動脈瘤の破裂を防止するための人工血管の挿入治療法に関連したものです。挿入する人工血管の設計がこれまでよりも効率的に行えるソフトウエアシステムの開発を目指しています。患者一人ひとりに適合する人工血管の設計には、解剖学的知見を用いた手作業が多くの部分を占めており、医師の負担が大変大きいというのが現状です。
花泉教授は、CT画像による血管内の血流領域の形状変化を独自の画像処理技術によって認識し、人工血管を挿入するべき位置の決定や、人工血管のパーツの組み合わせを自動化するシステムの開発を目指しています。「精度良く瘤部を検出するなどの研究を東京医科大学と共同で進めています。まだ課題は多く残っていますが、一つひとつ克服していきたいと思います」と、花泉教授は意欲的です。
あらゆる画像を研究対象に社会に役立つ技術を開発
花泉教授はまた、セキュリティの分野として、車載カメラなど身近にあるセキュリティ機器の性能アップや新しい性能の開発を目指しています。例えば、道路標識を正確に読み取れる車載カメラや、人の飛び出しを察知することができるシステム、コンビニなどの店先に設置して通過する車両のナンバーを読み取れるシステムなど、事故防止や防犯などにつながる機器の開発・研究を行っています。
「宇宙や地球の衛星画像から身近な車載カメラまで『画像』なら何でも研究対象です。『社会に役立つ技術開発』が私のモットー。画像処理を通して社会に貢献する研究を続けていきたいと思っています」と、花泉教授は語っていました。
花泉教授の開発した画像処理技術を使ってクリアになったさんご礁の衛星画像(右写真)。
高分解能の白黒画像(左写真)を使って、分解能の劣るカラー画像(中央写真)を右写真のように鮮明な高精度カラー画像に変換します。
- 情報科学部ディジタルメディア学科 花泉 弘(はないずみ ひろし)
1978年電気通信大学電気通信学部卒。
1980年東京大学大学院工学研究科計数工学修士課程修了。
1981年同博士課程単位取得。
1987年工学博士(東京大学)。
1981年東京大学工学部助手。
1987年法政大学工学部専任講師。
1989年同助教授。
1996年同教授。
2000年法政大学情報科学部教授。
2008 年〜2011 年 同学部長。現在に至る。
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