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少子高齢化社会における地域運営の確立へ
被災地復興支援にも尽力
現代福祉学部福祉コミュニティ学科 保井美樹(やすいみき) 教授

現代福祉学部の地域貢献活動を日本地図に表した掲示板前で現代福祉学部の地域貢献活動を日本地図に表した掲示板前で

昨年8月に帯同した遠野プログラムの報告会にて。「地域をよく知るからこそ出てくるアイデアも。毎回、学生から教わることもたくさんあります」昨年8月に帯同した遠野プログラムの報告会にて。「地域をよく知るからこそ出てくるアイデアも。毎回、学生から教わることもたくさんあります」

「被災地の方々のために何かしたい」と、当時の在学生が発起人となり2011年から現代福祉学部で始まった東日本大震災の被災地支援活動「域学連携遠野プログラム」(以下、"遠野プログラム"※)。この取り組みに教員として毎年欠かさず携わっているのが現代福祉学部福祉コミュニティ学科の保井美樹教授です。

4年目を迎えた被災地復興支援活動「遠野プログラム」

「教員が携わっていると言うと教職員が主導しているように思われることがありますが、『遠野プログラム』は学生主体の活動。相談しやすいと思われているのか、毎年春が過ぎた頃、学生が私のところに相談に来てくれるので、その都度必要なことをお手伝いしているだけなんですよ」と控えめな笑みをたたえて話す保井教授。

事前準備の上、毎年春と夏のそれぞれ約1週間で農業、産業や暮らしの活性化、被災地復興の支援活動を行い、最終プレゼンテーションを通じて、次のメンバーへとつながれてきた遠野プログラム。保井教授は地域計画の研究者として、プログラム計画に対するアドバイスや関係者との調整、必要に応じて、活動資金確保のための助成金の申請、学生たちの活動やプレゼンの指導など、多角的にこの活動を支援してきました。

「今年度は岩手県遠野市と富士ゼロックス株式会社が地域産業の活性化を目的に開校した『遠野みらい創りカレッジ』に参画し、他大学や地元の高校とも連携して遠野の未来構想も行いました。被災地に必要な支援の在り方が日々変わっていく中、震災発生から3年を経て何が必要とされているのか。環境整備や交流活動などの恒例的活動などに加え、状況に合わせた的確な課題発掘と柔軟な対応を学生たちが行えているのは、現代福祉学部の3本柱である"地域・福祉・心理"の学びを有効に生かし、民泊などを通じて学生が現地の方々との絆を育めているからだと感じています。

一地域を活性化させたいと考えた時、外部の若者がその地域に入り込んで活動するのが有効策の一つと言われていますが、離れた地域にある自治体と教育機関が継続的・有機的に連携することは簡単ではありません。研究分野から見ても興味深いですし、何よりも学生たちが自主的に復興の一助を担い、被災地が変わっていく姿を見られるよろこびを感じ、毎回私ができる限りの支援をしたいと携わっています」

1996年、ニューヨーク在住時、チャイナタウンにて。旅と食べ歩きが趣味だったという保井教授。「1996年、ニューヨーク在住時、チャイナタウンにて。旅と食べ歩きが趣味だったという保井教授。「"各地の魅力を発見するのも地域再生に必要な活動の一つ"と言い訳して(笑)、ニューヨークでは、地下鉄でエスニックタウンを巡り、美味しいもの探しをしていました」

BID手法を少子高齢化における社会問題解決の一助に

国土交通省社会資本整備審議会の委員をはじめ、地域運営やまちづくりに関する全国各地の自治体・組織の委員をも務めている保井教授。研究の原点は、米国での留学・研究員時代の経験です。

「祖父が地方議員をはじめ自治会長や会社運営などで地域運営の一翼を担っていたことから、地域の意思決定がどのように行われ、どのような仕組みで事業としての地域づくりに反映されるのかに興味があり、大学では政治学を専攻し、卒業後の企業勤務を経て米国へ留学しました。高度成長期が終焉した1990年代後半当時の米国は、地域計画も官主導による施設拡充から民間主導による環境整備へと転換期を迎え、地域運営が発展した時期。落書きが道や壁を埋め尽くし、ホームレスが溢れて治安が悪いとされていた地域が、民間の自発的な清掃活動をきっかけに人が集うようになり、商業施設ができ、イベントも行われるほど賑わうエリアへと変わっていく姿を目の当たりにするのは衝撃的でした」

ここで用いられていたのが、地域内サービスを専門とする事業組織が域内地権者から納められた共同負担金で域内清掃や美化整備から、商業施設の誘致、イベント等のプロモーション活動まで行う地域マネジメント手法「BID(Business Improvement District)」です。

同時期は日本でも少子高齢化が進み、地域運営の在り方が見直され始めていた時期。保井教授は帰国後、BIDや公民連携事業PPP(Public-Private Partnership)を取り入れた地域活性化を推進し続け、昨年4月には検討委員会の委員として参画してきた「大阪市エリアマネジメント活動促進条例」が施行されました。

「地域運営の課題の一つとなっているのが財源の確保で、日本も同じ問題を抱えていました。例えば、高度成長期以前まで地域運営を行ってきた自治会や商店会などは加入者が減って縮小し、また、地域資源の活用など工夫をこらしても、いろんな規制や税法上の課題があり、それをまちづくり資金として使うことができませんでした。これに取り組んだのが、大阪市でした。最初の事例は大阪駅付近の大型複合施設で、特殊な地域ではありますが、自治体の代わり、もしくは自治体とともに地域を支えていく運営組織や資金の仕組みを、米国のBIDをモデルに確保することができました。こうして地域運営を再生させることは防災面でも有効です。日本版BIDの使途はまだ限られたものですが、こうした事例が続き、少子高齢化で過疎化が進む全国各地域の先駆的モデルになると期待しています」

先進国のモデルとなる地域運営の構築へ

日本版BID導入が始まって1年も満たない現在、保井教授は早くもさらなる先へ目を向けています。

「地域運営は、異質なものを有効かつ持続可能な形でつないでいきます。大企業とホームレス支援NPOが連携しながら街の運営を行ったり、過疎地と都市部をつなぎ、若者の活動や特産品の生産や販売で協力したり、地域やセクターを跨いだ連携が、新しい形の活性化につながります。最近、こうした取組みを行う民間の地域運営団体が、全国で立ち上がり始めていますが、各団体が模索しながら進めているのが実情です。今後の発展には現場に寄り添う形で、事業開発、人材育成、評価方法などの確立に取り組むことが必要です」

保井ゼミの学生企画として、本学卒業生のこども未来プロデューサー・小笠原舞さん、子供服メーカーのBoo Foo Wooとコラボで実現した町田での「Asobi基地」。ゼミにおいても企業、行政、地域などつなぎ、新しい試みを行っている保井ゼミの学生企画として、本学卒業生のこども未来プロデューサー・小笠原舞さん、子供服メーカーのBoo Foo Wooとコラボで実現した町田での「Asobi基地」。ゼミにおいても企業、行政、地域などつなぎ、新しい試みを行っている

保井教授は全国のまちづくり団体を支援する活動や団体に参画し、地域運営の体系化・全国のネットワーク化を図るとともに、その事例を世界へ発信するための準備を進めています。

「少子高齢化社会における地域運営の在り方は世界各国が抱える問題で、中でも世界で最も速いスピードでその割合が進む日本の動向は世界も注目しています。書籍の発行やウェブを通じて、有効な情報を発信していくことが私の今後の役目だと思っています」

※域学連携遠野プログラム
2011年度より、本学現代福祉学部が岩手県遠野市と連携して実施した被災地ボランティア活動を契機に、「まちづくりと被災地復興支援活動」の両方を学ぶプログラム。毎年夏と春の長期期間中、2週間ほど岩手県遠野市に滞在し、各種ボランティアや交流会、資源発掘・産業創出の支援活動などを実施する。2013年度は総務省「域学連携支援事業」、2014年度は富士ゼロックス「文化振興事業」の一環として行われている。

https://www.facebook.com/ikigakutono

保井ゼミウェブサイト http://yasuilab.ws.hosei.ac.jp/wp/?lang=ja


現代福祉学部福祉コミュニティ学科 保井美樹(やすいみき)

1969年福岡県生まれ。1991年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、保険会社勤務を経て、1997年米ニューヨーク大学大学院公共政策大学院都市計画専攻修士課程修了。1999年米ニューヨーク行政研究所客員研究員、2000年世界銀行コンサルタント、2001年東京大学先端科学技術研究センター特任助手などを歴任。この間、2003年東京大学大学院工学系研究科より博士(工学)授与。2004年法政大学現代福祉学部専任講師、2013年より現職。
国土交通省社会資本整備審議会小委員会委員、北海道札幌市都心まちづくり計画策定委員会委員、神奈川県相模原市緑区区民会議会長、NPO法人ComPus 地域経営支援ネットワーク理事ほか、各種委員・理事も務める。
主な著書に『新版エリアマネジメント』(学芸出版社)、『地域は消えない〜地域活性化の最前線』(日本経済評論社)、)『欧米のまちづくり・都市計画制度−サステイナブル・シティへの途』(ぎょうせい)などがある(いずれも共著)。


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