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金融工学を駆使し
公的年金の安定運用に挑む
大学院理工学研究科システム工学専攻/理工学部経営システム工学科 浦谷 規(うらたにただし) 教授

浦谷 規教授浦谷 規教授

実効性のある資産管理のための数理理論により、金融商品の開発のみならず、企業の資金調達や事業投資などにも用いられる金融工学。その専門家として、現在、公的年金問題に取り組んでいるのが大学院理工学研究科システム工学専攻および理工学部経営システム工学科の浦谷規教授です。

「政府の財政赤字が莫大な額になっていますよね。2015年度予算96兆円のうち4割は国債に頼っていて、特に年金を含む社会保障費が財政を圧迫しています。政府は年金赤字を経済動向に応じて給付調節する自動調整システムで対応しようとしていますが、少子高齢化の進行状況を考えると限界がある。そこで、金融工学を使い、資金運用によって解消できないか思案しています。

着目しているのは、英国で導入が進められているLongevity Swap(ロンジェビティ・スワップ)です。日本では"長寿スワップ"などと訳され、投資銀行が行政や企業から基金を預かり、他の金融商品と組み合わせてリスク分散しながら運用する金融商品。人が長生きすることによって生じる基金不足や債務負担などの長寿リスクを回避し、行政や企業は債務を負うことなく資金管理でき、また、債権者である受給者は生きている限り定額を支給されることが特徴です」

厚生労働省の担当者も参加する研究会や、海外の学会へも定期的に足を運び研究発表している浦谷教授。「日本にLongevity Swapを導入するには資本規制などの問題はありますが、日本の数理理論は世界の中でも進んでいます」。寿命の伸びや資金規模による運用率の違い、高リターン商品の含有率など、さまざまな要素を考慮し、最適解となる仕組みとしての数理理論の確立を目指しています。

イメージ2014年4月に出席した国際会議にて

ポリシーサイエンスへの疑問から金融工学の道へ

金融工学の研究は、研究者としての道を踏み出した後から始めた浦谷教授。しかし、大学生時代から、社会に対する強い問題意識を抱いていたと言います。

地元・神戸(兵庫県)にある神戸商科大学を卒業後、オイルショックに伴い顕在化し始めていた社会の矛盾に課題意識を抱き、工学的アプローチで諸課題の解決を図る社会工学専攻が設置されていた東京工業大学大学院理工学研究科に進学。特に強い関心を持っていたエネルギーに関する先駆的知見を得るために、海外の大学院のみならず、国際的な研究所へも留学を果たしました。

「金融工学と出会ったのは、博士課程修了後に引き続き在籍していた東工大で助手を務めていた時です。研究においてエネルギーはポリシーサイエンスであってサイエンスではない----エネルギーから発せられる諸問題は製造や供給量などの物理的な要因ではなく、経済活動によってもたらされていると感じ、手に取った経済学の論文誌『エコノメトリカ』がきっかけです。それまで異分野の専門書を読んでも理解できていたのに、『エコノメトリカ』は全然わからない。没頭していったのは、悔しさもあったのかもしれませんね(笑)。

金融工学は2008年のリーマンショック直後、批判にさらされた時期がありましたが、否定的にとらえるのは荒唐無稽な話です。リスクを切り売りするのが金融工学の得意分野。全部固まっていては危ないリスクも、切り分けて少しずつ分担することで、多くの人がより少ない負担で安心を享受できるのです」

イメージ大学院時代に留学したオーストリアのIIASA(International Institute for Applied Systems Analysis、国際応用システム分析研究所)。経団連・石坂財団の支援で磨いたドイツ語のほか、浦谷教授は英語とフランス語も操る

一流の研究者を育てるために

公的年金の研究と同じくらい、浦谷教授には熱意を掛けていることがあります。

「私はすごく教育熱心ですよ。ゼミは夏休みでも週1回、小金井キャンパスの校舎が工事をしていて入れない時でも市ケ谷キャンパスの教室を借りて実施しています。出身校である神戸商科大学が面倒見の良い学校で、私自身が大学に育ててもらった経験があるからかもしれません。法政大学に来た当初、研究室が地下にあった時期があり、研究が一段落して帰ろうと夜に外へ出たら一面雪で真っ白で、学生たちと驚いたこともありました。

ゼミ生には、金融工学が好きならできれば大学院まで行ってほしいですね。学部を卒業する頃までには学問分野を確立した論文(主に英語表記)を読みこなし、学問の本質がわかるようになる。大学院は独自の新しい理論を作り出すことが目的で、そのレベルになると国内トップの大学とも同じレベルの研究力を身に付け、社会でも認められるようになるからです。

米国で金融工学に携わる研究者は新しい理論を確立してアメリカンドリームを目指すタイプが比較的多いのに比べ、日本は控えめな人が多い。金を儲けようとする必要性は決してありませんが、胆力は一流の研究にも不可欠です。法政の学生も、ガッツを持って研究に取り組んでほしいですね」


大学院理工学研究科システム工学専攻/理工学部経営システム工学科 浦谷 規(うらたにただし)

1949年兵庫県生まれ。1973年神戸商科大学商経学部管理科学科卒業。1979年東京工業大学大学院理工学研究科社会工学専攻博士課程修了(工学博士)。東京工業大学工学部社会工学科助手、静岡県立大学経営情報学部助教授を経て、1991年本学工学部経営工学科助教授。1992年より現職(当時は工学部)。
著書に『無裁定理論とマルチンゲール』(朝倉書店)、『Mathematical and Statistical Methods for Actuarial Sciences and Finance』(Springer、共著)などがある。