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読売新聞オンライン タイアップ特集
上智大学の視点
~SDGs編~

「SDGs」は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発目標」の略称。2030年を達成期限とする、各国が取り組むべき17の目標とその具体的な評価基準169項目が定められている。そこで、上智大学のSDGsにかかわる取り組みを、シリーズで紹介する。

SDGsが目指すものは上智大学が目指すもの:他者のために他者とともに ~シリーズを締めくくるにあたって SDGsが目指すものは上智大学が目指すもの:他者のために他者とともに ~シリーズを締めくくるにあたって

SDGsが目指すものは上智大学が目指すもの:他者のために他者とともに ~シリーズを締めくくるにあたって

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上智の理念の延長線上にSDGsが

大学(University)には果たすべき「USR=University Social Responsibility」があると考えています。本分である教育・研究の質を磨くのは当然のこととして、それを含む大学の営みの全体で社会に貢献していかなければならない。それは、本学の設立母体であるイエズス会が掲げる「マジス(ラテン語で『よりよい』)」を、社会そして地球という星の一員として追求していくことに他なりません。

『上智大学の視点』のタイトルのもと、このシリーズコラムではこれまで、本学の教員たちが、SDGsという地球規模の課題をそれぞれの専門的な視点からどのようにとらえ、またそれにどのように取り組んでいるかを紹介してきました。そのラインアップを振り返ってみると、私たちがSDGsを実に多様な観点から「自分事」と認識し、その達成に教育や研究活動を通して、あるいは国連や企業・市民活動との協働を通して、さらにはPRI(*)にいち早く署名し実践するなど大学経営の革新を通して、さまざまな形で貢献しUSRを果たそうと努めてきたことにあらためて気づかされ、手前みそながら少々誇らしい気持ちにもなります。(*国連-責任投資原則。環境への配慮、社会貢献、ガバナンスの向上に注力する企業を優先的に支援するESG投資などを促す)

でも、あえて強調させていただきたいのは、ここで取り上げた数々の取り組みが決して、2015年に国連で採択されたSDGsに沿うよう考えられ、推し進められてきたわけではないということです。「他者のために、他者とともに」を教育理念として掲げる本学が、建学以来大切にしてきた考え方、続けてきた取り組みが、SDGsの発想・方向性にもともと合致するものだった、ということなのです。

さて、SDGsをテーマとするシリーズはひとまずこれが最終回となります。本シリーズを進めながら上智学院は、SDGsに加えて設立母体が掲げるUAPs(Universal Apostolic Preferences)や2030年以降の大学等の社会的責任を意識した「サステナビリティ推進本部」を設置しました。私が本部長を務めている立場から最終回のアンカーを担うと同時に、その活動について紹介することにします。

学生職員の柔軟な発想と行動力が大きな成果につながる

サステナビリティ推進本部(以下「本部」)は、大学だけでなく短期大学、中学校・高等学校を擁する上智学院の組織です。学院内の各組織、各部署が独自に工夫し実施していた、サステナビリティに関わるさまざまな取り組みを連携させ統合することで、より大きな効果・成果を上げることをねらいとして2021年の夏に発足しました。

本部の特徴の中で他大学などから最も注目され、また評価されているのは、一般的な学生アルバイトとは異なる「学生職員」制度です。つまり、本部の中心的役割を担うのは職員として起用された本学の学生であり、学生の視点を生かしながら経営の視点を身につけるということです。現在彼らは3チームに分かれ、ダイバーシティに配慮したインクルーシブな視点での「キャンパス環境改善」、サステナビリティ関連のイベントや外部団体との連携等の「企画実施」、『SDGs&サステナビリティレポート』やウェブサイト等を通じた「情報発信」をそれぞれ担って活動しています。

学生の思考が柔軟だというだけでなく、いわば厳しいユーザーの目をそこに注いでいる。それゆえその視点・発想は、本部の目指すところに向けてきわめて有益なはずだと考えたのですが、学生職員たちの適切な提案とそれを形にする行動力による貢献は、期待をはるかに上回るものとなっています。

こうした学生職員の活躍を今後、学内の各研究所との連携強化へとつなげて、学術の分野にも貢献していきたいと考えています。

日本でも求められるエスニック政治学の視点

教員・研究者としての私の専門は「エスニック政治学」をディシプリンとする地域研究です。異なるアイデンティティ(民族)間の暴力紛争を互いに優位に立とうとする「権力争い」(政治学的観点)を切り口に分析していきます。「エスニック」のソフト定義を生かし、単なる「人種」(ハード定義)と違い、言語・宗教をはじめとするさまざまな文化的要素によって分かれうる「民族グループ」の暴力紛争を学問横断的に見るわけです。このような民族対立はしばしばマジョリティとマイノリティの対立という側面を持ちますが、これも数の大小ではなく、社会的な力の強い者と弱い者と考えるべきでしょう。私が主に研究しているのは、インドにおけるヒンズー教徒とイスラム教徒の間のコミューナル紛争・暴動です。一見これは宗教間の対立としてくくれそうですが、両教徒はインド全域で共存しているのに紛争・暴動がおこる地域は限られていることから、宗教以外の要素が加わった「コミューナル」の対立と見るほうが適切なのです。多くの暴力紛争は特にマイノリティの人権を侵害します。私の研究は人々を人権侵害から守り、公平・公正な社会を目指します。つまり暴力紛争の研究はSDGsの「誰一人取り残さない」との理念に直接かかわります。公平・公正を全世界に行き渡らせることは、SDGsの大きなテーマ(ゴール10「人や国の不平等をなくす」、ゴール16「平和と公正をすべての人に」など)ですから、私も微力ながら研究を通してこれに貢献できていると考えています。

多文化社会における暴力紛争は日本には縁遠い問題......とんでもありません!そもそも日本には、異なる文化的アイデンティティを持つアイヌ民族や琉球民族が存在し、現在でも彼らが公平・公正に処遇されているとは言い切れない。さらに今後は、さまざまな宗教・文化を背負って移住してくる外国人が、確実に増えていきます。多様な「民族」が平和に幸福に共生できる社会を、まずこの国でつくることが、日本人にできるSDGsへの大きな貢献なのです。

実は、イスラム教徒が安心して食べられる本格的ハラルフードを提供するために、大学キャンパス内にハラル食堂を開設した日本で最初の大学は、カトリックを基盤の一つとする上智でした。「民族」の多様性が尊重され、そこから新しい可能性が生まれる社会を、このキャンパスから日本へ、世界へと広げていくことを心に期して、本稿そして本シリーズを締めくくりたいと思います。

2023年2月10日 掲出

サリ・アガスティン 総合グローバル学部 総合グローバル学科 教授

インド・ケーララ(Kerala)州出身、1997年来日。
1995年Calicut大学政治学部(インド)卒業。1997年Jnana Deepa Vidyapeeth大学哲学部(インド)卒業。2002年上智大学神学部神学科卒業。2004年上智大学大学院外国語学研究科地域研究専攻博士前期課程修了。2007年上智大学大学院外国語学研究科地域研究専攻博士後期課程修了。博士(上智大学)。
2007年、文学部講師。神学部教授を経て、現在、上智大学総合グローバル学部総合グローバル学科教授。
2017年4月から2018年3月まで上智大学学生総務担当副学長。2018年4月から学校法人上智学院総務担当理事(現在に至る)。
専門は、暴力紛争、人権問題、社会問題、社会倫理、人間学。研究テーマは、アイデンティティ間の紛争。特にインドにおけるコミューナル紛争とその課題。
上智学院サステナビリティ推進本部長として大学に学生職員を採用し、SDGsやイエズス会が掲げる4つの世界的課題への取り組み等を通して社会貢献活動を進めている。また、教皇フランシスコの「ラウダト・シ」に基づく環境への配慮を促進するシンポジウム等を開催している。
2018年より地域社会との連携として、紀尾井町内会理事を務める。

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