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読売新聞オンライン タイアップ特集
上智大学の視点
~SDGs編~

「SDGs」は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発目標」の略称。2030年を達成期限とする、各国が取り組むべき17の目標とその具体的な評価基準169項目が定められている。そこで、上智大学のSDGsにかかわる取り組みを、シリーズで紹介する。

データサイエンス教育を通じてSDGsに貢献する 社会人向けの新たな大学院が2023年春始動 データサイエンス教育を通じてSDGsに貢献する 社会人向けの新たな大学院が2023年春始動

データサイエンス教育を通じてSDGsに貢献する 社会人向けの新たな大学院が2023年春始動

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データサイエンスは人類のサステナビリティの要

たとえば企業が消費者の心に響くCMを作ろうとするとき、もはや被写体(魅力的なモデルさんや風景)もコピーライターも必要ないーーそんな時代になりつつあります。AI(人工知能)の性能が、いわゆるディープラーニング(深層学習)技術の進化により、人間の脳にどんどん近づき、特定の目的に対して効果的だと思われる画像や文章を、自動的に生成できるようになってきたからです。低コストでより効率的な広告・宣伝を行えるため、企業にとっては大きなメリットとなるでしょう。

私が接する企業の皆さんも、やはりこうしたディープラーニングの応用に一番興味を持たれているようですが、実は「学習」のもとになる質が高く膨大なデータが不可欠なため、通常の企業にはなかなか使いこなすことができません。しかし、話を聞いているうちに、その企業が顧客について量は少ないけれど質の高いデータを保持しているのにもかかわらず、その価値に気づいていないことが多いとわかってきました。

それを適切に分析・処理する数理モデルを組み立てられれば、眠っていた「財産」を経営に生かすことができるのです。さらに、こうした数理モデルは、宣伝のみならず製品やサービスの品質管理など、さまざまな分野で活躍するデジタル技術、データサイエンスが、企業のサステナビリティに大きく貢献していることは言うまでもありません。

また企業だけではありません。2021年、わが国ではデジタル庁が発足し、「デジタル田園都市国家構想」が国の政策の柱として打ち出されました。ようやくというべきか、デジタル技術の活用が国のサステナビリティの根幹にかかわることが認識されたわけです。

さらに視野を広げると、SDGsのどのゴールをとってみても、地球規模のデータを分析して具体的な課題を洗い出し、取り組みの成果を可視化し評価し改善するうえで、デジタル技術の活用が必須であることがわかります。データサイエンスは間違いなく、人類のサステナビリティのカギを握っているのです。

でも、ここで首を傾げる人がいるかもしれません。AIの進化を、データサイエンスの発展を手放しで歓迎していいのだろうか、と。

「性善説」のジレンマ

AIに支配される人類、SF映画でたびたび描かれてきたそんな世界が到来する可能性は、現時点では小さいと私は考えています。ディープラーニングにしても、そのプロセスを今のところは人間が適切に制御できているからです。ただ、技術の進歩があまりに速いので、この先AIを暴走させてしまうことがないとは言い切れない、というのが正直なところです。

それよりも現実的な懸念は、技術が悪用されることです。ネットショッピングで自分に向けてカスタマイズされた広告に日々接していると、個人情報がどこまで拡散しどのように利用されてしまうのか、不安を感じるでしょう。冒頭で触れた技術は、フェイク情報を説得力ある映像の形で生成・拡散し、人々をだますことに使われるかもしれません。

こうした問題の根底には私たち研究者が、常に「性善説」に基づいて研究・開発を進めているという事情があります。自分が生み出す技術が、善良な人によって善良な目的のために使われることを前提にしているのです。そしてしばしばその前提は覆される......核爆弾が世界を脅かし、ドローンが殺人兵器として飛び回るウクライナの現状を持ち出すまでもないでしょう。

残念ながら、そうした科学技術の「悪癖」を、科学技術自身が正すことは当分(もしかしたら永久に?)なさそうです。したがって大切なのは、科学技術の発展のみならず、科学技術とのあるべき向き合い方を、教育によって人々の間に徹底することでしょう。

データサイエンスに関していえば、ひとつは情報を受け取る側の「リテラシー」、すなわち情報の真偽を見分け、正しく理解する能力を身に付けさせること。これは日本ではすでに初等教育からの取り組みが始まっています。

もうひとつは、情報を収集し、分析し、加工し、生成して利用する側の技術力と意識の向上および最新技術に対をキャッチアップし続ける体力。すなわち優秀かつ善良なデータサイエンティストの育成であると考えます。これについては、上智大学が2023年4月、大学院に新設する「応用データサイエンス学位プログラム(修士課程)」が、大きく貢献するのではないかと期待しています。

情報を正しく扱い社会に役立てられる人材を

同学位プログラムは、データサイエンスを経営に活用したい、それができる人材を確保したいと考えている多くの企業、それを自ら担おうという意欲を持つ社員、あるいはその能力を武器に就職を目指す学生たちのニーズに応えるべく、データサイエンスの基礎の基礎から、業務としてデータ分析を行える実践力までを身に付けられるよう構成されています(詳細は上智大学大学院応用データサイエンス学位プログラム(修士課程) (ds-sophia.jp)

同学位プログラムの最大の特徴は、教員の顔ぶれが多彩で、それゆえカリキュラムの内容も多彩だということ。実務家教員、つまり現場で多くの経験を積んできた方々が多数教鞭をとられるのですが、準備作業の中でお話を伺うだけでも、各人各様の知見・発想に目を見張らせられることしばしばです。「データサイエンスを正しく学んで、社会に還元できる人材を育てる」というコンセプトが共有された中で、この多様性のメリットが発揮されることは、即戦力を目指す学生にとって大きな魅力となるはずです。

一方、私たち大学側の教員も多彩です。そもそも本プログラムは、経済学、理工学、地球環境学の3研究科の連係によって設置されるものであり(※注)、情報を扱う上での倫理的問題も含め、単なる技術修得にとどまらない俯瞰的・総合的な視点・知識を、さまざまな分野の教員が提供します。これは、都心のワンキャンパスに全学部が集う上智大学だからこそ、可能なことだと言えるでしょう。

私も複数の講義・演習を担当しますが、ネットワークのある企業から分析を必要とするまさに生のデータを教材としてご提供いただき、ゼミのメンバーをチームとして私の関係する「データ解析コンペティション」(経営科学系研究部会連合協議会主催)などに参加させる、など実践力養成につながる工夫をこらそうと考えています。

このプログラム、そして上智大学から、データサイエンスを通じて社会・世界に貢献する人材が巣立つことを願っています。

(※注)2019年に導入された分野横断型の新たな大学院設置形態である「研究科等連係課程実施基本組織」として、経済学研究科、理工学研究科および地球環境学研究科の3つの研究科の連係によって開設される大学院の修士課程

2022年12月1日 掲出

山下 遥 理工学部 情報理工学科 准教授

1987年東京都墨田区生まれ。2006年江戸川学園取手高校卒業。2010年東京理科大学理工学部経営工学科卒業。2012年慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻修士課程修了。2015年慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻博士課程修了。博士(慶應義塾大学)。日本学術振興会特別研究員DC、Weber State大学Visiting Scholer、早稲田大学理工学術院経営システム工学科助手、上智大学理工学部情報理工学科助教を経て、現在、上智大学理工学部情報理工学科准教授。専門はビジネスアナリティクス、統計的品質管理、応用統計解析、多変量解析。企業や他大学との共同研究を通した社会貢献を目指している。また、経営科学系研究部会連合協議会―データ解析コンペティションの日本経営工学会部会の主査を務める。

[広告]企画・制作 読売新聞社ビジネス局

SOPHIA ONLINE「上智大学を知る」タイアップページ 2014年4月〜2017年3月掲載分 各界で活躍する上智大学卒業生
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