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上智大学の視点
~SDGs編~

「SDGs」は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発目標」の略称。2030年を達成期限とする、各国が取り組むべき17の目標とその具体的な評価基準169項目が定められている。そこで、上智大学のSDGsにかかわる取り組みを、シリーズで紹介する。

ごみ問題からSDGsを考えてみよう! ペットボトルからも、つながる世界が見えてくる。織朱實 大学院 地球環境学研究科 教授 ごみ問題からSDGsを考えてみよう! ペットボトルからも、つながる世界が見えてくる。織朱實 大学院 地球環境学研究科 教授

ごみ問題からSDGsを考えてみよう! ペットボトルからも、つながる世界が見えてくる。

織朱實 大学院 地球環境学研究科 教授

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SDGsの本質ってなんだろう?

最近、あちらこちらでみかける「SDGs」のカラフルなロゴ。「これっていったい何?」と不思議に思ったり、「どの目標も大切だけど、自分には関係ない、遠い世界の話」と思ったりしていませんか? SDGsは、2030年までに世界全体で達成しようという国連の17の目標です。

17の目標の中、たとえば「貧困をなくそう」「飢餓をゼロ」。これらは、確かに途上国のための目標と思いがちです。でも、「つくる責任、つかう責任」「住み続けられるまちづくり」、これらの目標は先進国にも深く関わってきますね。「ジェンダー平等を実現しよう」などは、日本でもまだまだ取組みが十分ではない目標です。さらに、「海の豊かさを守ろう」「気候変動に具体的な対策を」になると、途上国と先進国が協力しなければ達成できない目標です。このようにSDGsは、私たちの今いる世界と無関係ではないのです。

SDGsの大切なポイントは、私たちの世界は「つながっている」、そしてそれは「一人一人の行動が起点」という点です。私たちは、「幸せ」も「不幸せ」も共有する世界にいるのです。行動の一つ一つが世界になんらかのインプットを与えている点が重要です。たとえば、普段の生活で何気なく食べているポテトチップスやペットボトル、ここからもSDGsの世界が見えてきます。目標を達成するために、環境だけでなく、経済発展やよりよい社会のありかた、すべてを「統合的に考える」、さらにそれぞれの国が17の目標を「見える化」することもSDGsの大切なポイントです。

また、SDGsの目標達成が、一方でトレードオフ(二律背反)の関係になっていることも注意が必要です。例えば、問題となっている海洋プラスチック。この問題を解決するときには、食品にラップをかけて保存すればフードロスを減らせる側面も忘れてはなりません。

「2030 SDGs」カードゲームを使って、SDGsを学ぶ地球環境学研究科国際コースの学生たち

とはいえ、こうした「つながっている世界」を、実感することはなかなか難しいです。そこで、私の授業では、いろいろなカードゲームを使ってSDGsの世界を体感してもらっています。

一つが、一般社団法人イマココラボが作成したカードゲーム「2030 SDGs」。このゲームでは、自分の与えられたプロジェクトを、手持ちのお金と時間を使って達成していくことが、世界の「環境」「経済」「環境」「社会」に影響を与えることを実感してもらうことができます。

もう一つが、金沢工業大学が作った「X(クロス)」。こちらは、目標達成がトレードオフの関係にあり、それをどう解決していくかに焦点をあてたゲームで、問題解決をみんなで一緒に考えることができます。

ごみ問題からSDGsを考える?

ウミガメの頭にストローが刺さったり、大量のプラスチックが鯨のお中から出てきたり、といったショッキングな映像とともに、海洋プラスチックが世界中で大きな問題となっています。

プラスチックは、軽くて、成形が容易で、耐久性が高いという特性から、今では、私たちの生活に欠かすことができない素材です。しかし、生活の利便性や安全性を与えてくれているプラスチックも、いったん海に流出すると大きな問題になります。耐久性が高いため長く漂流し、海の生物に直接影響を及ぼすだけでなく、太陽光などにより劣化し微細なマイクロプラスチックになり、有害物質を吸着し有害物質の運び屋になっていくのです。海洋プラスチックの問題は、使用そのものを減らしていくことが、一番重要です。でも、医療用のプラスチックや、食品ロスの観点など、プラスチックの重要な機能も忘れてはなりません。

そこで、いかにプラスチックの「流出を防ぐ」かが、次に重要になってきます。クリーンビーチなどの活動も重要ですし、リサイクルシステムの中に取り込んでいくことも大切です。日本は、この点では世界に誇るプラスチックのリサイクルシステムを作ってきました。しかし、日本国内のリサイクル工場の処理能力に余裕があるにも関わらず、分別がきちんとされずに、汚れが残った食品容器や自動販売機わきのペットボトルなどが洗浄の手間とコストのために、国内ではリサイクルされずに中国に輸出されていました。

中国に渡ったプラスチックごみは、安いプラスチック製品の原料を作るために、児童労働を含むきわめて劣悪な状況でごみの仕分け・洗浄が行われ、残渣は環境に放出されています。中国だけでなく、プラスチックごみの適切なリサイクルシステムがなく、海への流出につながっている国々はたくさんあります。自国の環境問題に目を向けた中国は、2018年にプラスチックごみの輸入禁止を発表しました。

ちまたにあふれている安いプラスチック製品、100円ショップで安易に購入できる製品。プラスチック製ストローを紙製に代え、レジ袋を断ることが根本的な解決になりますか? 本当にプラスチックでなければならない製品と、プラスチックでなくても良い製品をきちんと区別することが、海洋プラスチック問題にもつながっていきます。「安い」「便利」というだけで購入して、きちんと分別をしない、それが他国の環境汚染につながっていく。まさに、SDGsの本質「つながる世界」が私たちのごみ箱から見えてくるのです。賢い消費者として選択していくこと、分別をきちんと行い流出を防ぐことが海洋プラスチック問題の解決につながっていきます。

グローバルなキャンパスでSDGsの視点を

小笠原西島の海岸で清掃活動を行う織ゼミの学生たち(撮影:MANA NOMOTO)

上智大学の学生は、こうした「つながる世界」を日常的に感じられる環境にいます。たとえば、美しい珊瑚礁のマーシャル諸島のランドマークは、高さ5メートルに及ぶごみの山(平坦なその島ではこれが「最高峰」です)などという話は、記事で読むのでなく、ミクロネシア諸島からの留学生から聞くことにより、改めて世界がつながっていることが実感できます。SDGsの世界を実感しやすい環境にいることは、とてもラッキーです。私たち教員も、ゲームや映像、留学生との交流の機会を増やすなど、SDGsの本質を理解してもらうための取組みを行っています。また、世界遺産小笠原諸島の無人島の漂流ごみの回収など、自分たちでできることも実践しています。学びの過程の中で、少しでもSDGsを身近に感じてもらえればと思っています。

2019年8月1日 掲出

織 朱實 大学院 地球環境学研究科 教授

1986年早稲田大学法学部卒業後、東京海上火災保険株式会社に入社、リスクコンサルティング業務に携わる。同社退職後、2003年3月一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了(法学博士)。関東学院大学法学部教授を経て、2015年より現職。2019年4月より地球環境学研究科委員長。専門は環境法。廃棄物、化学物質、外来種対策関連の法政策、リスクマネジメントおよびリスクコミュニケーション、サスティナブルツーリズム、SDGsと環境法政策。

2006年~2010年三井化学株式会社社外取締役、2010年より独立行政法人製品評価技術基盤機構監事を歴任。文部科学省原子力損害賠償紛争審査会、化学物質審議会、中央環境審議会自動車排ガス総合対策小委員会、経済産業省産業構造審議会 産業技術環境分科会 産業環境対策小委員会、国土交通省建設リサイクル推進施策検討小委員会等、また各地方自治体、学術会議などの審議会・委員会の委員を務め、環境法全般に関して専門的助言を行っている。

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