読売新聞オンライン タイアップ特集
上智大学の視点
~SDGs編~
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上智大学の視点
~SDGs編~
「SDGs」は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発目標」の略称。2030年を達成期限とする、各国が取り組むべき17の目標とその具体的な評価基準169項目が定められている。そこで、上智大学のSDGsにかかわる取り組みを、シリーズで紹介する。
SDGsでは目標3として「すべての人に健康と福祉を」が掲げられています。SDG 3のターゲットの一つが「Universal Health Coverage(UHC)」、すなわち、全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健・医療サービスを、必要な時に支払い可能な費用で受けられる状態の実現です。そのためには、保健・医療サービスの質とアクセスの確保と、公的医療保険や税方式等、公的な保健・医療制度の整備が不可欠となります。公的な制度が整備されていないと、人々が保健・医療サービスを利用する際、費用を自己負担しなくてはなりません。また、費用を負担できるかどうかや、民間の医療保険を購入できるかどうかで、保健・医療サービスへのアクセスに格差が生じます。2017年のUHCフォーラムでは、毎年8億人が、基礎的な生活に必要な資源が不足するほどの保健・医療費を支払い、毎年1億人が、保健・医療への支払いが原因で、貧困ライン以下の生活に陥っていることが報告されました。これらの数字が、UHCに向けた取り組みの重要性を物語っていると思います。
このため、現在、アジアやアフリカの多くの国が、UHCの達成に向けて、保健・医療制度の整備や改革を進めています。例えば、私が8年間ほど研究拠点としてきた南アフリカでは、政府の予算で国民に無料で医療サービスを提供する制度が用意されていました。しかし、国民のうち比較的豊かな約15%は、民間の保険を購入し、民間の医療機関で診療を受けている。政府の予算に限りがあることや、薬剤、資機材の調達の仕組み、社会的な背景等、複数の要因が重なって、公立の医療機関は、設備、薬剤、スタッフの数が不足しています。結果的に、保健・医療サービスへのアクセスに格差が生じる状況がありました。このため、現在、南アフリカ政府は、国民健康保険制度の導入を計画しており、社会・経済的な属性を問わず、必要な時に適切な保健・医療サービスの利用が可能となる政策づくりを進めています。
南アフリカではケープタウン大学の医療経済ユニットに所属し、サブサハラ・アフリカを中心に、診療報酬制度や、医師、看護師の労働条件等、保健・医療システムの中で生じる種々の課題を理解し、解決の糸口を見つけるために、多様な立場の方々と一緒に研究活動を行ってきました。政策づくりのプロセスで、行政と大学が共同で研究を行うことも多く、また、市民社会組織と協力し、住民の声を政策づくりのプロセスに反映できるような研究の機会もありました。その中で、多角的な視点、課題の背景にある何層もの要因とそれらの繋がりについて、多くの発見と学びがありました。
Health Systems Globalシンポジウム(バンクーバー)でケープタウンの同僚たちと
上智大学の学生は、SDGsに関心が高く、社会の課題に目が開かれていると感じています。それぞれが関心のある分野で、また、それぞれの立場で、「持続可能な社会」と、そのためにできることについて、継続して、知識を吸収し、考えを深めていくことと期待しています。
2021年2月9日 掲出
1992年上智大学文学部社会学科卒業。1996年フィリピン・ザビエル大学フィリピン地域研究科博士前期課程修了、2000年東京大学医学系研究科国際保健学専攻博士前期課程修了、2009年ロンドン大学公衆衛生熱帯医学大学院博士後期課程修了。Ph.D. (Health Economics)。南アフリカ・ケープタウン大学Lecturer、Senior Lecturerを経て、2017年9月に本学経済学部経済学科准教授として着任。2020年4月より現職。専門は保健・医療の経済学。
Health Systems Global、International Health Economics Association等の学会に所属。 サブサハラ・アフリカ、東南アジアを中心に、保健・医療制度、医療従事者のインセンティブとモチベーションに関する研究を行なっている。
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