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上智大学の視点
~SDGs編~

「SDGs」は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発目標」の略称。2030年を達成期限とする、各国が取り組むべき17の目標とその具体的な評価基準169項目が定められている。そこで、上智大学のSDGsにかかわる取り組みを、シリーズで紹介する。

水に「恵まれてきた」日本人だからこそ考えるべき水とのサステナブルなつきあい

水に「恵まれてきた」日本人だからこそ考えるべき水とのサステナブルなつきあい

杉浦 未希子 グローバル教育センター 准教授

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2015年の国連サミットで採択された国際目標であるSDGsには、「水」と特に深くかかわる目標が、全17項目中4項目も含まれています(目標6「安全な水とトイレをみんなに」、同13「気候変動に具体的な対策を」、同14「海の豊かさを守ろう」、同15「陸の豊かさも守ろう」)。水はあらゆる生命の源であり、気候をはじめ地球環境を左右する最大の要因のひとつ、そして人間の文化的生活を支える重要な要素のひとつですから、これは当然といえるでしょう。

とはいえ、アジアモンスーンの高温多湿の気候下で、水を文字通り「湯水のごとく」使い、いらないものは「水に流して」済ませてきた日本人にとって、水をめぐるサステナビリティの問題は、それこそ他人事のように感じられるかもしれません。でも、水と親しくつきあってきた日本人だからこそ、その関係の「持続」を目標に、考えるべき課題もあるのではないでしょうか。

水は、その物質としての性質からしてとてもユニークです。水は固体の密度が液体の密度より小さい唯一の物質で、おかげで湖水の表面が凍っても、その下で生物は越冬することができます。また、表面張力のお陰で、植物は地中から水を吸うことができ、光合成を行ってエコシステム、ひいては地球を支えます。さらに、水はきわめて多くのものを溶かします。血液は栄養や酸素を溶かして体中に運んでくれますが、一方で水に有害な物質が溶け込んでしまうと、厄介な水質汚染の問題になります。

私のもともとの専門は法律で、水研究の入り口は、公水である河川水を水利使用する権利(水利権)でした。ところが、研究すればするほど、水のもつ多面的な顔、その奥深さに魅了されていったのです。

私が河川水を研究テーマの中心にすえる大きなきっかけとなったのは、たまたま参加した「第3回世界水フォーラム」(2003年・京都府)で、見慣れた風景である「水田」のすばらしい生態学的特質を教えられたことでした。

持続性にすぐれた水田水稲耕作

見沼代用水。関東に多くの恵みをもたらしてきた。

農耕による食料生産は、自然環境そのものに少なからぬインパクトを与えます。ところが、日本で行われている灌漑による水田水稲耕作は、人為的に土地を切り開いて平らに整地し、湛水を保つ畔を作り、灌漑・排水路を張り巡らして大量の水を引き入れるにもかかわらず、生態系を損なうどころか、むしろそれを豊かにしうる側面もあるというのです。

水田とその灌漑・排水のシステムにより、森林、湿地、河道、田んぼなどが水を介してつながり、新しい循環の土台ができる。生き物たちは、必要に応じて移動しながらすみかを得て生殖を行い、そこに新たな生態系、いわば第二の自然がつくり出されるからです。

大量の河川水を取水するといっても、その大部分は排水されて下流の水路や河川に戻るので、「ロス」にはなりません。つまり河川水の水田灌漑による稲作は、とても持続性に優れた農法だといえるのです。

ところで、河川水の使用については、使い始めた順番に従って優先権が与えられてきたので、先行者優先(prior appropriation)が世界共通のルールのひとつとなっています。歴史の古い農業用水の優先順位が高いことになりますが、日本では、異常渇水で河川水が足りなくなると、その分配は「渇水対策協議会」と呼ばれる、河川水使用者と関係当局が構成する組織で自主的に調整されます。この自主的な調整は、世界的に見てきわめて稀有なものです。

水が足りなくなると、ということに若干関連しますが、東京都を始めとする主要県の、冬期非灌漑期の水田の水利権量は、ゼロです。なぜなら、これらの地域では通年で水需給状況が厳しいとされるからです。他方で、冬の間も田んぼに水を張っておくこと(冬水)が、田の生産力を維持し、周辺の環境を保全する上でも有効である、とする意見があります。

この「環境保全」という点で私が注目しているのは、人間中心の世界観から自然中心の世界観へ、という大きな思潮の変化に同調して、2006年に国土交通省が作った、全く新しい水利権である「環境用水水利権」です。この、環境の維持や保全に資する幅広い目的のための水利使用の権利は、原則として地方自治体に許可されます。農業水利施設を活用したものに、仙台市六郷堀・七郷堀地区(仙台東土地改良区受益地)や、新潟市亀田郷西部地区(亀田郷土地改良区受益地)があります。

日本人による日本人のためのゴール

千葉県に個人で借りている田んぼ。毎年学生と田植えに訪れている。

高度成長期、工業的に製造された農薬と肥料の使用が一般的になると、前述の水田の生態系は消滅していきました。種々の悪質な廃水が流入して、灌漑用水の汚染も進みました。さらには、米づくりの後継者がいないために、水田の耕作放棄もどんどん進んでいます。

これこそは、私たち日本人が、自分たちの生活と社会のサステナビリティのために克服すべき課題でしょう。

上智大学は、文部科学省採択の私立大学研究ブランディング事業として、タイのチャオプラヤ川流域をはじめとした国内外の流域で、環境変動プロセスの解明や、水質向上のためのモデルづくりなどを進めています(「持続可能な地域社会の発展を目指した『河川域』をモデルとした学融合型国際共同研究」)。これは、国連のSDGsの目標(例えば前掲の目標15)の達成に貢献する、意義の大きいプロジェクトで、私も社会科学の分野から参加しています。

でも私は、上智大学にはこうしたグローバルな貢献とは別に、日本・日本人のための独自のゴール達成に向けて果たしうる、そして果たすべき役割があるように思います。

というのも、近年、あらためて種々の有機農法に取り組む人が現れ始め、持続可能な農業とそれを支える水利用の知恵が、細々とではありますが普及しつつあります。これまで「治水」「利水」に特化していた行政の水への視点に「親水(水に親しむ)」、さらに生物多様性が加わり、前述の環境用水水利権の考え方も取り入れられました。私は、この先さらに、水への畏敬や感謝の心など、かつての日本人の生活を支えていた宗教・倫理のような精神文化も復活し、それが持続可能な水との付き合い方につながっていくのではないかと考えているのです。ただし、いまや日本人の大部分は都市生活者、日ごろは水道の蛇口かペットボトルを通してしか水と接することのない我々の、水に対する意識を変えることが容易でないことも確かです。「他者のために、他者とともに」という、本学の理念が基盤とするキリスト教ヒューマニズム、隣人と分かち合うべき「環境」や「倫理」の視点は、そんな日本人を気づきや転機へと導く、貴重な入り口のひとつになりうるのではないでしょうか。

「日本」「キリスト教ヒューマニズム」「都市立地」という3つの背景を持つ本学は、今必要とされる研究のための最適な場であり、そして水が大好きな私は、及ばずながらそのような場で自ら課題に取り組めることを望外の幸せと感じる次第です。

2019年6月3日 掲出

杉浦 未希子(すぎうら みきこ) グローバル教育センター 准教授

東京大学法学部および上智大学比較文化学部卒業。2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(国際協力学)。

東京大学大学院農学生命科学研究科特任助教、コロンビア大学工学部客員研究員、国立大学法人総合研究大学院大学特任講師等を経て、2014年上智大学グローバル教育センター嘱託准教授に着任。2018年より現職。本学地球環境研究所正所員。専門は河川水利、土地改良区、水利使用に関する社会システム。一男一女の母。欧州・アフリカ・アメリカの各大陸で生活してきた経験が糧のひとつになっている。

2018年農業農村工学会 平成30年度学会賞 優秀論文賞を受賞。農業農村工学会、水文・水資源学会に所属。農業農村工学会農業農村整備政策部会幹事。一般社団法人総合政策フォーラム客員研究員、あらゆる分野から幅を持った社会システムを考える会会員。

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