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読売新聞オンライン タイアップ特集
上智大学の視点
~SDGs編~

「SDGs」は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発目標」の略称。2030年を達成期限とする、各国が取り組むべき17の目標とその具体的な評価基準169項目が定められている。そこで、上智大学のSDGsにかかわる取り組みを、シリーズで紹介する。

SDGsに貢献するESG投資は<br>消費者にも無縁ではない SDGsに貢献するESG投資は<br>消費者にも無縁ではない

SDGsに貢献するESG投資は
消費者にも無縁ではない

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きっかけは石油流出事故

新型コロナウイルスに対して多くの国が一斉にロックダウンなどの強い措置をとっていた昨年の春、一時的に温室効果ガスの排出量が全世界で17%、先進国では30%あまり減少しました。パンデミックという非常事態で、人々の社会生活が厳しく制限されたなかでこの数字ですから、人類が掲げる「排出量ゼロ」がいかに達成困難な目標かわかります。しかし、コロナ禍に追い討ちをかける豪雨や猛暑など、気候変動をはじめとする環境問題もまた、私たちにとって待ったなしの課題であることを想起させます。

実際、世界の金融市場では、化石燃料関連企業をはじめ、環境に悪影響を与える、あるいは環境への配慮を欠く企業からのダイベストメント(投資引き上げ)の動きが、昨年あたりから顕著になっています。でも実は、こうした投資家の行動は、30年以上も前のある事故をきっかけに始まっていました。

1989年、アメリカの石油メジャー・エクソンが所有するタンカー・バルディーズ号がアラスカ沖で座礁。輸送中の原油のうち25万バレル(4000万リットル)以上が流出し、海岸線にして2000kmにおよぶ海洋環境に甚大な被害をもたらしました。この事故を受けて、投資専門家と環境保護団体によるNGO「CERES(セリーズ=環境に責任を持つ経済主体の連合)」が設立され、企業が環境を守るために順守すべき倫理規範として「バルディーズ原則」(後に「セリーズ原則」と改称)を定めました。これは、「生物圏の保護」「廃棄物の削減と処分」「エネルギーの保全」などの10項目から成り、それらを企業の定款に記載することを求めるとともに、環境に配慮しない企業には投資を手控える、あるいは引き上げるという態度をとったのです。

もちろん、社会のサステナビリティ、あるいは企業自身のサステナビリティを考えても、配慮すべきは環境だけではありません。これはSDGsの17項目を見ても明らかです。そこで現在、責任ある投資家たちが考慮するのは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」、頭文字をとって「ESG」の3項目です。これらの分野における企業の姿勢・行動が、投資先選択の判断基準となりつつあるのです。そして最近、海上の重油流出事故が再び、こうしたESGの観点から注目されました。

CSRとは一線を画すESG

2020年7月、日本の長鋪汽船の貨物船『わかしお』がインド洋・モーリシャス沖で座礁、翌月に入って燃料油の一部が流出し、現地の海洋環境に大きな被害をおよぼしました。

これに対し、定期傭船者(艤装した船舶を乗組員付きで一定期間チャーターした者)という立場の商船三井が、事故に対する法的責任を問われる可能性が高くないにもかかわらず、条約上、想定される環境損害額をはるかに上回る10億円あまりを、「モーリシャス自然環境回復基金」などの形でいちはやく拠出しました。この行動が、ESGの観点からも高く評価されたのです。

企業が環境保全やスポーツ振興などに資金を提供して地域に貢献する「企業の社会的責任(CSR)」活動は従来からありました。ただその多くは、本業との関係は薄く、そのための費用はコスト(損失)ととらえられるのが一般的でした。

しかし本件の商船三井の資金拠出は、国際的海運業者として不可欠なビジネスパートナーである船主の長鋪汽船を救っただけではなく、海洋環境保全に適切に配慮していることを世界に向けて明確に示すことにより、企業活動への「ソーシャルライセンス(社会的許諾)」を強化することに成功したと考えられます。つまり、同社が拠出した資金は、将来のビジネスの安定に直接つながる有効な投資になっているのです。

このような、(従来の「企業の社会的責任」論の文脈における)「CSR」とESGの考え方の違いを示す好例が、薬品メーカーのエーザイです。同社は、企業活動全体の低炭素化、海外雇用を含む従業員のダイバーシティ(多様性)の確保と人権の保障など、ESGにかかわる取り組みを積極的に進めています。そして、そのための費用がコストではなく投資であることを明言し、将来のどの時点でどれだけの利益につながるかを試算し、投資家も注目する統合報告書の中で、数字で明快に示しているのです。

SDGsを自分事とするために投資家の目を活かす

国連は「責任投資原則(PRI)」を定め、ESG投資を支持しています。上智大学を運営する上智学院は、このPRIに日本の大学の中で最初に署名し、ESG投資を実践して、奨学金・留学支援などの資金の充実に努めています。PRI署名機関に対しては、責任投資の実施状況等について、事務局による評価がなされるのですが、本学は18・19・20年と3年連続で「A+」の最高評価を得ました。

ESG投資は、それ自体がSDGsに資する営みであることは言うまでもありません。加えて、投資とは関係なく、日々の消費行動の中で自らSDGsに貢献したいと考える意識の高い人たちにも、有益な手がかりを与えてくれるのではないかと考えます。

というのも、たとえばCMで自然素材を使った製品をアピールしていても、それを作る海外工場では人権を無視した労働を強いているかもしれないなど、本当に応援すべき企業かどうかを見分けるのは容易ではないからです。そんなとき、専門家の厳しい目で企業活動の全体を分析・評価しているESG投資家が、投資先に選んでいるか(株主総会において経営陣を信任しているか)という情報は大いに参考になるはずです。

さて、法学の世界でE(環境)といえば、従来は民法・行政法、あるいは国際法の分野からの研究が一般的でしたが、近年、私の専門とする企業法の分野でも注目されるようになってきました。上場企業に求められる自律的取り組みを定めた「コーポレート・ガバナンス・コード」、責任ある機関投資家を対象とする「スチュワードシップ・コード」など、関連するソフトローにおいても、サステナビリティ課題への対応を求める規程の整備が進みつつあります。ただ、海外に比べると、ハードローの内容やソフトローにおける位置づけ・実効性などの面でかなり遅れをとっており、私たち法学者のさらなる努力も必要だと感じています。

そうした中で、大学での私の講義やゼミを受講してくれている学生たちを見ていると、期待が高まります。「SDGsネイティブ」とも呼ばれる彼らは、環境問題や企業の社会貢献に対してそもそも意識が高い。ESG投資についても、本学の資金運用を実際に担当する引間理事の講義では金融論・証券市場論の視点から、私の授業では法的視点から造詣を深め、社会のいろいろな分野でその知識や視点を活用してくれることを楽しみにしています。

2021年8月2日 掲出

梅村 悠 法学部 法律学科 教授

2001年上智大学法学部卒業、博士(法学)(上智大学、2008年)。流通経済大学法学部専任講師・准教授、日本大学法学部准教授を経て、現在、上智大学法学部教授。
専門は、商法・企業環境法。いわゆるESG(環境、社会、コーポレートガバナンス)問題について、企業法の観点から研究を行っている。
近著として、「ESG/SDGs経営と企業の法的・社会的責任: モーリシャスにおけるWakashio号油流出事故を題材として」上智法學論集64巻3・4号209頁(2021年)、「気候変動リスクと企業法の課題 : 英国法との比較を通して 」上智法学論集63巻4号17頁(2020年)、「ESG経営と経営者のコミットメント : ISOマネジメントシステム規格改訂の意義」上智法学論集62巻3・4号113頁(2019年)、「ユニバーサル・オーナーとしての生命保険会社とスチュワードシップ責任 : 気候変動リスクへの対応を中心として」生命保険論集 204号101頁(2018年)など。

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SOPHIA ONLINE「上智大学を知る」タイアップページ 2014年4月〜2017年3月掲載分 各界で活躍する上智大学卒業生
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