「八重山そば食うたらなんとかなる!」
石垣島出身のばあちゃんはいつも私にそう言った。そして、八重山そばを作り、食べさせてくれた。
私は小学生の頃、毎日、ばあちゃん家に行っていた。そして、その日に学校で起きた出来事を話していた。
「ばあちゃん、ドッジボールで顔面に当てられた!」と言うと、ばあちゃんは「八重山そば食うたらなんとかなる!」と答えた。別の日に「ばあちゃん、テスト14点だった!」と言うと、ばあちゃんは「八重山そば食うたらなんとかなる!」と答えた。また違う日に「ばあちゃん、好きな子に振られた!」と言うと、いつも通り、ばあちゃんは「八重山そば食うたらなんとかなる!」と答えた。
同じことをいつも言われていた私は、ある日言い返した。「ばあちゃん!八重山そば食ったってなんともならんやん!ドッジボールは勝てんし、テストの点はあがらんし、好きな子にはまた振られるし!」
するとばあちゃんは入れ歯が外れるほどの爆笑をした。「八重山そばは魔法の料理じゃないのよ」
「じゃあ何で食べさせたの?」私はばあちゃんを問い詰めた。
「美味しいからよ。あんた、八重山そば食べたらそれまでの落ち込み具合が嘘のようにけろっとして、『ばあちゃん、次はいけそう』って言っていたじゃない。おいしい食べものを食べる!それが大切なのよ」ばあちゃんのその言葉は深く私の心に残った。
そんなばあちゃんは、2年前に認知症を発症してしまい、今は老人ホームで生活している。私は週に1回、ばあちゃんに会いにいっている。しかし、ばあちゃんは私のことはすっかり忘れてしまい、施設のスタッフだと思っている。
「ばあちゃん、元気でやってる?」
「心配してくれてありがとうございます。ところで山内さん、子供は元気にしていますか?」
「はい。元気でやっていますよ。」私は山内さんでもないし、子供もいない。しかし本人の信じていることを否定するのは病状の悪化に繋がるため、ばあちゃんが言うことの否定はしないことにしている。
そしてある日、私は八重山そばを作りばあちゃんの元へ持っていった。ばあちゃんの作り方を思い出し、それ通りに作った八重山そばだ。
「ばあちゃん、八重山そばっていう料理作ったから食べてみて!」
「へえ、面白い名前ですね。山下さんが作った料理なら美味しいに決まっていますね。」ばあちゃんは箸で麺を掴み、するっと食べた。「やっぱり山崎さんが作った料理はおいしいですね。そういえばこの料理、私も作ったことあります。昔孫に作ってあげていたのです。」
「そうなんですね。それはよかった、、」私は涙をこぼしていた。
「どうしたのですか?山本さん?」
「いえ、そんなに美味しいと思ってくれて嬉しいんです。」
ばあちゃん、八重山そばは魔法の料理だよ。