今は冷めたご飯は「レンジでチン」が当たり前だが、私の小さいころには電子レンジがなかった。そのため、冷めたご飯はチャーハンやおかゆにして温めなおして食べることが多かった。

　その中でも私が大好きだったのは祖母のつくる「がっぱらもち」だった。冷めたご飯に、砂糖、小麦粉、牛乳を入れご飯をつぶしながらよく混ぜて焼く。甘くてもちもちしていて、砂糖が少し焦げたところが香ばしいお菓子のようなご飯。

　毎週土曜日、学校が終わると祖母の家に泊まりに行った。一人で住んでいる祖母は、私が泊まりに行くのをとても楽しみにして待っていてくれた。「がっぱらもちが食べたい。」と私が言うと、くちゃっと笑顔になって「すぐ作るはんでな。」としわしわの手で準備を始めた。

　「今日はストーブの上で作るがな。」と石油ストーブの上のやかんをよせ、フライパンを置いた。サラダ油をたらして、材料を入れつぶしたご飯をお玉にすくって丸く形を整えて焼く。ジュワ～とたまわらなく食欲をそそる音がして、狭い部屋に甘い匂いが充満する。

　「でぎだよ。食べへ。」出来立てあつあつを一口食べる。「むちっもちっほわ～ん」甘くてあったかくてほっとする何とも言えない大好きなおばあちゃんの味が口いっぱい広がった。油がよくしみ込んだフライパン、お湯を入れるだけで出汁が出そうな鍋。祖母の家の料理器具はどれも年季が入っていて、それらでつくる祖母の料理は、どれも本当においしかった。中でも大好きだった「がっぱらもち」は、家で母に頼んで作ってもらっても、見よう見まねで自分で作っても、祖母のあの味にはどうしてもならなかった。

　しばらくして、祖母は料理好きの私にオーブンレンジを買ってくれた。うれしくて夢中になってケーキやクッキーを焼いては家族や祖母に食べてもらった。甘くておいしいお菓子を作れるようになった私は、徐々に祖母の「がっぱらもち」の存在を忘れていった。

　高校生になると祖母の家に泊まりに行くこともなくなり、祖母の料理を食べることもほとんどなくなってしまった。

　ある日、母に頼まれごとをして祖母の家に行くと祖母が編み物をしていた。「何してた？」と聞くと、くちゃっと笑顔になって「ボケ防止。」と言った。久しぶりに会った祖母は少し小さく感じた。「がっぱらもち食うか？」と立ち上がってゆっくり台所に向かった。最近膝の調子があまり良くないと聞いていたので、「なんも、無理しなくていいよ。」と私が言うと、「久々だがら、食べでげ。」とさらにしわが増えた手で準備を始めた。私も台所へ一緒に入った。ボウルの中に材料を入れご飯をつぶす。「今日はこれもへる（入れる）」と卵を入れた。「えっ卵入れちゃうの？」と私が驚いてると、くちゃっと笑って頷いた。フライパンに大きく焼いた「がっぱらもち」はお日様のように黄色くて、ほわほわの湯気と甘い匂い漂わせていた。祖母は「け（食べなさい）」と短く私に言った。

　顔が隠れるほど大きな「がっぱらもち」にかぶりつくと「むちっもちっほわ～ん」 のあの味が口いっぱいに広がった。「あまっうまっおばあちゃんの味だぁ。」夢中で食べる私を、祖母はお日様のような笑顔で見ていた。