2020年1月13日。待ちに待った息子の成人の日。母子家庭とは言うものの、たくさんの支えがあってここまで来られた。
こんな日はお赤飯を炊いて門出の餞にするものだが、息子はお赤飯が苦手。それでも何か作ってあげたい。はて、何にしよう。
良く考えたら、親子の思い出の中で、いつも頭にあるのが『お弁当』。保育園から少年サッカー、部活、高校三年間。どんな時でも楽しんで作ろう。そう思って来た。高校を卒業して2年。ほとんど家に帰ることも減り、私もお弁当を作ることも無くなった。ならば渾身の母ちゃん弁当を門出に送ろう。そう思って、目覚ましをセットした。
ご飯を炊き、生姜焼き、ほうれん草のバター炒め、ウィンナーはタコ、レンコンのきんぴらを作り、サツマイモを甘露煮にする。ゆで卵は昨日味噌につけておいたから、味がしっかり染みている。ごはんはのり弁。炊き立てごはんに鰹節をかけて醤油をひとさし。その上に焼きのりを一口大に切って敷き詰める。さらに醤油を少し多めにかける。のりをちぎるのは、蓋を外した時にくっつかないのと、食べやすくする為。息子はこれが大好きだった。丁寧に懐かしい二段弁当に詰める。猫舌だから、お味噌汁も早めに作ろう。そうだ、なめこの味噌汁が大好きだったな。
そんなことを考えながら、ふと思った。子育てを振り返ると、私のお弁当やご飯が思い出にある。初めて保育園でお弁当を空っぽにした日。おむすびを持って真っ暗になるまで遊んだ公園。夜中まで準備したお花見弁当。二人きりなのに、三段では納まらなかった運動会のお弁当。毎週サッカーは朝がどんなに早くても手作り弁当。夜行で出発する遠征の朝ごはんもお弁当。悔しくて涙の味がしたおいなりさん。一緒に作ったパンも、頑張った日のご褒美焼肉も、友達を20人呼んでも、家に来るとごはんを食べてくれた。大変!と思いながら、いつ誰を連れてきても良い様に、いつもお肉は冷凍庫に2キロ準備するようになっていた。今、振り返って思うのは、
『楽しかった』
彼の母の思い出は、いつもキッチンに立っている姿かもしれないな。食べた物が心を育て、体を作る。そう思うと、ここまで大きく成長し、たくさんの仲間と共にこの日を迎えられた事への思いが溢れた。
起きてきた息子は、食卓につくと『何?これ』と少しぶっきらぼうに蓋を開けた。
『多いな・・・』と言いながら、何も言わずに黙々と食べ始めた。『ごちそう様。うまかった』そう言ってキッチンに運んだお弁当は、空っぽだった。嬉しくて、胸がいっぱいになった。涙がポロポロこぼれた。
『20年間ありがとう。私の元に生まれてくれてありがとう。成人、おめでとう』彼の前で、初めて声を上げて泣いた。
『ずっとありがと。』照れくさそうに言ってくれた。20年が報われた日だった。