蓮田市立黒浜南小学校 5年
「ほら、チャーハンできてるぞ。」
祖父母の家に遊びに行くと、必ず自慢のチャーハンが食卓に並んでいる。しょう油の香りが漂う部屋は、一生懸命ぼくに作ってくれた証。ぼくは、ガハハと笑う豪快で料理上手な祖父が大好きだった。誕生日や、運動会、お正月、それこそ何気ない日常の時にも祖父のチャーハンはぼくの側にいた。
そんな日々のいつの日だったろう、突然祖父がぼくの大好きなチャーハンのレシピを渡してきた。「いつか役に立つかもしれない。男だってチャーハンくらい作れないとな。」と、まるで自分がいなくなるような口調で渡してきたのだ。ぼくは、「おじいちゃんが死ぬ訳ないよ。長生きするって。必要ないよ。」と、その時は冗談半分で笑いながらレシピを受け取り、自分の机のどこかへしまいこんでしまった。この記憶がこの春、掘り起こされる事になるとは夢にも思わなかった。
あと数日で桜が開花する頃、祖父が他界した。突然の事で、ただただ慌ただしい毎日だった。祖母も、父も母もみんなが憔悴していて、台所のコンロに火がつく事はなかった。その時、ふと祖父のレシピの事を思い出した。自分の机をかき回し、レシピを見つけると「これだ!」と思った。祖父が言っていた「役に立つ時」が来たのだ。
生まれて初めての料理。それも誰かを想っての料理だ。ぼくは、ありったけの気持ちをこめた。きっと祖父も、毎回毎回ぼくのためにがんばれや、おめでとう、元気だせとか、他にもたくさんの想いを入れてくれたに違いない。そんな料理に支えられていたんだ。
出来上がったぼくのチャーハンは上手とは言えなかった。それでも、みんなが泣きながらおいしいねと言った。そうだろう。だって、このチャーハンには、祖父から引き継いだ誰かを想う気持ちがつまっている。元気だして笑おう。そして祖父への、ありがとうがんばるよの未来がつまっているのだから。