三月一日。卒業式を終えた息子からのLINE。
「まあ、三年間、弁当作りありがとうございました。」
何気ないやり取りをした後、少し時間を置いて届いたメッセージだった。まさか、お礼の言葉をもらえるなんて想像していなかったので胸が熱くなった。
息子は、自家用車と特急列車、自転車を乗り継ぎ、自宅から片道二時間弱のところにある高校へ通っていた。早朝五時台に出発する列車に乗せるため、私は午前四時前に起きてお弁当作りを始めた。長期休業中も、補修授業や部活動があったり、模擬試験があったりと、お弁当作りの休みはほとんどなかった。
私は、料理が好きで、息子が中学生の頃、お弁当の日には、キャラ弁にデコ弁、見た目にも楽しく開けてワクワクするお弁当を持たせていた。しかし、毎日それも早朝からのお弁当作りとなると、お弁当の見栄えにまで気を遣う余裕がなくなり、手を抜いてしまう日もあった。それでも、手作りの卵焼きだけは入れると決めていた。少し甘めの卵焼きは、うちの子供たちの大好物なのだ。これを一品入れることで、手抜きの罪悪感が少し軽くなった気がした。
お弁当を作ることから始まる一日は、お弁当箱を洗うことで締めくくられる。嫌いなおかずが入っていた日もあっただろうし、食べたくない日もあったと思う。それでも、いつも空っぽで返ってくるお弁当箱を見ると、次の日のお弁当作りも頑張ろうというモチベーションを保つことができた。
そんな息子も、この春から大学に進学し一人暮らしを始めた。自炊生活を始めてから、家に帰れば温かい食事が準備されていることが、どれほど幸せなことか実感したそうだ。息子から送られてきた夕飯の写真。そこにはちょっと不格好な卵焼きがあった。いつもお弁当で食べていたあの卵焼きの味を思い出しながら作ったそうだ。「見かけは悪いけど美味かった」とメッセージが添えられていた。数日おきに送られてくる夕飯の写真。ある日はカレー。見覚えのある大きなジャガイモに乱切りの人参が入ったチキンカレーだ。私が作ったカレーではないかと見間違えるほどそっくりなカレーだった。また次の日は肉じゃが。盛り付けまでそっくりな肉じゃがだが、煮物の味付けは難しいらしい。料理中の息子から調味料の分量についての質問が届くのだが、経験値で調味料を入れている私も、うまく答えるのが難しかったりする。メイン料理には手作りの味噌汁が添えられている。息子には我が家の味が出せる愛用品の味噌を持たせていた。初めは、味噌の適量がわからず、味噌の分量に四苦八苦していたようだが、今や、具だくさんのうちの味噌汁とそっくりな味噌汁を作れるようになっている。
料理について、何を教えたわけでもないけれど、十八年間食べた我が家の味を思い出し受け継ぎ再現してくれている。離れていても我が家の味で心がつながっている。そんな息子から送られてくる夕飯の写真を見るのが嬉しくもあり、頼もしくもある。料理って素晴らしい。