高校生の頃、小学低学年の子どもたちのリーダーとして数日間一緒にキャンプをするボランティアに参加した。
6人の子どもたちの中で、常に駆け回り、他の子をひっかいては泣かせ、本当にどうしようもない子ザルのような男の子がいた。
言うことも聞かないし、静かに座ってもいられない。とうとう堪り兼ねた私は本気で叱ってしまった。途端に、彼の目からは大きな涙がぽろぽろと・・・。
しゃくりあげて泣く彼をひざの上に乗せて、時間をかけ、ゆっくりゆっくり話をしたところ、数分後、大きな涙をこぼしながら、「オレ、お母さんおらん」。その表情に私も涙を堪えられなかった。
何かの事情で、彼には物心ついた頃からお母さんという存在がなく、お父さんもいつも仕事で忙しい。いつもおばあちゃんの家で過ごしている彼の夏休みの思い出にと、お父さんがそのキャンプに応募してくれたのだ。「寂しかった」と、ずーっと泣いていた。
その夜、ほとんどの班がカレーを作るなか、ふと思いついた私の班は同じ材料で、肉じゃがに変更してみた。
別にカレーでもよかったのだろうけど、「母の味」を彼に作ってあげたかった。最初は「なんで~」と疑問顔の子どもたちも、他の班とは違うということが良かったのか、楽しそうに調理をしてくれた。
一緒に涙を流して思いを吐き出した後の彼はとても素直で、班のみんなと協力して肉じゃがを作っていた。肉じゃがを食べた彼はキラキラの笑顔で「おばあちゃんの味がする!」。何を作っても「母の味」にはならないんだ・・・と後でそのことに気付いたが、本当に幸せそうで、最高に美味しかった。食事中も、お父さんのこと、おばあちゃんのこと、おばあちゃんの料理のこと、たくさんの話をしてくれた。
初日にそんなことがあってから、彼の態度は一転し、みんなとニコニコ。
「キャンプ中はミホがオレのお母さん」と私にべったりの、かわいいかわいい子ザルになった。
楽しかったキャンプを終えて涙でお別れの日。
スーツ姿でお迎えにきた、大好きなお父さんと手をつないで嬉しそうにキラキラ笑顔で手を振ってくれた彼の顔を、私は今でも忘れない。後日、彼から届いた手紙には、「ずっと忘れません」。
あの頃7歳か8歳だった彼は、今はもう社会人としてどこかで頑張っているだろう。彼にとって「母の味」は存在しないのだけれど、キャンプ中の母が作った「おばあちゃんの味の肉じゃが」の夜は、おいしい記憶になってくれているだろうか。