LGBTの人もそうでない人も
みんなが共存できる社会を考えていきたい
山本朋果さん
年齢もセクシュアリティも不問の「成人式」
田中 本日は、LGBTの方々をサポートするReBitというNPO法人で活動する法政大学経営学部経営学科4年生の山本朋果さんに来ていただきました。最初に、現在の活動の内容について教えていただけますか。
山本 ReBitは2009年に早稲田大学の公認学生団体からスタートし、2014年にNPO法人化しています。いろいろな大学の学生が関わり、「LGBTを含めた全ての子どもがありのままの自分で大人になれる社会の実現」という理念のもと、LGBTに関する出張授業や教材開発などを行う教育事業、LGBTも自分らしくはたらくことを目指し、10~20代のLGBTに向けたキャリア開発セミナー等を行うLGBT就活事業、そしてLGBT成人式の3事業を展開しています。私は、2016年度のLGBT成人式事業の代表として、東京を含めた全国10カ所でイベントに関わりました。
田中 ReBitが開催する成人式とはどのようなものですか。
山本 LGBT成人式ということで、LGBTの人が二十歳になった時のための成人式だと思っている方もいるかと思いますが、実は年齢もセクシュアリティも不問。ReBitでは、「成人=成りたい人になること」ととらえ、誰にでも開かれたイベントとしています。これまで、1歳から80歳までの方にご参加いただきました。
今年度の東京会場では世田谷区、世田谷区教育委員会から後援をいただき、1月15日に開催しました。その他の地域では、各地域でLGBTの支援活動をされている団体と協力しコンテンツの提供をしたり、開催にあたってアドバイスをしたりと一緒になって開催しています。
田中 参加した方からはどんな声が寄せられていますか。
山本 今年は鳥取県、佐賀県、茨城県といった人口の少ない県で多く開催したこともあり、「自分の住んでいる場所でLGBT成人式というものが開催されただけでうれしい」「これまで自分と同じ思いを抱えている人と出会える機会がなかったけれど、今回やっと出会えました」という声をたくさんいただきました。また、普段はおしゃれを楽しめていないけれど、この日のためにおしゃれをしてきたと話してくれた方も多くいらっしゃいました。
田中 確かに、自治体などが開催する成人式は、男性は羽織、袴やスーツ、女性は振袖というように、男性らしさ、女性らしさを強調したドレスコードにとらわれがちですよね。
山本 そうなんです。地元の成人式ではドレスコードに後ろめたさを感じて参加できなかったという方が多いようです。その後の同窓会の席でも、まさか自分のパートナーが同性だなんてとても言えない雰囲気だと。まさに、ありのままの自分で大人になれない社会がある。LGBT成人式には、誰もがありのままで大人になれる社会であって欲しい、そんな思いも込められています。
居場所作りから情報発信へつなげる
田中 こうした活動に参加するようになったきっかけは。
山本 LGBTという存在に触れたのは、2015年5月の東京レインボープライドのパレードに参加した時でした。当時私は障がいのある子どもたちとワークショップを行うNPO法人でインターンをしていて、そのNPO法人の方に同じダイバーシティの分野だから一緒に行ってみようと誘われたんです。参加してみると、どこからどう見ても男性にしか見えない、「自分は元女性なんです」とおっしゃる方と知り合ったり、同性同士で仲睦まじく手をつなぐ姿を見たりして、「こういう方は本当にいるんだ」と大きな衝撃を受けました。そして偶然にも、その翌月、ReBitの理事であり法政大学経済学部の先輩でもある方が私の所属するゼミに講演しに来てくれたんです。そこで「全ての子どもがありのままの自分で大人になれる社会を目指す」という理念に心を大きく動かされ、私も何か活動の力になりたいとReBitに参加する決意をしました。
田中 話を聞いて、改めてデモンストレーションは大事だと感じました。LGBTの方の「私たちはここにいるんだ」という主張が山本さんの心にさわった。その意味で、本来のデモの役割を果したんですね。
活動を通じて、生き方、価値観、キャリア観は変わりましたか。
山本 大人になったら結婚して子どもがいて家を買ってというのが当たり前だと思っていましたが、いろいろな方との出会いを通じて、そうした価値観はぜんぜん当たり前のものではないことに気づきました。
田中 違う人と出会って価値観を壊された時に、人は初めて考えるチャンスを得る。そして、思考力が高まり、視野が広がる。大学時代にそういう経験をたくさんして欲しいです。
法政大学内にもLGBTを支援する団体があると聞いたことがあります。
山本 市ヶ谷キャンパスに「Prism」という団体、多摩キャンパスに「ダブルレインボウ」という団体があり、居場所作りに力を入れています。私の所属するReBitは情報発信に力を入れているのですが、実際にLGBTの当事者の声を聞くと、発信活動も大切だけど、居場所を強く求めていると感じます。そのバランスが難しいところです。
田中 ダイバーシティの活動は、最初は居場所が大事。障がい者を支援する団体の方にお話を聞いても、障がい者の方に何かを発表してもらうにしても、仕事に取り組んでもらうにしても、まずは居場所を提供して淡々と見守ることが大事だとおっしゃいます。すると、次第にのびのびと個々の能力を発揮していくようになる。きっと情報発信は、その次の段階なんですよね。社会的な運動体となっていくためには、情報発信は欠かせませんから。
多様性が大学の質を上げる
田中 ReBitにはLGBT当事者の方はどのくらいいらっしゃるんですか。
山本 現在は300名ほどのメンバーがいて、当事者の方は8割です。残りの2割が非当事者なのですが、そういう人の共通点として、誰かに初めてカミングアウトされた体験を持つ人が多いです。
田中 話を聞いて「自分事化」された方たちなんですね。日々当事者の方と接していると違和感なくなりますか。
山本 男性が彼氏と言われても「そうなんだ」という感じだし、元女性だったと言われても「ああそう」という風に普通に受け止められるようになりました。でも、いったんReBitを離れると、LGBTの人もそうでない人も一緒に暮らしているはずなのに、LGBTの存在が見えにくいと感じます。
田中 そういう社会では、LGBTの方は就職の際に困難に直面することになりますよね。
山本 トランスジェンダーであるという理由で内定取り消しになったとか、同性愛者がカミングアウトして就活すべきか悩んでいるといった話も聞きます。ReBitとしても、月に1回キャリアカフェを開き、相談に乗っています。昨年の10月には、ダイバーシティに力を入れている企業12社に集まっていただき、キャリアを考えるイベントも開催しました。
田中 もっと積極的な姿勢を持つ企業が増えて、企業から企業へと広がっていくことを期待したいです。法政大学でも去年「ダイバーシティ宣言」を発表しましたが、他大学でもこうした動きが広がっています。
ところで山本さんはどうして経営学部に進学したのですか。
山本 佐賀県の商業高校時代、ディズニーの経営本を読むうちに経営を本格的に学びたいと思ったんです。先生に相談したところ、商業高校の団体に法政大学経営学部の推薦枠があるから挑戦してみなさいと言ってくださったんです。
田中 大学での学びとNPOでの活動がつながっている部分はありますか。
山本 経営学と直接重なる部分は少ないのですが、ゼミの長岡先生が「学部生はどんどん外に越境していろいろな分野に触れ、自分が直感と好奇心を持ってやりたいと思うことをやりなさい」と背中を押してくれています。
田中 法政大学は、付属校から大学まで、学びの目的を「自由を生き抜く実践知」の獲得、と位置づけています。外に出て活動することが経営とつながるという考え方は、まさに実践知ですね。
卒業後の進路は決まっていますか。
山本 金融の総合職です。ゆくゆくは自分で何かを企画したりマーケティング関係の仕事をしたいと思っています。
田中 マーケティングは、時代によって変わるし、広がるものです。以前は同じような人が多くいれば商品が売れる時代でしたが、これからは国籍や性別で分断するよりも、フレキシビリティーがある方が、動きが生まれて仕事も増える時代です。ダイバーシティと経営はその意味で重要なつながりがあると考えています。
山本 確かにそうですね。納得です。
田中 大学も同じです。同質の学生よりも、多様な学生に入学してほしい。多様性が大学の質を上げるからです。近年、関東以外の学生が減っていますが、多様性が確保できない意味で困ったことだと思っています。一方で多様性に対応する大学側の努力も必要です。具体的に大学としてできることにはどういったことがあると思いますか。
山本 海外の大学のように、開かれたLGBTセンターがあったらいいと思います。誰が来てもよくて、カミングアウトされた側も相談に行ける。個別相談室もあれば、みんなで交流するスペースもある。そういう場があったらすごく素敵だなと思う。あとは、現実問題としてトイレの悩みを聞くので、誰でも使えるトイレが増えたら良いと思います。
田中 可能なことはすぐに実行していきますね。また是非、相談に乗ってください。本日はありがとうございました。
- 特定非営利活動法人ReBit2016年度成人式代表 山本朋果(やまもと ともか)
1994年神奈川県生まれ、佐賀県育ち。佐賀県内の商業高校を卒業後、2013年法政大学経営学部経営学科入学。インクルーシブデザイン関連のNPO法人でのインターンを経て、2015年の東京レインボープライドのパレードや、ReBitの幹部であるOBの話をきっかけにReBitの活動へ参加。2016年にはLGBT成人式の運営代表として、全国10か所でイベントに関わる。2017年4月より、金融業界の総合職として社会人の一歩を踏み出す。
特定非営利活動法人ReBit(http://rebitlgbt.org/)