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自身の競技経験を生かし、スノーボードの専門知識を教えられる
指導者の立場を確立したい

岩渕 麗楽さん岩渕 麗楽さん

小学2年生の時に偶然声を掛けられ競技の世界に

廣瀬 本日は、2022年北京大会にてスノーボード女子ビッグエアで4位に入賞されたスポーツ健康学部3年の岩渕麗楽(いわぶち・れいら)さんをお迎えしました。スノーボードを始めたのは4歳の時だそうで、元々お父様が素質に気づかれたと記事で読んだことがあります。その後、スノーボードを本格的に始めたきっかけはどんなことだったのでしょうか。

岩渕 小学2年生の時に地元のゲレンデで滑っていたら、スノーボードショップの方に「一緒に滑ってみよう」と声を掛けられ、後日その方の所属しているショップに行ったことがきっかけです。お店に集まっていた方々が良い人たちばかりだったので私も通うようになり、大会情報などを教えていただきました。

廣瀬 きっととても上手に滑っていたのでしょう。そこが転換点だったのですね。

岩渕 はい。大きなきっかけでした。そこで紹介され、10歳で出場してみた世界スノーボード連盟主催のU-18世界No.1を決めるアジア予選「インディーパークジャム」という大会で優勝したのを機に今の競技に集中するようになりました。

廣瀬 もう優勝したのですか!それはすごいですね。

岩渕 ありがとうございます。あの時、ショップの方に声かけてもらい本当によかったです。

廣瀬 スノーボードの種目は、岩渕さんがされているスロープスタイルやビッグエアなどいろいろありますが、どれくらいの時期から自分の種目を絞っていくのでしょうか。

岩渕 私は小学校6年生くらいでした。13歳から日本代表チームに入れる年齢基準になるため、中学入学前に決める人が多いです。

廣瀬 全く想像がつかないのですが、中学生で世界を舞台に転戦していくのは、どんな感じなのでしょうか。中学校でのスポーツはほとんど学校単位という印象がありますが、スノーボードは個人種目ですよね。個人で世界レベルの競技をしている人は周りにいましたか。

岩渕 いなかったですね。でも、私にとってスノーボードは小さい頃から生活の一部でしたので、普通の子とは違うとわかっていてもそれを変に感じることはありませんでした。学校に行ける日数が減って皆と話が合わなくなることもありましたが、2018年の平昌大会出場という目標が現実的になってきていたので、ひたすら競技に集中していました。

廣瀬 義務教育の中学校よりも、高校になると成績や出席日数などの要件が厳しくなるかと思います。高校でのバックアップや周囲の理解はどうでしたか。

岩渕 部活にスキー部があったわけではなかったので、なかなか周りに理解してもらうことは難しかったです。でも、高校1年生の時のワールドカップ出場をきっかけに少しずつ理解してもらえるようになりました。その分、長期休みの課題を遠征前に出したり、欠席していた授業の板書を友達に写させてもらいノートを提出したりと、自分なりに休んだ分を補うようにしていました。

廣瀬 ワールドカップで成績を残したことで、先生方も「これは応援しなくては!」と思ってくださったのでしょうね。

岩渕 世界レベルの成績を出せたことは大きかったと思います。平昌大会での試合の時はテストの日程を1日ずらして皆で観戦してもらいました。

引退後のキャリアを見据えて大学進学を決意

廣瀬 ご出身は岩手県の一ノ関ですが、進学先に法政大学を選んだ理由は何だったのでしょう。

岩渕 まず、大学に行こうと思ったのは、競技生活引退後は選手を支えるトレーナーになりたいと思ったからです。というのも、シーズンオフ期間中は、代表チームから課題として課せられていた基準のウエイト(重り)を持ち上げるトレーニングをしなければならないのですが、そこでトレーナーのサポートを受けて基準をクリアすることができたからです。
法政大学を選んだ理由は、たまたま従兄弟が法政の付属校出身で、身近に感じていた法政にスポーツ健康学部があることを知り、入学を決めました。

廣瀬 スポーツが進路の鍵だったのですね。大学ではどんな授業に興味をもたれましたか。

岩渕 正直にいうと、入学後から北京大会まではなかなか学業に集中できませんでしたが、心理学の授業が非常に興味深いと思いました。

廣瀬 スポーツでもメンタル面は重要ですよね。

岩渕 勉強してみて、大会で緊張してしまう理由がわかってきました。メンタル的なフィードバックを自分ですることが大切とは聞いていましたが、これまで実践していませんでした。心理学を履修したことで、自分のメンタルと向き合うきっかけを作ることができました。

廣瀬 2020年、コロナ禍での入学で人間関係を作るのが難しかったのではないですか。

岩渕 1年生の時は健康診断で多摩キャンパスに行ったきりで、それ以外は行かずじまいでした。入学直後のオリエンテーションや、1年遅れで開催された入学式にも出席できず、友達を作るのも授業を組むのも大変でした。夏場のオンライン授業では、練習場所にパソコンを持ち込んで授業を受けました。海外遠征している冬場は時差があるため、夜中に起きて授業を受けました。授業と練習の時間が重なってしまう場合は、練習の合間にゲレンデでスマホのZoomを開き、イヤホンをして授業を受けたこともありました。大変でしたが、オンラインだからこそ授業に参加できたのだと思います。

廣瀬 まさかゲレンデから授業に参加していたとは!きっと先生も喜ぶと思います。ところで、日本と海外のスキー場で雰囲気の違いはありますか。

岩渕 私の印象だと日本のスキー場は若い方が多いと思うのですが、ヨーロッパだと家族連れや年配者も多く、雪が身近で生活の中に根付いている感じがします。

廣瀬 生活とウィンタースポーツが密接につながっているのでしょうね。日常的に世界中を転戦していく競技生活はどのような感じなのでしょうか。夏は南半球に行くのですか。

岩渕 以前は南半球に行くこともありましたが、コロナ禍の渡航制限のため、ここ2年くらいは埼玉県にある人工芝を使った施設で練習しています。

廣瀬 雪のない季節でも人工芝で練習したり、筋トレをしたりしているわけですね。

岩渕 はい。北京大会前はコロナ禍で各国の出入国時の隔離が厳しかったので、ずっと海外に行きっぱなしでした。今シーズンは11月末からほぼ2週間に1回のペースで世界の大会を転戦しました。北京に直結する大会に多めに出ることで、余裕を持って大会基準をクリアできるように動きました。

廣瀬 どこの地域を回ったのですか。

岩渕 12月はアメリカのコロラド、その後はスイスやオーストリアを車で移動しながら回っていました。

廣瀬 2週間に1回のペースで転戦するのは普通のことなのでしょうか。

岩渕 今シーズンは特別です。通常はシーズン序盤や終盤の大会には出ずに調整するのですが、今シーズンは国際大会の参戦基準が変わったこともあり、休める大会がありませんでした。

廣瀬 北京大会でも隔離されている環境で大変だったのではないですか。

岩渕 毎朝PCR検査があり、気軽に他国の選手とも話せませんでした。国際大会では一緒にリフトに乗ったり喋ったりする交流も魅力なのですが、感染予防のため今回は話せても5分程度で、リフトにも一緒に乗らない対策をしていたので、孤独を感じてつらかったです。

廣瀬 それは大変でしたね。一方で、海外遠征では環境に適応する難しさがあると同時に、海外で得られる価値観や刺激もあると思いますがいかがですか。

岩渕 私は現地の人に自分から近づき、いろいろな考え方に触れることを大事にしています。考え方がそれぞれ違うからこそ、外国の方の価値観を学び、日本での生活に生かすチャンスを自分で作っていきたいと思っています。

廣瀬 積極的に自分から動くことによって、思わぬ出会いが生まれることもありますよね。現地の方とのコミュニケーション手段として英語が必要になるかと思いますが、英語はどのように学びましたか。

岩渕 基本的には独学です。外国人のスタッフと積極的に話すようにしたり、憧れの選手に話しかけてみたり一緒に滑るようにしています。自分で英語しか話さない環境を作り、会話をしてみることで自分が話せなかった語彙を見つけています。それをノートに書き留めて、英語に変換して次に積極的に使ってみます。スノーボードの練習でもこれと同じことをしています。自分のできなかったことや弱点を見つけて一つずつ強化することを地道にやっています。

メリハリのある動きで自分のスタイルを追求したい

廣瀬 スノーボードは2014年のソチ大会で公式となった若いフレッシュな競技で、ファンが一気に増えた状態ですが、改めてスノーボードの魅力を教えていただけますか。

岩渕 自分のスタイルや個性が出しやすい、人と変化を付けやすい種目だと思います。私の場合はメリハリのある滑りが好きなので、一つ一つの動きをはっきりさせることを追求しています。スノーボードファンが増え、皆で盛り上がって楽しんでくれたら嬉しいのですが、いきなり選手の真似をするのは危険なので、ゲレンデでは気をつけながら楽しんでほしいですね。

廣瀬 実際に競技を見ていると、人間技とは思えません。あの高さに生身の人間が舞い上がり、それで縦回転、横回転と、見ているだけでは何回転だったのか数えることもできないような技を決めて急斜面に着地をして降りてくる。ゲレンデで普通に滑っている人とは異次元のレベルでの戦いです。普通の人はどうやったらステップアップできるのでしょうか。

岩渕 滑る際はできるだけ知識がある人に練習の段階の踏み方を教えてもらうと、上達も早いと思います。ただスノーボードはスキーと違って歴史が浅く、教えられる人が少ないことが課題となっています。

廣瀬 なるほど。スノーボードは歴史が浅い分、専門的な指導者が少ないのですね。

岩渕 サッカーや野球なら競技に精通した指導者やトレーナーが多くいますが、スノーボードはまだそういう環境にありません。私自身もスノーボード向けのトレーニングはどういうものが効果的なのかわかっていないのが現状です。今後は、自分の競技生活を踏まえ、専門的にアドバイスできるスノーボード指導者の立場を作っていければと思っています。

廣瀬 ご自身のアスリートとしての経験や大学での学びが活きそうですね。

岩渕 専門知識がないから競技で壁にぶつかっても具体的にどう改善したらいいのかわからないというのがこれまでの私の悩みでしたが、今後は学んだことを自分で試せる機会が増えれば良いなと思っています。現在、サッカーの長友佑都選手のトレーナーをされている木場克己さんに飛んでいる時の感覚を細かく説明し、筋肉をどんな風に鍛えるべきかを相談しています。自分にも専門的な知識があればさらに結果につながると思いますので、これからも勉強していきたいと考えています。

廣瀬 今後はどのような予定ですか?

岩渕 4月初旬からスイスでイベントに参加し、その後、オーストリアで契約させてもらっている練習場を拠点に練習する予定です。

廣瀬 忙しい日々が続きそうですね。これからも、スノーボードを通して空の下で体を動かす解放感をみなさんに伝えていってください。本日はありがとうございました。

岩渕 ありがとうございました。


スポーツ健康学部スポーツ健康学科3年 岩渕 麗楽(いわぶち れいら)

2001年岩手県生まれ。一関学院高等学校を経て、2020年本学スポーツ健康学部スポーツ健康学科に入学。4歳からスノーボードを始め、13歳でプロフェッショナル・スノーボーダーに転向し、世界各地の大会に参戦。2017年16歳で全日本スキー連盟(SAJ)スノーボード強化指定選手に選抜され、翌年の平昌大会ではビッグエア 4位入賞。2022年の北京大会では女子スロープスタイルで5位入賞。女子ビッグエアでは大技「トリプルアンダーフリップ」に挑むも着地で転倒し4位入賞となる。昨季までW杯6勝(ビッグエア5勝、スロープスタイル1勝)。


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