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大きな転換期にあるエネルギー問題に取り組む
―求められるのは状況に応じて変化できる力―

小園 典晃さん小園 典晃さん

法政大学で「コミュニケーションスキル」を獲得

廣瀬 本日は法政大学法学部政治学科の卒業生で現在、東芝エネルギーシステムズ株式会社で再生可能エネルギー事業を含め、営業統括責任者をされている小園典晃さんをお迎えしました。小園さんは政治学科の私のゼミ生でしたが、これまで政治学科を志望した理由を聞いたことがありませんでした。最初はそのあたりからお伺いできればと思います。

小園 私は法政大学第二高等学校からの内部進学組で、学部選択の際は数学や化学が好きだったので理系も考えたのですが、親になるべく学費の負担をかけたくないと思い、当時文系で一番偏差値の高かった法学部政治学科に進学しました。入学当初は政治学や憲法などはとっつきにくかったのですが、勉強していくと民主主義の根幹にふれた実感があり面白い学問でした。

廣瀬 小園さんが在籍していた90年代初めですと、学会の長老的存在だった松下圭一先生や政治思想史で著名な藤田省三先生がいらして、国際政治学の下斗米伸夫先生も着任された頃ですね。当時は冷戦終焉の時期で、小園さんの卒業直後にゴルバチョフが幽閉されてクーデター未遂があり、エリツィンが出てきてソ連が崩壊するという激動の時代でした。

小園 廣瀬先生の平和・軍事研究のゼミで、東西冷戦を前提にアメリカのミサイル防衛構想についての卒論を書いたのですが、卒業直後に冷戦が終わり、「一体何のために勉強したんだろう」と思ったこともありました。しかし、今となっては昨今のウクライナ情勢も含めて、やはり歴史は繰り返すではありませんが、当時得た多くの知見が役立っていると感じています。

廣瀬 私のゼミは87年度から始まり、冷戦下での日本の防衛政策やシビリアンコントロールなどを研究領域にしていました。日々世界は良い方向へ変わっていく感じがあった一方、複数の民族が共存しているのが当たり前だった地域で暴力的な排除行動が横行する時代でもありましたね。小園さんは学生時代を振り返っていかがですか。

小園 この先、あの時代を超える日は来ないだろうと思うほど、今までの人生の中で一番輝いていました。とにかくいろいろな人と交わる濃い4年間で、飯田橋の喫茶店でアルバイトしたり、神楽坂に繰り出したり、とにかく楽しい学生生活でした。ゼミも楽しく、廣瀬先生をはじめ、気さくで明るい仲間が多かったです。東芝に入社し、営業の仕事を担当して、お客様に対してはもちろんのこと、社内に対してもオーケストラの指揮者のような多方面での調整が求められた際は、法政大学で自然と身につけた多様な人たちとコミュニケーションを取るスキルが大いに生きました。

廣瀬 どのような経緯で東芝を就職先に選ばれたのですか。

小園 就職活動をしていた1991年当時は、バブルの名残で給料の良い金融系に進む友人が多かったのですが、私は実家がケーキ屋を経営していたこともあり、自分で何かを作り出し、そこに付加価値をつける仕事で社会に貢献したいと思ったんです。日本の製造業がまだ強い時代で、魅力的な会社が多くある中、東芝は当時から特にエネルギーに力を入れており、「世の中で確実になくならないものは電気だ」と思っていたため、大変やりがいもありそうで魅力的に感じました。また、自営業で苦労している親を見て「安定した会社に入りたい」という気持ちもあって、東芝への入社を希望しました。当時約2000人もの同期入社の中で法政大学出身者が最も多く、誇らしかった覚えがあります。

エネルギー業界は大きな転換期にある

廣瀬 入社後は営業畑を進まれたのですね。

小園 30代半ばまで、東京電力様の電力流通システムに収める機器の営業をやっていました。40代前半で営業部長になった時に東日本大震災が起き、福島第一原子力発電所に外部電源から電気を送る機材を取り扱う業務を担いました。当時は24時間体制で徹夜の日々が続き、髪の毛が2、3日で真っ白になりました。

廣瀬 大変な経験をされましたね。その後、国のエネルギー政策も変化しました。

小園 福島の事故を機に、日本は、原子力の代わりに火力発電に注力しましたが、ヨーロッパやアメリカは再生可能エネルギーに舵を切りました。そのため日本は欧米に比べ再生可能エネルギーの分野で、10年も遅れをとってしまいました。東芝は10年前から太陽光発電事業をスタートし、その後、太陽光だけでは限界があるということで、FIT(固定価格買取制度)の追い風もあり、風力や水力、地熱、VPP(仮想発電所)などの再エネ事業の加速、また、基幹電源である原子力やCO2を減らす火力発電、それらの電気を送る送変電、原子力の技術を活用した重粒子線がん治療装置、カーボンをキャッチし利活用する技術など、カーボンニュートラル社会に向けた開発に取り組んでいます。現在、私はこれら全てのエネルギー事業に関わる営業統括責任者をしています。


世界最大規模のVPP事業者ネクストクラフトベルケ社(ドイツ)と提携合意した際の写真

廣瀬 世の中のトレンドでいうと、電力会社が自社の発電所で作った電力を自らの送電配電網で安定的に消費者に供給していくための独占事業という形から、発電送電配電が機能的に分離可能となり、競争原理が働くシステムになったことで最新のテクノロジーを使った効率的な運用が世界的に始まっています。電力会社から供給を受けながらも、企業や家庭が太陽光パネルを設置するなどして自らも発電し、自ら消費しない分は電力会社に売るといった、こうした電力システムの変化をどのように見ていますか。

小園 システムが変化した要因は、再生可能エネルギーといわれる太陽光、風力、地熱、蓄電池などの分散型電源の普及です。ただ、電気の潮流が変わると制御が非常に難しいんです。電気を作った時に同じ量を使わなければならないことを「同時同量」と呼びますが、そのバランスが崩れると最悪の場合は全域で停電するブラックアウトが起きてしまいます。社会的コストを上げずに電力のネットワークをどうつないでいくかが大きな課題です。現在、日本の再生可能エネルギーの割合は20%強ですが、2030年には38%、2050年には50〜60%を達成しなければ社会は成り立たない時代となります。新しい産業革命といわれるカーボンニュートラルの世界は面白くもあり、非常に難しい挑戦でもあります。

廣瀬 営業担当者としては相当理系的な知識が必要でしょうね。

小園 理系出身の営業もいますが、当社では比較的文系出身者が営業をやっています。東芝はOJTや勉強会などの教育カリキュラムが充実しており、私はそこで社会インフラを支える責任感を叩き込まれました。そうすることで、必然的に技術や理系的な内容も一生懸命勉強をするようになりました。

廣瀬 文系出身者でも、データサイエンスやAIは避けて通れない時代です。

小園 当社もシステムエンジニアに文系出身者がおります。実際に文系の人間がそういう分野で活躍していますので、文系の学生さんも可能性を狭めることなく、データサイエンスやAIの知識習得にも前向きに取り組んでほしいですね。次のエネルギーやそれを支えるテクノロジー、エネルギーの新しい共有方法などを、若い人たちが理系文系問わず積極的に取り組んでくれることを期待しています。

これからの時代に英語力とリベラルアーツは必須

廣瀬 現在大学で学ぶ後輩へのアドバイスをお願いします。

小園 特に勉強してほしいのは、英語とリベラルアーツです。グローバル化が進んだビジネスの世界では英語が話せないと仕事になりません。リベラルアーツを学んでほしい理由は、多様性の時代において取引相手の国の価値観を理解しなければビジネスが成り立たないこともありますし、日本のことも的確に伝えないと信用されないからです。また、日本人の「和をもって尊しとなす」という精神は悪い意味で使われることもありますが、今の世の中で求められている価値観だと感じています。私は外国の方から「日本人は白黒つけるのではなく、灰色も受け止めてしなやかにビジネスを推進させる」とよく言われます。カーボンニュートラルのような世界中が協力すべき課題において、こうした日本人の特性は大いに生きると思っています。

廣瀬 行政学者として少し補足すると、上からの強制力で解決した時代もかつてはありましたが、SDGsのような今日的課題においては、どんなに政府が号令をかけて強制したりインセンティブで誘導しようとしても、皆が納得し自発的に行動を変えなければ満足できる結果にはつながりません。エネルギー問題はまさにそれを象徴しており、うまく解決しなければ人類みんなで不幸になるという地点に我々は立ち会っているのだと思います。

小園 入社した頃はカーボンニュートラルの時代が来るなんて夢にも思っていませんでしたが、社会がものすごい速さで変わっていることを実感しています。変化が激しい社会が決して良いとは言えませんが、これからはそこに耐えて変化できる能力が求められていく時代になるでしょう。では、どのようにその力をつけるかというと、やはりコミュニケーション能力ということになると思います。今はSNSも普及してコロナもあり、閉じこもりがちな世の中ですが、学生の皆さんには対面でのコミュニケーションを面倒がらずに能力を磨いていってほしいです。

廣瀬 閉じこもってばかりいたら、「この人を何とか花開かせてやりたい」と思う人とも出会えませんし、一人で考えていると自分の考えの縮小再生産のサイクルにしか入りません。やっぱり人からいろいろな刺激をもらって、発見があって初めて自分の頭の中も発展していくと思います。

小園 我々も日々仕事をしていて、もっと早く相談しておけばよかったといつも思います。一言誰かに話しただけで、良いアイデアが出てくる。やっぱりコミュニケーションは本当に大事です。

廣瀬 最後に、大学に期待することについて聞かせてください。大学は研究機関として社会に貢献する役割もありますが、教育機関として社会に対する啓発や人材育成をする責任も担っています。エネルギーの観点では、本学も現在SDGsやカーボンニュートラルを大きな課題と考えています。一面では大口需要者として全館で冷暖房、エレベーター、エスカレーターを活用し、大学運営に関わるICTも多くの電力に支えられています。一方、省エネルギーの社会的要請に対しては研究や学生の意識変容という形で応えていきたい。現在、ビジネスを通して社会課題の解決を目指している立場から、こんな大学であってほしいと思うことはありますか。

小園 大学は電力消費量が非常に多く、社会的影響も大きな組織ですので、とことん省エネ、再エネへのご尽力をお願いしたいと考えています。社会課題の解決に関しては、大学という社会に対して第三者的な知見を持つ存在は非常に重要であり、人びとに向けたメッセージ力もありますので、是非ともエネルギーのあり方を考える視点を提供していただきたい。特に法政大学出身者として、法政大学には世の中から求められる大学であり続けてほしいと思っています。

廣瀬 いただいた意見も今後に活かしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

小園 ありがとうございました。


東芝エネルギーシステムズ株式会社 取締役 小園 典晃(こぞの のりあき)

1968年東京都生まれ。1991年法政大学法学部政治学科卒業。同年、株式会社東芝に入社。電力流通営業部長などを歴任し、2017年10月から東芝エネルギーシステムズ株式会社。2020年1月、取締役に就任。2022年6月から取締役(社長補佐、国内営業統括部担当、海外営業統括部担当、支社担当)営業統括責任者、現在に至る。一般社団法人再生可能エネルギー長期安定電源推進協会理事、一般社団法人太陽光発電協会理事を務める。


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