自ら学び、全力を尽くしてチャレンジしよう
それが、「自立的実行力」につながっていく。
株式会社カルビー代表取締役社長 兼COO 伊藤 秀二
伊藤秀二さん
従業員全員が"自立的実行力"を持てる会社へ
カルビーは、2011年3月に東証1部上場を果たすとともに、数期にわたり増収増益を達成しています。もともと商品と人材という資源において、高いパフォーマンスを持っていましたので、2009年6月に社長に就任して以来、それをいかに最大限に引き出すか。常にそのための取り組みを考え、実践してきました。そして、そのひとつとして「自立的実行力」を身につけようというメッセージを社内に発信しました。もともと「実行力」のある会社ではありましたが、「自立的」であることがより重要であるということを伝えたかったからです。社員に「自立的実行力」をつけてもらうためには、思い切って会社側も変わる必要がありました。そのキーワードが「簡素化」「透明化」「分権化」です。これらが進まないと、従業員は自立的には動けません。
こうした改革は、カルビー会長兼CEOの松本とともに取り組んでまいりました。CEOとCOO、会長と社長の役割分担がうまくできていると自負しています。経営の上では、言葉で分権化を言うだけではなく、実態を伴う仕組みができるかどうかが重要です。例えば社長と執行役員の間では、年度の初めに面接をし、今期の計画を契約します。一度決めたら、毎月の業績報告などの合議はありません。そうすれば、受け側が分権されていくのです。本気で分権していくという意思を、上の方からだんだん伝えていくことで、社員は自分で考えた上で実行し、結果の責任をとっていくという流れができあがるのです。
よって、いま、カルビーが成長を続けているのは、もともと高いパフォーマンスを備えていた商品や人の「成長」が続いているためなのです。
「ダイバーシティ」は会社を成長させていく
もうひとつ、当社が力を入れているのがダイバーシティへの取り組みです。企業や個人が、人間の多様性をどう認めるか。それがダイバーシティの本質的な意味なのですが、生産や営業の現場で私が「なぜ女性の課長が少ないのか?」とプレッシャーをかけると、「なぜ社長は増やしたいのですか?」と問われます。答えはごく単純で、働いている男女比が6:4なら、その比率で女性も課長に上がるのが普通でしょう。しかし、実際そうなっていないのは、男性が働きやすい仕組みやルールができあがっているからで、そうした男性が作っている暗黙のルールや評価があるうちは、ダイバーシティは理解されません。そもそも、カルビーの製品の購入決定者の多くは女性で、そこに向けたビジネスであるにもかかわらず、男性ばかりが中心になっているのはおかしいと思うのです。
若い世代では、男女間で平等に役割を分担している人も多いと思います。会社の役職だけが違うのはおかしいと思います。体力的に重いものを持てないといった現実的なことはありますが、多様性によって仕事は分業されているものです。管理職も一つの役割なのです。分業して平等にやっていく方が、いろいろなものを取り入れて改良する機会が増えてきます。それによって組織が強くなっていくのではないでしょうか。
留学生の採用も、進めています。留学生の場合、「自分はこうしたい」という強さは、日本人学生よりもはるか上のように思います。良い悪いではなく、日本人は、主張が強すぎるのをさける傾向にあるかもしれません。「何年かしたらこういうことをしたい」という思いを明確にしないといけません。このように多様な人々が交わることで相互作用をもたらすことは重要なことだと考えています。
滋賀の工場では別会社を作って、障がい者が働く工場もあります。会社の成長戦略とは別に、社会に貢献すること、ダイバーシティを進めていかないと世の中には認められないし、企業として成長できなくなってしまうと考えています。
社員に社会との関係を考えてもらいたい
カルビーは、「ダイバーシティ・フォーラム」を毎年開催し、その意味を社員に説明しています。一方で、「社会貢献委員会」を組織して、個人が社会とどうつながっているかを伝えています。カルビーらしく、食育というテーマを含め、地域での活動、ボランティア活動をどう積極的にすすめるか。企業としてのCSR活動も定着しています。特に重視しているのが実経験です。会社の事業が世の中に貢献するためには、商品を通してだけではなく、社員自身の位置づけとともにあるべきだと考えています。ボランティアを行うと気持ちがいい、というような実経験を通じて、社会に向き合う個人的な感覚が芽生えてきます。よりよい商品を作って売ることが、ごく自然な社会と自分との関係なのだと、実経験と共に理解が積み重なっていくのです。
私自身も、1年間の2%である7日を社会貢献活動に使っています。社内イベントへの参加や、被災地のボランティア、さらには森林活動などの地域行事への参加などで7日費やします。お金だけでなく、実活動を通じて、自分が社会とどう関わるのか。私もやりながら考えていくから皆さんもやろう、という姿勢を続けていきたいと思います。こうした活動を積み重ねていくことが、必ず企業活動によい影響を与えていくことになると信じています。
食育の授業は、小学生を対象に行っているので、子どもから親に伝わっていると思います。ところが、就職間近の高校生や大学生に対しては、食に関わる仕事やビジネスの実態が伝わっていないと感じています。例えば、ポテトチップスはジャガイモから作りますが、どこでジャガイモがとれて、どんなふうに出荷され、工場で加工され、流通に乗っていくかというプロセスが意外と知られていません。パッケージやコマーシャル、価格のことしか知られていない、というのは残念ですね。知ればおもしろくて、その仕事にかかわってみよう、という気になるはずですので、これは今後の課題だと思っています。
日本にはエネルギー系の資源はあまりありませんが、食資源は十分あります。みんなが興味をもてば、勉強をする人が増えてくるはずです。現在、日本の馬鈴薯の品種研究のために、北海道のある大学と共同研究していますが、製造の過程を見た上で、それぞれに専門領域に入ってもらえれば、仕事に対するやりがいや考え方も変わるのではないでしょうか。研究に加えて、本質的な専門選び、職業選びのきっかけづくりをしたいという意味でも、今後は産学連携にも積極的に取り組んでいきたいと思います。
原点は法政大学で学んだマーケティング学
法政大学では経営学部で学びました。特に興味をもったのはマーケティング。体系的に学ぶことは、すごくおもしろかったですね。会社に入ってすぐにマーケティングの知識は活用できなかったのですが、20数年たってマーケティング本部長になることができました。また、30代になって現場の仕事を回った後で、社内の「カルビービジネススクール」でマネジメントコースを受講。マーケティングや経営管理など、1年間受講し、過去にかじったものをもう1度学び直したのですが、実務を経験した後だから、全く違う体験となりました。そうした経験からも、社会人になってからの学び直しはとても大切だと実感しています。
私は社内のほとんどの部門を2年ほどのサイクルで経験してきました。通常の業務だけでなく、様々なプロジェクトにメンバーとして参加したことは、自分にとって大きなプラスになりました。こうしたすべての経験で多くの上司や部下、社内外のトップクラスの方々、そして異業種の方々と一緒に仕事をしてきました。こうした人たちとの信頼関係を構築していくために試行錯誤する上で、ゼロベースからの勉強を自分の力で最大限やってきた経験は大きかったと思いますし、それが今につながっていると思っています。
最近の大学生は、自ら学んで、自分でやってみよう、全力を尽くしてみよう、というところになかなか辿り着かないようです。学生だけではなく社会全般的に、情報を取ることには必死なのに、それだけで満足してしまう傾向が強いですね。近年気になるのは、若い社員が配属先などを気にし過ぎることです。周りの変化や決まってしまった事柄など、重要でないことにはあまりくよくよせず、むしろ「そこで自分が何をして、それを将来にどうつなげるのか」が大事です。情報を取って分析して現状を認識することも必要ですが、そこだけにエネルギーを費やすのではなく、自分はこれからどうしていこう、ということを考えないといけません。それが「自立的な実行力」につながるのだと思います。
大学教育でも実務的な経験を提供することができたらいいなと思います。日本では「勉強と仕事は違う」というスタンスがあるように感じます。大学にはこの壁を破ってほしいですね。現在の日本では、まだまだ、勉強は勉強、という教え方を、大学に入る前に徹底して経験し続け、その感覚が抜けきれない間に大学に入ってしまう。社会に出る前に、自分で考えて行動していく力を身につけられるような工夫をしていくことを各教育機関は考えていくべきであると思います。暗記だけでない、答えが1個しかない授業の比率をできるだけ下げて、自分でどう考えていけるか。自分の意見、正解のない答えをどう考えて伝えるのか。これからの時代の大学教育にはこうした力を育成する役割を期待しています。
- カルビー(株)代表取締役社長兼COO 伊藤秀二(いとうしゅうじ)
カルビー(株)代表取締役社長兼COO。法政大学経営学部卒業後、1979年にカルビー(株) 入社。 1999年関東事業部長。2002年執行役員(消費者部門担当)。 2005年取締役常務執行役員。2008年取締役常務執行役員CMOマーケティンググループコントローラー。2009年代表取締役社長兼COO就任、現在に至る。