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「好き!」「面白い!」という気持ちは大きな力となり自分を支えてくれる

村上 なつみさん村上 なつみさん

部活中止を期待し、天気予報ばかり気にしていた中学時代

廣瀬 本日は法政大学文学部地理学科に在籍し、気象予報士としてテレビ番組でも活躍されている村上なつみさんをお迎えしました。まずは、天気に興味を持つようになったきっかけを教えてください。

村上 きっかけは中学時代のテニス部での経験でした。私は練習が好きではなかったため、雨が降って中止になることを期待し、天気予報を人一倍熱心に見ていました。ところが毎日見るうちに日々の天気は一つとして同じではないことに気づき、徐々に天気に魅了されるようになったのです。そこで、気象予報士という国家資格を知り、「どうせやるならプロに」と本格的に勉強を始めました。何事もカタチにしたいタイプで、理科や天気が好きだったので、気象予報士を取るしかない、と。

廣瀬 なるほど。思わぬきっかけからやりたいことにつながっていったのですね。その後は法政大学第二高等学校に進学されました。

村上 気象が学べる大学は限られているなか、付属校があって自宅から通いやすい法政大学を志望し、その付属校の中で法政二高が一番合うと思い進学しました。気象予報士の試験は難易度が高く準備に時間がかかるため、あえて大学受験は避け、高校から気象予報士試験に合格するための準備を始めました。高校から勉強を始めれば、すぐに夢に届くのではないかと思ったのです。

廣瀬 気象予報士の試験は難関ですよね。NHKの連続テレビ小説「おかえりモネ」でも、現象だけではなく原理に遡ったハードな内容を勉強していました。私も参考に受験要項を取り寄せてみましたが、相当専門的な内容でした。村上さんはどのように勉強されましたか。

村上 週に一度専門の学校に通って基礎を固めてから、家庭教師の方に教わりました。独りよがりの勉強にならないよう、誰かの目の届く所で勉強することを意識しました。

廣瀬 大学は文学部地理学科に進学されました。文学部地理学科は一般的には文系に分類されますが、一方気象予報士試験は理系の内容が多く含まれています。村上さんはどのように進路を選択されたのでしょうか。

村上 私は文系、理系にとらわれず興味のある気象学の分野を学びたいと思い、地理学科を選びました。進路選択の場面では文系、理系と分けられることが多いですが、自分の好きなことや興味のあることを学びたいという思いが一番大事なのではないかと思います。

廣瀬 文系や理系に関わらず、自分の学びたいことがある道に進まれたのですね。法政の地理学科は、地球物理学や人文科学が重なる領域を様々な角度から学ぶのでしょうか。

村上 はい。4年生になると専門に分かれますが、1、2年生の段階では幅広く学びながら自分が何を面白いと感じるのかを考えていきます。私が雲を見て面白いと思うように、地層を見て素敵だと思う人もいる。同じゼミでも関心分野は違いますし、学びの幅は本当に広いです。この世の学問は哲学から始まり、次が地理学だったと言われているそうです。それは、地理学が全ての学問に関わるからで、例えば文学にも天気や自然の要素がありますし、理系では建築、地形にもつながる。将来もしもやりたいことが変わっても、根底に地理学の知見があれば何らかの形で生かせるのではないかと感じています。

廣瀬 私の家族は環境問題に関心を持っていて、毎年地域の川の水質調査に参加しています。その際自分たちの受け持ちのポイントで水を採るのですが、ある時「この水はどこに行くのですか」と世話役の人に聞いてみたら、法政大学の地理学科から大学院生が取りに来ると知り、驚いたと聞きました。

村上 私も実際に授業で川に水を採りに行って分析しました。

廣瀬 昔ながらの手動の測量もやるそうですね。

村上 はい。何メートル何センチと書かれたポールを立てて、アナログの原点みたいな測量をやります。測量の原理を学ぶもので実用性はないかもしれませんが、面白かったです。

廣瀬 市ケ谷キャンパスは高低差があって建物の周りを回って戻ってきても結構ずれているそうですね。

村上 そうなんです。本当に難しくてなかなか合わないんです。

廣瀬 江戸時代に伊能忠敬が全国を歩いて測量し、今から見ても極めて精度の高い地図を作った話も学ばれましたか。

村上 はい。高校3年生の時に各学科の進学予定者でフィールドワークをしました。私は伊能忠敬のことを調べ、浅草にお墓参りにも行きました。伊能忠敬は本当に地図が好きだったんだと感じます。何かが好きとか面白いという気持ちは今も昔も変わらないなと思います。

天気を好きになって、生活に生かしてもらいたい

廣瀬 在学中に気象予報士の資格を取られて、現在日本テレビ「news zero」にお天気キャスターとしてレギュラー出演されています。どのような経緯で決まったのですか。

村上 所属している事務所から「資格を生かす場として番組のオーディションを受けてみたら」と声をかけていただき、「熱心で思いが強かった」と採用していただきました。気象予報士で実際に資格を生かせる人は少なく、メディアなどに出る人は1割もいないそうです。私は多くの人に天気を好きになってもらい生活に生かしてもらいたいという気持ちが強かったので、ありがたい機会をいただいたと感じています。

廣瀬 最近は極端な気象が増え、命を守るための注意を呼びかける場面も多いかと思います。どんな思いであの場に立たれているのですか。

村上 大きな責任を感じています。特に梅雨の時期から秋にかけては災害が起きやすいので身を引き締めて臨んでいますが、予報の精度にしても伝え方にしても「もっとこうできたかもしれない」という後悔の念が常につきまとっています。

廣瀬 視聴者側としては、気象庁がカバーする範囲と番組の気象予報士が担当する範囲の違いが見えにくいのですが、実際はどうなのでしょうか。

村上 気象庁はあくまで専門的な情報提供を行い、その難しい情報をわかりやすく解説、ある意味で翻訳するのが予報士やメディアの役目です。実際の番組では、別のベテランの予報士や、気象庁の情報を元に視聴者に伝えるべき内容を選んでくださる記者の方々と相談して発信しています。

廣瀬 最近は気象庁も「これまで経験したことがない」「命を守る行動」といった感性に訴える表現をされていて、メディアと気象庁の役割は重なってきているようにも感じます。

村上 そうですよね。こうした気象庁の情報に基づき、音と映像を活用することでよりリアルに実感できる情報を発信することがこれからのメディアの役割になると思います。

廣瀬 お天気キャスターは3年目ということですが、初めの頃とは変わりましたか。

村上 最初はカメラ前で話すので精一杯でしたが、今は、災害報道時の表現方法の提案をしたり、大学生の目線を取り入れて若者に伝わりやすい表現を使ったり、見えない部分でも貢献できるようになりました。

廣瀬 若者に伝わりやすい表現とは例えばどんなことでしょうか。

村上 例えば強い雨を伝える際に、ズボンが濡れる程度なのか、傘が役立たない程度なのかという具体的な情報を入れることです。また、天気の捉え方は人それぞれで、私たちにとっては、晴れは良い天気かもしれませんが、農家の方や傘屋の方の立場から考えると雨の方が良い天気にもなる。ですから「良い」「悪い」といった人によって捉え方が異なる表現は使わず、全ての人が「そうだよね」と思える表現を心がけています。

廣瀬 番組の中で、「小春日和」といった季節に関わる伝統的な言葉の解説をされています。あれはご自分で提案されているのでしょうか。

村上 ほとんど私が考えています。実はオーディションの時から天気に関わる豆知識のコーナーを提案していました。今の天気予報は86パーセント程度しか当たらないと言われているなか、もしもの差し迫った状況で逃げるか逃げないかの判断をするのは個人です。でも、知識がないとその判断はできません。知識を持ってもらうためには、まず天気に興味を持って好きになってもらい、そこから詳しくなってもらうことが必要だと思い、その第一歩となるような企画を考えました。

廣瀬 やはりそうでしたか。いかにも文学部地理学科らしさが出ていると思って拝見しています。

気象学は唯一、科学的に未来を予測できる方法

廣瀬 近年の気候変動や異常気象を気象予報士の立場からどのようにご覧になっていますか。

村上 多くの方が極端な気象現象に関心を持っていることは良い傾向だと思う一方で、行動へ1歩踏み出すにはまだハードルが高い現状があります。興味、関心の段階はある程度クリアできているので、次のステップとして行動のために必要な情報を入手する手段がもっと増えてほしいなと思っています。

廣瀬 例えば「設定温度を1度下げよう」という話と「豪雨」の因果関係は確かに見えにくいですよね。

村上 そうなんです。実際に温暖化が極端な雨につながることは、天気に興味がない人はなかなか想像できません。

廣瀬 1億人の行動が変われば大きなインパクトになるでしょうが、1人の行動はものすごく小さいので「まあいいか」ということにもなる。

村上 そういうことに対しては、例えば1度設定温度を下げればこういう風に良くもなるし、逆にこういう風に悪くもなるといった具体的なイメージが皆の行動を変えるためには大切だと感じています。また、全体で考えると、温暖化の進行を阻止することと雨に強い環境作りの両方が必要になると思います。

廣瀬 改めて、村上さんが感じている気象学の面白さを教えてください。

村上 気象学は唯一、科学的に未来を予測できる方法であることに魅力を感じています。見えない未来を予測し、かつ翌日に答え合わせができるのは大変面白く自分の性格にも合っていると思います。しかも、全ての人の生活に関わり、使い方次第で大いに役立つことができる。どんどんアップデートされて精度も上がり、日々勉強ができるのも魅力です。

廣瀬 例えば気象大学校のような場ではなく法政大学で気象学を学ぶ意味について感じていることはありますか。

村上 様々な領域と関連させて気象学を深められる点が大きいと思っています。私自身は気象の変化によって衣服がどのように変化するかを調べて卒論にまとめています。

廣瀬 面白そうなテーマですね。

村上 服が好きで仕事にも生かせると思ってテーマにしました。よく「半袖日和」とか「長袖がちょうどいい」といったコメントがありますが、実はあれは明確な基準があるわけではなく、気象予報士の裁量で言っているものなのです。もしも私の研究で何らかの基準が見えて、今後こうした研究が深まっていけばとても嬉しいです。

廣瀬 よく調べればモデル化できると思いますので是非頑張ってください。最後に、これから自らの関心に向かって進路を選んでいく人たちに向けたメッセージをお願いします。

村上 最初の出合いで感じた「好き!」とか「面白い!」という気持ちは何にも変えられない大きな力になると、まだ22年しか生きていませんが強く感じています。私も仕事でどんなに「大変だな」「辛いな」と思っても、根底で「お天気が好き!」という思いがあればどんなことでも乗り越えられると実感しています。だから皆さんにも、文系や理系という枠組みにとらわれることなく、その気持ちをずっと貫き続けてほしいと思います。

廣瀬 本日はありがとうございました。今後もご活躍を期待しています。

村上 ありがとうございました。


文学部地理学科4年 村上 なつみ(むらかみ なつみ)

2000年東京都生まれ。法政大学第二高等学校卒業後、2019年法政大学文学部地理学科に入学。高校生の時から気象予報士試験の勉強を始め、2020年3月に6回目の挑戦で合格。同年10月から日本テレビ系報道番組「news zero」の天気予報コーナーのキャスターを務める。学業の傍らキャスターとしてテレビ・ラジオ等で活躍中。